Anthropological Science (Japanese Series)
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総説
ゲノム科学と人類学
―世界の動向と今後の展望―
太田 博樹
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2007 年 115 巻 2 号 p. 73-83

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抄録

現在100種を上回る生物種で全ゲノム塩基配列決定が進行中もしくは完了し,『ゲノム博物学』といった様相を呈している。ヒト近縁種については,ヒト,チンパンジー,マカクの全ゲノム・ドラフト配列が発表され,これらゲノム情報の種間比較により分子レベルから人類進化へアプローチする研究は10年前に比べ格段に容易となった。ゲノムワイドの種内比較研究もヒトで最も進んでおり,国際HapMapプロジェクトが組織され,3大陸(アフリカ,ヨーロッパ,アジア)人類集団から百万個以上のDNA多型マーカーが同定された。各生物種の全ゲノム配列やヒト多型データは,データベースが整備されインターネットを介して容易に入手できる。こうしたゲノム科学の進展は「ヒト」および「人」に関わるあらゆる学問,産業,思想に革命的なインパクトを与えることが予想され,既にそうなりつつある。産業との関連においては,シークエンスやタイピングの効率の向上に重きが置かれがちだが,データ解釈の正確さを忘れない姿勢が科学者のあるべき姿であろう。この点において人類学的視点をゲノム科学へフィードバックする重要性が今後さらに増すに違いない。本稿では,ゲノム科学をめぐる世界的動向を概説し,ゲノム科学と人類学の関わりについて議論する。

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© 2007 日本人類学会
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