マツダは3列シートSUV(多目的スポーツ車)「CX-8」の予約受注を始めた。北米専用の大型SUV「CX-9」をベースに、日本の駐車場などの大きさに合わせてサイズを変更。国内SUVの最上位車種として売り出す。一方、同じ3列シートの「プレマシー」などミニバンの生産は今年度内に終える計画。年間わずか3万台程度とされる3列SUV市場 に参入し、20倍以上の規模を持つミニバン市場から撤退する。決断の背景には、マツダが積み上げてきた生産改革がある。
「新たな市場をつくりたい」と小飼雅道社長は意気込む
「新たな市場をつくりたい」と小飼雅道社長は意気込む

 「3列シートSUVはまだ大きい市場ではないが、この車で需要喚起をしていきたい」。9月14日、主に日本での販売を想定したSUV「CX-8」の予約受注開始を発表する記者会見で、マツダの小飼雅道社長はこう強調した。

 CX-8は3列シートの7人乗りSUVで、発売は12月14日。価格は319万6800円からだ。開発責任者、松岡英樹氏は「ターゲットの年齢や世帯構成を事前に想定していない。マツダの価値観に共感してもらえる人が想定顧客だ」と、マツダのファン層拡大に自信を見せる。実際、CX-8の購入を検討している消費者には、独アウディなど高級車メーカーからの乗り換えを検討している人も多いという。

 もっとも、国内の3列シートのSUV市場はそれほど大きくない。マツダの推定では月間3000台程度。CX-8の販売目標は月1200台だから、市場シェアという観点から見れば、意欲的な目標にも見えなくもないが、2016年で約82万台あった国内のミニバン(セミキャブワゴン)市場と比べれば、その差は歴然だ。

 ミニバン市場は00年代までのブームは収束したとはいえ、今も前年実績を上回るペースで伸びている。ホンダの「フリード」や日産自動車の「セレナ」など人気車種の新型車も相次ぎ、今年1~8月は前年同期比26%増だ。

 そんな「成長市場」をマツダは見限る。CX-8の予約開始を受け、主力ミニバン「プレマシー」を今年度中に、上位車種の「ビアンテ」は9月内で生産を終える。かつての代表格だった「MPV」はすでに昨年4月に生産をやめている。

 スライドドアの機能や価格などのミニバンの優位性を捨ててでも、CX-8に注力する理由は何なのか。

モノづくり革新の仲間外れだったミニバン

CX-8は日本の大型SUV市場のカンフル剤になるか
CX-8は日本の大型SUV市場のカンフル剤になるか

 マツダのミニバンの販売台数からその答えは見えてくる。プレマシー、ビアンテの年間販売台数はそれぞれ、1万1000台と4200台。直近のピークの6分の1~3分の1にまで落ち込んでいる。プレマシーは10年以降、ビアンテは08年以降新型車を投入していないので、競争力がなくなるのは当然のことだ。マツダは長期間、ミニバンの撤退時期を見極めようとしてきたのだ。

 「ミニバンのような他社と同じ土俵に乗っていたら、マツダの生産規模では生き残れない」(ブランド推進部の高場武一郎主幹)。1000万台規模の販売台数を誇るグループが誕生する中、トヨタ自動車との資本提携を決めたとはいえ150万台規模にとどまるマツダが生き残りを図るには、独自のブランドを確立するしかない。中国などの成長市場で人気の高いSUVに注力するのはその一端だ。

 ブランド戦略だけではなく、大きな効果が生産現場でも期待できる。マツダは06年以降、生産効率を高める「モノ造り革新」に取り組んできた。その柱が、5〜10年後のモデル構成を想定して同時並行で商品企画に取り組む「一括企画」だ。

 他メーカーと同じように部品を共通化するだけに止まらず、生産器具も共通化してサイズが違う車種でも1本のラインで生産できるようにした。設備投資を抑えるだけでなく、人気の車種を空いているラインで追加生産できる。受注順にラインに流すので、余計な在庫を抱えることもない。しかし、プレマシーなどミニバンは、スライドドアなど仕様が大きく異なるため、一括企画の枠組みに入っておらず、生産効率を下げていたのだ。

需要変動に即応した生産体制へ

 ミニバンは、小飼社長が近年提唱している「グローバルスイング生産」にも妨げになる。同じラインで生産できる車種を各地の市場動向に応じて振り替えする枠組みだが、一括企画で設計されていないミニバンは機動的に振り替えができない。米国や中国の需要の変動が見通しにくい現状では、即応性を失うことが大きな機会損失を招くことに繋がりかねない。

 ミニバンの生産撤退で、一括企画の枠組みに入っていないのは商用車と軽自動車のみになる。これらの車種には他社に生産を委託しているものも多い。マツダのモノづくり革新はCX-8の投入で、1つのステージを終えたことになる。もちろん小規模メーカーのマツダはまだ多くのハードルを超えていかなくてはならない。特に英仏が内燃機関の搭載車を将来的に禁止する方針を掲げる中、得意とするディーゼルエンジン車の市場をどのように醸成していくか、既存顧客も納得するEV(電気自動車)をどう開発するかが当面の大きな課題になるだろう。

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