キュレーション(情報まとめ)サイトを巡る一連の問題でディー・エヌ・エー(DeNA)は13日、第三者委員会の報告書を公表するとともに、守安功社長らの処分を発表。創業者の南場智子取締役会長が代表取締役に復帰するなどコンプライアンス(法令順守)強化策も打ち出した。

 一方、キュレーション事業のキーパーソンは、DeNAを去ることになりそうだ。同事業を統括していた執行役員の村田マリ氏と、「MERY」を運営する子会社ペロリの代表を務めていた中川綾太郎氏は、ともに責任を取る形で役員を辞任する。2人は当面、DeNAに籍を残すが、関係者によると「退職せざるを得ないだろう」という。

第三者委員会の調査報告書を受けて会見に臨んだDeNAの守安功社長(左)と南場智子会長(右)(撮影:的野弘路)
第三者委員会の調査報告書を受けて会見に臨んだDeNAの守安功社長(左)と南場智子会長(右)(撮影:的野弘路)

 同日夕に会見に臨んだ守安社長は冒頭、「我々は、従来より挑戦を重視し、運営してきたが、認識が足りていなかった。管理やコンプライアンスの徹底なくして、挑戦を実現することはできないということ。会社としての大きな変革が必要であると考えている」と決意を新たにした。

 続いて南場会長もこう語った。「私自身、これまで会長として、十分にチェックアンドバランスの役割を果たせていなかった。これを戒め、今後は、私自身も代表取締役として強い決意を持ち、DeNAが社会から存在を許され、歓迎され、そして、信頼される会社になれるよう、守安とともに全力で努めていく」。

 大枠では、“想定内”の内容の会見。277ページにも及ぶ膨大な調査報告書も、「コンプライアンスやユーザーへの価値をなおざりに、成長を優先してしまった」と守安社長が語った12月の会見内容を裏付けるような内容であり、大きなサプライズはなかった。

 だが子細に読み込むと、発端となった買収やその後の運営において、社内からの警告を無視するような行為があったことが分かる。意外にも、守安社長に対して厳しい内容だった。

無視された「M氏」からの警告

 調査報告書はまず、法令違反の疑いについての事実関係を整理している。まず、10のキュレーションサイトに掲載された合計472万件の画像のうち、16%にあたる74万件に著作権侵害の疑いがあるとした。文章のコピーなど記事内容については、無作為に400件を抜き出したサンプル調査の結果、10サイトの合計37万6671件の記事中、最大で5.6%、約2万1000件の記事に著作権侵害の可能性があるとした。

 炎上の発端となった医療・ヘルスケア関連の「WELQ」に関しては、10件の記事で医薬品医療機器等法(薬機法)や医療法などに違反する可能性があると指摘。その他にも、法令違反には当たらないものの、引用が不適切、または倫理上の問題がある記事が散見されたとする。

 調査報告書は次いで、そこへ至るまでの道程を詳らかにしていく。その中で、一連の問題の起点となった買収時、社内からのある「懸念」を守安社長が見過ごした事実が記されていた。

 本誌が「DeNA転落の起点 買収と譲渡、2つの過ち」で報じた通り、2014年7月、ベンチャー関連のイベントで村田マリ氏と出会った守安社長は、村田氏から「iemo」を約15億円で売却すると打診された。その後、村田氏はMERYを運営する中川氏を紹介し、守安社長は2つのサイトを計50億円で買収することを決断。村田氏はDeNAの執行役員に就き、キュレーション事業を統括してきた。

 この、一連の問題の「起点」と言える買収に際し、DeNA 戦略投資推進室の室員が3つの懸念を示していたが、事実上、無視する形で買収が進んでいったという。調査報告書から該当部分を引用する(以下、適宜、表現を修正している箇所があります)。

 戦略投資推進室の室員のM氏は、iemo買収について、①デューデリジェンス(査定)やバリューションを実施していない段階での15億円という買収価格の妥当性、②画像に関する著作権侵害のリスクがある中で、iemoのサービスをDeNA内で横展開することのリスク、③村田氏がシンガポールに滞在したままiemo買収後のオペレーションを行うことのリスクについて、守安氏に懸念を示していた。

 しかしながら、①守安氏は、既に村田氏と話していた買収価格15億円を減額することはなく、②買収後、iemoのサービスはキュレーション事業として横展開され、③村田氏は、買収後もシンガポール在住のまま執務することとなった。

 DeNAはキュレーション事業に際し、iemoとペロリの他に旅行関連のサイト「Find Travel」と、計3つのサイト運営会社を買収している。第三者委員会は、これらの買収について「特段の問題があったとは認められないと考える」と結論付けてはいる。しかし、これは買収自体に法的な問題がない、という意味に過ぎない。

 結果として、「M氏」が感じた不穏なリスク、特に著作権問題が後に顕在化し、大騒動となった。その点で、この最初の警告に真摯に耳を傾けなかった守安社長の責任は重いと言える。警告は他にもあった。村田氏の「処遇」についてである。

 守安氏は、(中略)2014年7月31日、南場氏らに対して、村田氏をDeNAの執行役員にしたいとの意向を電子メールで伝えたところ、①買収直後に執行役員へと登用することについて社内の公平感・納得感を得られるか、②シンガポールにおいて勤務しながら執行役員としての職務を全うできるかという懸念などが示された。

 しかし、守安氏は、(中略)社内にスピード感、健全なコスト意識、挑戦マインドを吹き込む役割を村田氏に期待しており、(中略)南場氏らも、iemo社の持つスタートアップのマインドがDeNAに注入され、DeNA社内に、失われかけていた「永久ベンチャー」の雰囲気が呼び戻されることを期待し、2014年9月19日、同年10月1日付けで村田氏を執行役員とすることが取締役会で承認された。

2015年4月、キュレーションサイトのプラットフォーム「DeNAパレット」の発表会には、村田マリ氏(左)や、MERYを運営する子会社、ペロリの中川綾太郎氏(右)らも参加した
2015年4月、キュレーションサイトのプラットフォーム「DeNAパレット」の発表会には、村田マリ氏(左)や、MERYを運営する子会社、ペロリの中川綾太郎氏(右)らも参加した

 唐突な「村田執行役員」の誕生に違和感を覚えたDeNA社員も少なくなかったというが、南場会長もそのことに懸念を示していたこと、そして、守安社長がその懸念を払拭し、説き伏せたことが上記から伺える。

 しかし、DeNAは今回、キュレーション事業のトップだった村田氏に管理監督責任を負わせる格好となった。仮に村田氏がシンガポールではなく東京勤務であったら、より現場を掌握でき、改善も迅速にできたはず。その意味で、これも当時の懸念は正しかった、ということになる。

 守安社長は13日の会見で「やはり事業責任者については、責任は重い」と村田氏について語っているが、その任命責任があるのは守安社長自身。当時の警告を看過したことが、ブーメランで自分に跳ね返ってくる形となってしまった。

グレーをクロへと変えたMERYの罪

 著作権違反の問題も、前述の通り、買収前から警告が出ていた。今回の調査報告書では、iemoの買収を前に行ったDeNA社内の法務調査にも言及している。

 (iemoの)法務調査報告書は、画像部分については、明確に著作権侵害の事実が存在することを指摘した上で、著作権の侵害状態を解消する措置を講じる必要があるとしていた。

 上記を受けて法務部は、①問題のある画像を挿入している記事を削除する、②問題のある画像を許諾を得た画像に差し替える、③画像の引用元から直接リンクをはる方式にする、といった解決策を検討した。

 (中略)こうした著作権侵害のリスクについては、iemoの法務調査報告書が完成する前から、M氏などを通じて、守安氏を始めとする経営陣にも報告されていたが、経営会議の場では、2014年8月12日に初めて正式な報告がされた。

 (中略)経営会議における討議の結果、著作権侵害のリスクへの対応を「クロージング条件として設定し、対応が完了し次第出資に応じる」ものとされ、問題のある画像については、許諾を得た画像へと差し替えるか、直リンク方式へと変更することになった。

 調査報告書でも言及されているが、他人の画像へリンクを張り、自分のサイトにその画像を表示させる「直リンク方式」は、コピーほど悪質ではないものの、「シロ」というわけでもない。直リンク方式が違法なのか合法なのか、確定した最高裁の判例などがなく、グレーであるという認識のまま、守安社長はゴーサインを出してしまった。

 さらに、あろうことか、MERYについては買収後にグレーがクロへと変わってしまった。DeNAの法務部門はMERYの買収時も、iemoと同様、著作権違反についての警告をしていたが、いつしかそれは完全に無視され、形骸化したのだ。

 今回の調査で著作権違反が疑われた画像、10サイト74万7643件のうち、実にその約7割に当たる約52万件がMERYのものだった。その理由は、買収前に「直リンク方式にする」と決めた画像の扱いを、買収後、独断で変更し、コピーして自社サーバーに保存していたからである。

 社内からの指摘を受けて、MERY運営会社のペロリは一旦、記事中の画像を直リンク方式へと変更、あるいは削除。その上で、DeNAによる買収が完了した。調査報告書はその後の顛末をこう記している。

会見で配られた第三者委員会の調査報告書。全277ページと分厚い
会見で配られた第三者委員会の調査報告書。全277ページと分厚い

 DeNAとしては、ペロリが、買収前に作成されたMERYの記事の画像について直リンク化処理を行うのみならず、買収後に作成される記事の画像についても直リンク方式により表示するよう必要な手当てを行うであろうと考えていた。

 しかし実際には、ペロリは買収後に作成される記事の画像に関する手当てを行わなかったことから、買収後に作成された記事の画像について、引き続きサーバ保存(編集部注:コピー)を行っていた。

 交渉の当事者であった中川氏は、ペロリの買収に当たり、MERY記事作成システムの仕様を変更すべきであったというべきであり、また、買収後に作成された記事の画像についてサーバ保存を行っていたペロリの行為は極めて不適切であったといわざるを得ない。

 (中略)ペロリは、このような画像のサーバ保存については、何らかの形でDeNAに伝えており、DeNAも了承していると認識していたが、本調査を通じて、DeNAにおいてそのことを認識していた者の存在は確認できなかった。

 なぜペロリがコピーを再度、始めてしまったのか。それは、直リンク方式にすると、MERY経由のアクセスが相手先のサイトに大量に飛び、負荷をかけてしまうためだ。加えて、MERYでの画像表示も遅延することになる。結果、利用許諾なしに、他のサイトの画像を自社サーバーに保存、すなわち、無断コピーを再開したという。

守安社長、現場に相談せず高い数値目標を設定

 当初、DeNAはMERYについて「運営体制の違いから問題がない」としていたが、実は真っ黒だった、という事実をあぶり出したのは、第三者委員会の最大の功績とも言えよう。関係者によると、「守安社長自身、驚きを隠せず、中川氏を守りきれなかった。かなり強く、ペロリ代表取締役の辞任を迫ったようだ」という。

 しかし、子会社のペロリが当初の約束を反故にし、勝手なことをしたとして、DeNA本体が責任を免れるはずがない。さらに、中川氏やペロリに関しては、キュレーション事業トップの村田氏ではなく、守安社長の直轄だった。つまり、中川氏に対する管理監督責任や任命責任は守安社長にあった。その上で調査報告書は以下のように総括している。

 キュレーション事業は、その性質上、他人の権利を侵害しかねない潜在的なリスクを抱えており、実際にiemo及びペロリ買収時の法務デューデリジェンス(調査)において、既にこうしたリスクが一部で顕在化しているとの指摘があった以上、DeNAは、村田氏、及び中川氏には、このようなリスクに対する感度が十分に備わっていないと考えた上で、それ相応の対処をすべきであった。

 これは暗に、2人の事業責任者に対する守安社長の管理監督責任や任命責任を問うメッセージに他ならない。ここまででも、今回の調査報告書が守安社長に手厳しいというのが分かるが、買収後の事業拡大の過程では、さらに露骨に批判の色を強めている。

 調査報告書では、iemoとペロリの買収後、守安社長がキュレーション事業全体の拡大についてKPI(重要業績評価指標)を設定し、それに基づき現場が数字を拡大させることに邁進した様子が描かれている。具体的には、2社の買収から2カ月後の2014年12月、守安社長は1年で2サイトから10サイトへ増やす方針を打ち出した。10という数字については「守安氏の感覚から出た数字」という。

 さらに守安社長は、具体的なDAU(1日当たりのアクティブユーザー数)や営業利益を示してKPIを設定。その数値は次第に高くなり、昨年9月の経営会議では、2020年度に向け、キュレーション事業の年間営業利益を200億円とし、DeNAの時価総額を5000億円程度まで高めるとした。こうした数値目標に関して、調査報告書は以下のように指摘している。

 守安氏が示したキュレーション事業の中長期目標は、キュレーション事業を統括する村田氏らボードメンバーとの間で綿密に練られたものではなく、守安氏が決定したものであった。

 (中略)当時の村田氏からすると、これらのKPIは、いずれも相当高い水準にあると思ったが、守安氏からは、設定した時価総額目標の背景などについて、明確に説明を受けたことはなかった。村田氏、及びキュレーション事業の担当者たちは、設定されたKPIの達成に向けて進んでいくこととなっていった。

 守安社長が現場に高い目標設定を迫ったがゆえに、村田氏や中川氏ら事業側は著作権違反が満載のキュレーションサイトを粗製乱造していかざるを得なかった。そう読める文章だ。特に上記の「村田氏からすると、これらのKPIは、いずれも相当高い水準にあると思った」という箇所について、関係者はこう捕捉する。

 「村田氏は、守安社長から指示された経営判断としてのミッションを愚直に、時に逆らいながら遂行していった。問題の責任の核心は経営トップの判断にあったわけで、会見で守安社長が『現場の責任が重い』としたコメントは、甚だ疑問に感じる」

南場会長が見せた慈悲

13日の会見は第三者委員会、続いてDeNA経営陣と続き、合計で3時間超に及んだ(撮影:的野弘路)
13日の会見は第三者委員会、続いてDeNA経営陣と続き、合計で3時間超に及んだ(撮影:的野弘路)

 会見で守安社長が「私も、南場に高い目標を設定され、それをどう達成するのか、知恵を絞り、創意工夫を行ってまいりましたので、そういう意味で、高い目標自体が問題なのかと言いますと、これもまた議論があろうかと思います」と語ったように、必ずしも、高い目標設定自体が悪いわけではない。

 しかし守安社長は、その一方で生じた歪みや違法行為を見逃してしまった。そのことも、守安社長は認め、反省を口にした。「問題の根は、守安社長の独善にある」。明には書いていないが、守安社長に手厳しい調査報告書は全体を通じて、そう言っているように感じた。

 DeNAにキュレーション事業を持ち込み、けん引した村田氏、中川氏。2人のキーパーソンからは、問題の発覚から今に至るまで、表向きには何も語られていない。しかし2人は第三者委員会のヒアリングには応じている。対外的にも、2人から真実が語られる日はそう遠くないと見られるが、今回の調査報告書は、2人のヒアリングが色濃く反映された「予告編」なのかもしれない。

 今回の会見で南場会長は、自らを戒めるように、村田氏、中川氏に対して、こう慈悲を見せた。

 「(村田氏、中川氏の)2人の事業のリーダーは、一所懸命、誠心誠意、事業に打ち込んでおりましたし、このような事態になった後も、誠実に第三者委員会の調査にも協力してくれた。何か悪徳なことを企んでいるような2人ではございません」

 「そういった意味では、この2人の有能な若者を正しく導けなかったDeNAの責任は極めて重いと捉えておりまして、これはずっと私たちが背負っていかなければいけないことだと思っています」

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