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『ビジネスジャーナル』の貧困女子高生報道にあったこれだけの問題

『ビジネスジャーナル』の貧困女子高生報道にあったこれだけの問題

ネットメディアの“化けの皮”が剥がれた瞬間

note

〈当サイトに掲載した8月25日付記事『NHK特集、「貧困の子」がネット上に高額購入品&札束の写真をアップ』における以下記述について、事実誤認であることが発覚しましたので、次のとおり訂正してお詫びします〉 

ネットメディア「ビジネスジャーナル」(以下・BJ)が、自身のサイトでこんな訂正記事を出したのは、8月31日のこと。

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BJは「日刊サイゾー」などのネットメディア事業や出版事業を手掛けるサイゾー社(代表・揖斐憲氏)が運営するビジネス系ネットメディア。サイゾー社は年商11億円を誇る業界大手で、その中でもBJは月間3~4000万PV(ページビュー)を稼ぐというドル箱コンテンツだ。

事の発端はNHKが8月18日のニュース番組内で放送した「子供の貧困」特集だった。母子家庭の女子高生が登場し、エアコンのない部屋に住み、「(パソコンが買えないので母が)キーボードだけ」買ってくれたなどと語った。

これに対して、ネット上では、「女子高生のSNSをみると結構散財している」などと、NHKの“ヤラセ”を疑う声が続出。それに便乗するような形で8月25日、BJは、女子高生の部屋の映像にはエアコンが映っており、SNSでは散財の様子も確認できる等と指摘した編集部名義の記事を掲載した。

騒動の発端となった「子供の貧困」特集(NHK「ニュース7」)

「貧困というテーマはネットではよく読まれる売れ線ネタなので、BJでも取り上げたのでしょう。しかし、NHKの映像にはエアコンは映っておらず完全な事実誤認。つまりこの記事は、当該番組の映像すら確認せず、ネットなどで拾った真偽不明の情報によって書かれたお粗末なものだったことが明らかになった」(ネットメディア関係者)

さらにBJの記事では〈今回の疑惑に対してNHKに問い合わせのメールをしてみたところ、「NHKとしては、厳正な取材をして、家計が苦しく生活が厳しいという現状であることは間違いないと、担当者から報告を受けています」(中略)との回答を得た〉と記述していたが、この回答がまったくの捏造だったことまで発覚した。

NHKの猛抗議に、〈回答は架空のものでした〉

「記事を見たNHKから、『こんな取材受けてない』と猛抗議を受けて、慌てて〈実際には、弊社はNHKに取材しておらず、回答は架空のものでした〉と訂正記事を出したという経緯です」(同前)

 何よりBJが記事にしたことで、女子高生は更なる被害を受けることとなった。

 記者の素性についてサイゾー関係者が声を潜める。

「サイゾー社は〈当該記事は外部の契約記者が執筆〉と公表していますが、実際はBJ編集部に所属している契約記者が書いたもの。彼は編集部に所属してまだ数カ月で、記者経験は無かったと聞いています。捏造した回答については、『NHKに電話したらこう答えていたというネット情報を引き写して書いた。正確な情報だと思った』と説明しているようです」

 記者をチェックすべき編集部の陣容はというと、

「BJ編集長の石崎肇一氏は大手電機メーカーの営業からサイゾー社に転身してきた変わり種で『社畜』と呼ばれるほどの仕事人間ですが、報道経験には乏しい。編集部員も3人と少なく、取材の稚拙さは明らかで、いつか大きなトラブルを起こすのではないかと懸念されていました」(同前)

 日本インターネット報道協会の代表理事で、編集者の元木昌彦氏はこう語る。

「ネットメディアには取材や原稿のイロハのイも分からない人も多い。書き手やチェックする編集者のレベルをどう上げるかが、ネットジャーナリズムの大きな課題となっているのです」

 ある新興ネットメディア編集者は、「志の低さ」を指摘する。

「広告収入がメインとなっている老舗ネットメディアの問題は、コストをかけずに記事を作るという方式が常態化していることです。これは“コタツ原稿”と揶揄される手法で、要はコタツの上だけで取材・執筆が完結する。まともに取材をしないで記事を書くから、捏造やパクリといった手法に陥り易いのです」

ビジネスジャーナルが出した「お詫びと訂正」

ジェイキャストの編集長は朝日新聞出身

 サイゾー社が運営する「日刊サイゾー」と共に、老舗ネットメディアの一つとされるのが「J-CASTニュース」(以下・ジェイキャスト)である。06年に朝日新聞出身で元「AERA」編集長だった蜷川真夫氏が設立したネットメディアで、現在は元朝日新聞役員の杉浦信之氏が編集長を務めている。杉浦氏といえば朝日新聞時代、慰安婦問題に関する同社の姿勢に疑問を呈した池上彰氏のコラムの不掲載を指示した張本人としても知られる。

「ジェイキャストには新聞記者出身等で取材経験のあるスタッフはいるのですが、独自性のない記事ばかりを量産している」(同前)

 例えば「小池知事、都知事選の『秘話』公開 野田聖子氏が『手伝ってくれていた』」(9月3日)という記事は、新聞記事の引用のみで書かれたもの。民間調査会社のレポートでも〈自らの調査報道は殆どない点が特徴で、ローコストでの運営を可能としている。取材やコストを省力化した簡易メディアと評されることもある〉と、要は“パクリ”でコストを削っていると分析される始末だ。

報道ではなく、クリックを稼ぐためのモンキービジネス

 こうした指摘についてジェイキャストは、「創刊以来、編集方針のひとつに『メディア・ウオッチ』を掲げており、日常的に様々なメディアをウオッチし、その反響や影響を含めて情報発信しています」と、新聞・雑誌と同じ基準で引用していると胸を張るのだ。

 だが著作権に詳しい山縣敦彦弁護士はこう指摘する。

「最高裁判例では、著作権法上の『引用』として認められる要件として、〈明瞭区分性〉と〈主従関係〉を挙げています。出所を明示していても、自分の文章が〈主〉であり他人の文章が〈従〉でなければ引用は認められない。ですから引用だけで記事を構成した場合は、著作権侵害になることが濃厚です。引用要件を満たさない無断転載は原則違法であるとネットメディアはもっと自覚するべきです」

 ネットメディアの現状について、ITジャーナリストの井上トシユキ氏が嘆く。

「創成期であれば記事のクオリティが低くても仕方ないところはありますが、十年経った今もまったく状況は変わっていません。未だに引用記事やコピペ記事が氾濫し、おまけに捏造です。彼らには取材にコストをかけるという意識がない。報道ではなく、クリックを稼ぐためのモンキービジネス(詐欺的商法)になってしまっているのです」

サイゾー社の社長を直撃すると……

 サイゾー社の揖斐社長は、小誌の直撃取材に対してこう反省の弁を述べる。

「記事の捏造はあってはならないことで、私自身や編集長、担当編集者の減給処分を行い、人事も含めた更なる処分も検討しています。女子高生への謝罪についてもNHKと話し合いを続けているところです。これからは記事のクオリティを上げる体制を作りたい。私自身の反省としては、ネットメディアに利益を出すことを求め過ぎたところはあったと思います」

 BJ事件で剥がされたネットメディアの“化けの皮”。その信頼回復への道のりは険しそうだ。

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