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渡辺由美子の「誰がためにアニメは生まれる」 第3回

新房監督のアニメ論 「制約は理由にならない」 【前編】

2010年07月31日 12時00分更新

文● 渡辺由美子(@watanabe_yumiko

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「パターン」を壊していく

―― 新房監督が手がける作品では、同じスタッフの方々が別の作品でもチームのように担当されている、いわゆる「座組み」があるのかなという印象があります。スタッフを集めるときの方針などはありますか。

新房 「座組み」ありきでお願いしているのではないですね。僕がいいなと思う人、僕の演出の感じをわかってくれる方には、結果的に別の作品もお願いすることがあるという感じでしょうか。それは演出や作画だけでなくて、どのセクションでもそうですね。だからもちろん、いいなと思ったら新しい方にもどんどんお願いしていきます。

―― たとえば「荒川」のリクルート役の神谷浩史さんは、どのような理由で抜擢されたのでしょうか。「さよなら絶望先生」や「化物語」でも主役を演じられていましたね。

新房 神谷さんは、いわゆるアニメのテンプレートではない、自然な芝居ができる人だなと思っています。リクルート役は指名ではなくて、オーディションを20人くらいやって、神谷さんに決まったんですね。

 神谷さんに限らずどの役者さんでもそうなのですが、お願いしているのは役に対して自分のイメージがある人たちですね。キャラクターのこういう気持ちがある。だからこう芝居をするというような。キャラクターや場面ごとに、それぞれの固有の表現を考えてくれる人たちだとという。

 特に最近の若手の方は、原作付きアニメなら原作をしっかり読み込んでくれるので心強いですね。彼らは作品の内容を深く理解しているし、もしかすると我々以上に理解しているかもしれない。原作を読んだ後で実際に演技をするときには、演じる人物の深い部分まで考えて芝居をしてくれますから。

―― アニメ業界に入ってくる人たちに、アニメや漫画が好きな人が増えたということですか。

新房 全員がそうではないですが、昔よりも格段に増えました。皆さん勉強家で、熱心に登場人物や物語を理解しようとつとめてくれています。仕事でやっているというスタイルでも、作品を理解していい演技をしてくれればそれで良いとは思うんですが、アニメや漫画が好きで演じてくれる人たちが出てきて、そういう方たちと一緒に仕事ができることが、僕は純粋にうれしいですよね。

 でも、アニメが好きというだけで良い芝居ができるかというと、そこは悩ましいところもあるんです。同じ登場人物や同じシーンを演じるのでも、役者によって芝居は当然異なるはずなのに、別の人に演じてもらっても、なぜだか同じ調子で聞こえてしまうときがある。自分がこれまでアニメで見てきたものを、「こういうセリフならこうしゃべるだろう」というふうに、パターンを作って演じてしまうんだと思うんです。そういうアニメ芝居は良くないなと。だから「好き」というだけではなくて、その先を考えられる方にお願いしたいと思うんですね。

―― そこも「パターン」を避けたいということですか。

新房 そうですね。

―― 新しい方にも積極的にお願いしていくというお話でしたが、「荒川」のシリーズ構成(全話のシナリオを監修する役職)にも、シナリオを担当している赤尾でこさんがいますね。

新房 赤尾さんは、僕のところでも「夏のあらし!」からシナリオを担当してもらってます。彼女は引き出しが多くて、考え方が素直なんですね。打合せの段階でアイデアを出してくれたときにそのアイデアがNGになったら、「じゃあ、こういうのはどうですか」と次々に出してくれる。普通は、自分が出した案というのはなかなか捨てられるものではないんだけど、一つの案に固執しないですね。赤尾さんが書いてきたものから、キャラクターのオープニングになったということもありました。

―― 第5話のマリアのオープニングですか。キャラクター1人だけをフィーチャーしたOPは「化物語」でも作られていましたね。

マリアOPとは

 マリア役の沢城みゆきさんが歌った、マリアのテーマソング『タイトルなんて自分で考えなさいな』。「生き恥さらし」という辛辣なフレーズも印象的だ。(「タイトルなんて自分で考えなさいな」作詞:三重野瞳 作・編曲:横山克 歌:マリア/沢城みゆき)

新房 「化物語」では、はじめからキャラクター単体のOPを作ろうということでスケジュールなども組んでいたんですが、「荒川」ではそういうプランはなく、突発的にできたんです。

 第5話の冒頭は、普通に「前回のあらすじ」から始まることになっていたんですね。第4話は、シスターがマリアの毒舌を食らって倒れたところで終わったので、次回にそのいきさつを「前回のあらすじ」として入れようと。

 すると赤尾さんから、そのあらすじをマリアのセリフにして、歌っぽくしてみてはどうか、という案が出たんです。そのあとに、他のスタッフも交えて、じゃあ丸ごと歌にしてみようか、絵も描いてOPにしてみようかという話に転がって、マリア役の沢城みゆきさんに歌ってもらう流れになっていったんです。

―― 即興的に、その場の流れで決まったんですね。

新房 そうですね。最初のアイデアから、どんどん変化して膨らんでいく。最初の予定を超えてくれたのがよかったなと。スタッフには、僕が予想できる範囲を超えてもらえればいいなと思っています。いつも。

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