忘れないで~小野寺洋介山からのメッセージ | 武士道ボクシングⅣ

忘れないで~小野寺洋介山からのメッセージ


武士道ボクシングⅣ

第51回ライト級全日本新人王
第32代日本Sライト級王者
戦績:23戦20勝(8KO)2敗1分
宮城県気仙沼市出身
1981年3月11日生まれ

現役引退を表明。
2010年4月12日、亀海隆寛(帝拳)に敗れ王座陥落。

2011年3月11日、30歳の誕生日に東北地方太平洋沖地震がおこり
気仙沼の自宅はすべて津波で流されてしまう。
幼いころの写真も、ボクシングで得た賞状やトロフィーもすべて。


武士道ボクシングⅣ

店員に「すみません」の一言がかけられなかった気弱な青年は
自分を変えたいと思い、ボクシングジムの門を叩く。

2003年8月プロデビュー。
「ボクシングは気持ち」と
毎日欠かすことのなかった走りこみで鍛えに鍛えた無尽蔵のスタミナと手数
そして気持ちで
以降、破竹の16連勝。

東日本、全日本とライト級新人王を獲得。
B級トーナメント決勝では
2005年8月、後の日本ウェルター級王者、中川大資(帝拳) を下し優勝。
同年10月には、後の日本ウェルター級王者、沼田康司(真闘) も撃破。
2006年12月に行われたB-Tightでは小木曽研二(塚原京都)を下しライト級優勝。

そして2009年4月4日
圧巻13度もの防衛記録を持つ不動の王者
『木村術』木村登勇(横浜光) に対し
圧倒的不利の下馬評を覆しタイトル獲得。
日本ボクシング界に驚きを与えた。

しかし、3度目の防衛がかかった
2010年4月12日
世界を狙える逸材、亀海隆寛(帝拳) に敗れ王座陥落。
日本中を震撼させる衝撃的な強さを魅せつけた亀海に対し、
絶対に下がらず、前に出続けたそのファイトは
敗れはしたものの多くのボクシングファンの心を打った。


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今回の震災により、小野寺の実家は津波によって跡形もなくすべて流されてしまった。
小野寺はこの話をすると、涙が溢れ、言葉に詰まってしまう。

何度も被災地に赴き、被災者一人ひとりの話を聞いているという。
「被災の体験を誰かに聞いてもらえるだけでも心休まるんです。」

「家も流された。大事な物もすべて流されてしまいました。
でも、一番大切な心はひとつとして流されていません。
どんなに地震で揺れても、生きることは揺るがせません。

僕は常にチャレンジャーの気持ちで戦ってきました。
チャレンジする気持ち、なにくそ魂が多くの人に伝わって
応援してくれる人がどんどん多くなっていきました。
気持ちって伝わるんだなあって、
試合をするたび思いました。
そんな応援してくれる人たちがいなかったら
僕はここまでボクシングを続けられなかったと思います。

そして今、気仙沼に戻ってきて感じるのは
被災者は決して被災者ではないということです。
チャレンジャーです。

山積みになった瓦礫の町で必死に復興作業する人たちに
おばあちゃんが自転車に乗って「がんばろう!がんばろう!」と大声で叫んで回っていました。
あの人たちは、僕には勇気あるチャレンジャーに見えました。
僕は支援に行って、逆に勇気を貰っています。

今、僕の周りにも、自分に何ができるかと悩んでいる人がたくさんいます。
人それぞれいろんなできることがあると思いますが
ひとつだけ伝えたいことがあります。

ボクシングでチャンピオンになるという思いもそうでしたが
『忘れないこと』

これが一番大切だし、一番伝えたいことです。

人間はどうしても忘れていってしまいます。
でもそれが現地の人たちにとって一番怖い。

遠方では、いつのまにか何事もなかったように日常が訪れることと思います。
しかし、この事実は変わらないし、僕らの心にはしっかりと残っています。

忘れないでほしい。
心は日本中ひとつに繋がっていてほしい。
僕は忘れない。
みんなも忘れないでほしい。
その気持が、一番大きな支援だと思っています。



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3月11日、小野寺30歳の誕生日は忘れることのできない誕生日となった。

小野寺は昨日、現役引退表明をした。
今後は整体師を目指すため、専門学校に通う。

ボクシングで多くの人を勇気づけてきた小野寺が出した結論だ。

こんな青年が本当にボクシングをやっているのか。
まして日本王者なのか、
そう疑ってしまうほどの純朴で朴訥な青年。
一言一言はにかみながら話すその様子と
リング上でハリケーンのようなラッシュを見せるその姿とは同一人物とは思えないギャップだ。

そんな強さも優しさも知っている男だからこそ
心も身体も癒せる整体師になることであろう。

小野寺はグローブを置いた。
小野寺洋介山から小野寺正明へと戻った。

そしてまた本日、気仙沼へと旅だった。


第51回ライト級全日本新人王
第32代日本Sライト級王者
戦績:23戦20勝(8KO)2敗1分
宮城県気仙沼市出身
1981年3月11日生まれ

なにくそ魂をありがとう。
そしてこれからもチャレンジャーの気持ちを見せてほしい。
小野寺洋介山というボクサーを僕らは決して忘れない。