水俣病訴訟、熊本地裁は救済対象の拡大認めず 大阪地裁判決から後退

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 「最終解決」をうたった水俣病被害者救済法(特措法、2009年施行)で救済されなかったのは不当だとして、水俣病の被害を訴えている主に熊本・鹿児島両県在住の原告144人が国や熊本県、原因企業チッソに損害賠償を求めた訴訟の判決が22日、熊本地裁であった。品川英基裁判長は原告全員の請求を棄却した。

 判決によると、水俣病の主な症状の一つの感覚障害については、被害者の「主観に頼らざるを得ず、多角的観点からの評価」が必要とし、「汚染源から遠ざかるほど、魚介類の程度は相対的に低くなる」などことごとく国側の主張を採用した。 水銀に汚染してからどれくらいで発症するかについても、水銀の汚染が終了してから「おおむね10年以内」とし、水俣病の発生から時間が経った中で争っている原告には厳しい判断になった。

 原告25人については水俣病と認められるとしたものの、不法行為から20年経過すると賠償請求権が消える「除斥期間」の主張が採用されたため、請求が棄却された。水俣病の裁判で除斥期間が適用されるのは珍しい。

 判決言い渡し後、園田昭人弁護団長は「非常に残念な判決。被害を直視していない」と批判。一方で25人を水俣病であると認めたことについては、「特措法の救済に誤りがあったことになる。国には(水俣病の)解決を求めていく」と話した。

 同種の訴訟は、大阪や新潟、東京地裁でも起こされており、初の地裁判決となった大阪地裁では昨年9月、原告128人全員を水俣病と認め、1人あたり275万円の賠償を命じた。

 熊本は原告数1400人と最大規模で、初期に提訴した原告への今回の判決が注目されていたが、全面的に後退する判決となった。救済する被害対象を狭く捉えている国の水俣病への対応に見直しを迫ろうとする原告側には厳しい判決となった。

 水俣病は、チッソが有毒なメチル水銀を海に流し、汚染された魚を食べた不知火海沿岸(熊本、鹿児島県)の住民に発症した。1956年に公式確認されたが、公害認定される68年まで排水は止められず、被害が拡大した。

 公害健康被害補償法に基づく認定患者は3千人。国の認定基準は厳しすぎると被害を訴える人が増え続けたため、95年に「政治決着」として、患者認定していない被害者約1万人に一時金260万円などを支払った。また、特措法では一時金210万円や、医療費が無料になる医療手帳などが出され、約5万5千人が対象となったが、約9600人が対象から漏れた。

 特措法は、同じ不知火海沿岸で隣り合っていながら「対象地域」と「地域外」に区切る、いびつな「線引き」をしたことが強く批判された。

 今回の訴訟も原告の約7割が地域外の住民で占められている。(今村建二)

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