QAReportClipThink netLink
すずかんArchive
【ITにタックル】第6講 IT予算とは言いながら
(2001年2/16号)

イラスト/平松昭子
 

みなさん、こんにちは、スズカンです。お嫁さん公募をしましたら,さっそく、いい年して今まで何をしていたのか、と質問をいただきました。

 今みたいに携帯電話が普及する前の一九九〇年ごろ、僕は大恋愛をしていました。官庁に勤めていると、年末は予算案作成業務でてんてこ舞いです。それでもクリスマスのころには大臣折衝などの段階に進み、僕たち事務方の作業は一段落して、多少ほっとする時期なのです。

 その年のクリスマス、彼女とデートの約束をしていたのですが、そろそろ時間、と席を立とうとしたときです。突然、予算の組み替え指示が下りてきて,そのまま徹夜作業に突入してしまいました。
彼女はすでに約束の場所に向かっていました。結局、連絡が取れないまま、彼女は待ちぼうけ。これがきっかけで二人の関係は終わりました。

 さて、今日は僕の恋愛を壊した予算についてのお話です。来年度予算では、IT関連に二千五百五億円の特別枠が設けられています。なかでも、「世界最高水準の情報通信ネットワークの形成(四百八十億円)と「電子政府の推進等(八百七十億円)」がもっとも大きなポイントになっています。

 しかし、なんとも新鮮味のない中身で、その効果もよく見えてきません。たとえば、「光ファイバー収容空間の整備」という事業があるんですが、みなさんはこれを聞いて、各家庭に光ファイバーが引かれて、高速通信が可能になる、そんなイメージを持つのではないでしょうか。

 実は、いままでとほとんど変わらない事業を名前だけ変えて、さもIT政策をやっているように見せかけているのです。「光ファイバー収容空間の整備」は、数年前によく取りざたされていた「電線地中化」のための共同溝整備に毛が生えた程度のことなんです。あくまで光ファイバーを引くための「共同溝」を整備するのであって、光ファイバーを引くわけではないのです。

 共同溝は、「将来、NTT以外の通信会社が光ファイバー網を整備するために使える」のであって、実際に使われるかどうかわかりません。だいいち、光ファイバーはもうNTTによって各電話局までは引かれています。あとは電話局からそれぞれの家庭まで、いかに光ファイバーを引くかが問題なのです。ところがそれに対する予算はない。結局、道路工事をやりたいんじゃないかと言われても仕方ありません。

 IT戦略会議報告を実現するために予算が組まれているわけではなく、各省庁のさまざまな政策が三百ほど寄せ集められ、「IT関連」というブランドがついたにすぎません。なかには、コンピューターシステムの更新や、この機会にスキャナーやデジカメをそろえようという、お役所のIT化を推進する予算まで含まれているのが現実なんです。

 ところで、そもそも二千五百五億円のIT特別枠は、それだけ聞くといかにも大きいようですが、国全体の予算規模約八十三兆から比べると、スズメの涙という気もしてきます。それに、たとえば自治体のサービスをIT化するハード機器導入に予算がついても、運用にかかわる人件費などは捻出できない。それが現実なのです。


 
【ITにタックル】のトップへ ←前へ  次へ→