大阪府と京都府の境に、その山はあります。
深い緑を蓄えた加茂勢山、通称・ポンポン山です。
標高678.9メートル、その頂で取材班は目を疑う光景に遭遇しました。
<記者>
「あー、ひどいわ、これ…」
無残に横たわった数え切れない大木。
そして―
<ヘリリポ−ト>
「広い範囲で木が切り倒されているのが、はっきりとわかります」
一体、誰が何のために―
この山で今、何かが起きています!
<ポンポン山懇話会・大槻裕治さん>
「趣味がトライアスロンですから」
ポンポン山懇話会の大槻さんは、日々のトレーニングも兼ねて、毎週週末にはこの周辺の山々の見回りをしています。
今でも貴重な自然が数多く残るのどかな登山道は、幅広い年齢層のハイカー達に支持される人気のルートです。
<ポンポン山懇話会・大槻裕治さん>
(Q.何でポンポン山っていうんですか?)
「ポンポンって言うから。砂岩でできてましてね、頂上付近が。そこを歩いたら“ポンポン”って言うんで」
しかし、歩くことおよそ40分。
山頂が近づくと、その光景は一変します。
直径ゆうに30センチは、超えようかという松の倒木。
1本や2本でははありません。
古いものから新しいものまで10メートルを越す大木が、そこらじゅうで無残に横たわっています。
中には、倒れる途中で別の木に引っかかった“係り木”も少なくありません。
聞くと、この山は個人の所有地で、木はすべて無断で切られたものだといいます。
<記者>
「こちらの木も無断で切られたものですが、登山道に覆いかぶさるように倒れかかっています」
こうした係り木が、もしハイカーの上に倒れてくるようなことがあれば、大事故は免れません。
さらに―
ヒノキの幹に刻まれた深さ2センチほどの切り込み。
一見、問題ないようにも見えますが、こうして傷つけられた木は、数か月で枯れて倒れてしまうといいます。
<ポンポン山懇話会・大槻裕治さん>
「(幹には)繊維が全部あるわけですから、そこの一部を切られたら、本来いるべき水分が上がらないわけですから、もう枯れるしかないです」
もちろんこれは、器物損壊罪や森林窃盗罪に触れるれっきとした犯罪行為。
一体、誰が何のために、このようなとんでもないことをしているのでしょうか?
そのヒントは山頂にありました。
<記者>
「全然木がないじゃないですか」
そこに広がっていたのは、むき出しになった山の斜面。
実は近年、ポンポン山では山頂からの見晴らしをよくするために、一部のハイカーが勝手に木を切っているというのです。
<ヘリリポート>
「上空から見ても、山頂の横の木が広範囲で木が切られているのがはっきりとわかります」
<登山客>
「10年くらい前、初めて来た時はもっと自然があった感じ」
「きれいに伐採してるんかなと思ったけど(勝手に)倒してるんですか?見晴らしがいいのはいいけど、勝手に切るのはよくないと思いますね」
親の代からポンポン山を所有する造園業の村上さんも、困惑の色を隠せません。
<ポンポン山所有者・村上薫さん>
「もう樹齢100年も経ったような直径50〜60センチの大木が、何十本と切られてる。心ないハイカーに切られてしまって、親に対して申し訳ないと思って…」
切り倒された木の一部は、意外なものに姿を変えていました。
<登山客>
(Q.このベンチどうですか?)
「座りやすいよね」
山頂に置かれた丸太のベンチ。
山主が知らない間に、いつの間にか、作られたものだそうです。
これも木を切った人物の仕業なのでしょうか?
<登山客>
(Q.誰がやってるかご存知ないですか?)
「私ら、しょっちゅう来てますから、どういう人がやってるいうのは知ってまっせ」
「いろんな話を聞いてると、そんな人もいるよ」
常連のハイカーたちも、なんとなく歯切れは悪いものの、そうした人物の存在には気付いているようです。
そんな中、ある人が取材に応じてくれました。
かつて交友があった山の常連客に心あたりがあるといいます。
<登山経験者>
「昔、小屋の件があったんですよ。よその山に自分のアジトみたいなものを作ってました。『ええとこやろ?ここよかったらこいや、いつでも』と言われました」
果たして本当なのでしょうか?
取材班はまず、かつて小屋を建てた人物と最近もベンチを一緒に作っていたという男性Aを尋ねました。
なぜかドアが開いています。
<記者>
「毎日放送なんですけど」
呼びかけに姿を見せた次の瞬間―
<男性A>
「・・・(無言でドアを閉める)」
こちらの意図を察したのか、話を切り出した途端の取材拒否です。
そして、山に小屋を建てていたという当の本人(男性B)。
あっさりと取材に応じた第一声は意外な言葉でした。
<男性B>
「またあのことでっか?」
(Q.あのことというのは?)
「木切りよったやつやろ?せやけど、わしは言われへんやん」
男性Bはこちらが聞くまでもなく、木を切ったのは自分ではないと説明します。
<男性B>
「あれちょっと切れん、上手に切ってはる」
(Q.切ってる人はご存知?)
「いや、それは言えん」
(Q.知り合いなら注意すべきでは?)
「見てないのに言われないでしょう。あなた変なこと言ったら怒るよ、本当に!」
声を荒げる男性B。
しかし、山頂のベンチのことに話が及ぶと…
<男性B>
「イスは作りました。寒い冬に、昔は地面がベタベタやったんですわ 。座ることもできひん。それで間伐材を持ってあがった」
(Q.人の土地に許可なく作ったことは?)
「置いたいうのはいかんね、それは思います。もし撤去せい言うんやったらすぐ撤去します。無断でしたんやから」
たとえ間伐材であったとしても、木が所有者ものであることに変わりはありません。
5月19日、ポンポン山の山頂には、ヒノキの苗木を植える山主の村上さん夫婦の姿がありました。
この苗木が、再び周りの木と同じ高さになるには、少なくとも30年はかかります。
<ポンポン山所有者・村上薫さん>
「こんな哀れな姿は元に戻すにも、そんな簡単には戻らない。やっぱり山のマナーやね。来るなとは言わんけど、来た以上は自然の大切にせなあかんということを知ってほしいです」
見晴らしと引き換えに、勝手に山の木が伐採されることは、決して許されることではありません。
むき出しの山肌から、ポンポン山の悲鳴が聞こえてきそうです。
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