携帯電話のカメラ、人種差別暴く武器に 性急な「裁き」のリスクも

2020年06月08日13時08分

【ニューヨークAFP=時事】米ミネソタ州ミネアポリスでの黒人男性の死から、ニューヨークのセントラルパークでの人種差別的な出来事に至るまで、携帯電話のカメラが人種差別に対抗する武器として使われることが多くなっている。(写真はミネアポリスで黒人男性が警察に拘束され死亡した事件に抗議する人たち)
 スマートフォンで撮影した2本の動画がこのほど、ソーシャルメディアから主流メディアへと広がった。そこで浮き彫りになっているのは、これまでは注目されずに葬り去られていたであろう出来事が、今では居合わせた人々によって頻繁に撮影されるようになったということだ。
 先月25日、ミネアポリスの白人警官が黒人男性のジョージ・フロイドさんの首を約9分間にわたり膝で押さえつけ、フロイドさんが息ができないとあえぐ様子を捉えたのは、一般の人だった。
 フロイドさんは動かなくなり、後に病院で死亡が宣告された。4人の警察官が免職となり訴追されたが、米国内外で人種差別と警察の暴行に抗議するデモが巻き起こった。
 アメリカン大学の反人種差別研究センターのイブラム・ケンディ・センター長は、独立系メディアの「デモクラシー・ナウ!」とのインタビューで、「もし動画がなかったら、これほど早く警察官が解雇されただろうか」「警察はこの一部始終を見ていた人たち、警察官らにやめてくれと頼んでいた人たちが言うことを、信じただろうか」と問いを投げ掛けた。
 もう一つの出来事では、セントラルパークの雑木林で犬を散歩させていた白人女性が、犬をリードでつなぐよう頼んだ野鳥観察者の黒人男性クリスチャン・クーパーさんを不当に通報した。
 女性がクーパーさんに「アフリカ系米国人男性が私の命を危険にさらしていると通報してやる」と言って緊急通報番号911に電話する様子を撮影したクーパーさんの動画は、ツイッターで4300万回以上、再生された。

■きっかけとなったロドニー・キング事件
 2月にはジョージア州で、アフリカ系米国人のアマード・アーベリーさんが近所をジョギング中に白人の住民2人によって銃殺された。
 この様子を携帯電話で撮影していた3人目の男も後にアーベリーさん殺害をめぐり訴追されたが、その動画が先月ソーシャルメディアに流出し、大きな怒りを引き起こした。
 このような暴力行為の動画の撮影は今に始まったことではない。
 1991年にロサンゼルスで黒人男性のロドニー・キングさんが警察官に殴打される様子をアマチュアカメラマンが撮影して以来、米全土で人種差別行為を記録した動画が頻繁に撮影されている。

■警察官のボディーカメラ、期待ほどの効果なし
 警察官が勤務中にボディーカメラを着用して使用することが過去10年間で増えたことから、アフリカ系米国人に対する実力行使が減るとの期待が高まっていた。
 だが米調査グループ「アーバン・インスティテュート」のダニエル・ローレンス研究員によると、初期の調査では有望な結果が示されたが、その後のより詳細な報告の結果、「ボディーカメラは期待された実力行使の減少をもたらしてはいない」ことが明らかになった。
 多くの警察隊は、望むときにはカメラのスイッチを切ってもよいと警察官らに許可している。また、一部の警察官は公開前に動画を編集したことで非難を受けている。

■性急な「裁き」もたらす危険性も
 2014年にニューヨークの警察官により窒息させられたエリック・ガーナーさんの死は、全米で「Black Lives Matter(黒人の命は大切)」運動に火を付けた。このときの様子を撮影したのはフロイドさんのときと同様、警察ではなく目撃者だった。
 フロリダ大学の人種・人種間関係研究センターのキャサリン・ラッセルブラウンセンター長は、「一般に公開されたこれらの動画は、われわれの刑事司法制度が一種の機能不全となっていることを実際に指し示している」と指摘する。
 「それは、一般市民が公務員や公共の場にいる人々を監視して、正義を実現させる、または少なくとも正義について警鐘を鳴らすようにさせることが必要であることを示している」
 撮影は大きな影響を及ぼす場合があり、専門家らはソーシャルネットワーク上で、性急な「裁き」がなされる危険性について警告している。
 セントラルパークの出来事はメディア上で大きな反響を呼び、緊急通報番号911に電話する様子を撮影されたエイミー・クーパーさんは、一日のうちに資産運用会社の副社長の職と自身の匿名性を失い、犬を手放した。
 エイミーさんと名字は同じだが他人であるクリスチャン・クーパーさんは、「私は人種差別は許さない。だが彼女の人生が引き裂かれる必要があったのか、私には分からない」と語った。【翻訳編集AFPBBNews】
〔AFP=時事〕

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