(社説)鳥山明さん 世界への扉をひらいた

社説

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 漫画家の鳥山明さんが亡くなった。日本の漫画が海外で「MANGA」と呼ばれ、世界に広まるきっかけを作った先駆者である。

 代表作「ドラゴンボール」や「Dr.スランプ」はアニメ化され、国内外で多くの人々の心をつかんだ。訃報(ふほう)に接した各国の政府やファンからも追悼の声があがり、影響力の大きさを物語っている。

 卓越した画力、個性的なキャラクターによる目の離せないストーリー展開。鳥山さんが繰り出す魅力的な世界観に、メディアミックスが盛んになり始めた時代の流れも手伝い、大きな商業的成功につながった。

 その裏に、国内での熾烈(しれつ)な競争環境とせめぎ合いがあったことは見逃せない。

 連載していた「週刊少年ジャンプ」は漫画誌としては後発であったがゆえ、新人作者の発掘に熱心だった。裏を返せば、作品の中身次第で厳しく評価を下される。

 よく知られているのが、毎号ごとに読者が面白かった作品三つを選ぶアンケートシステムだ。反応が悪ければすぐさまテコ入れを図るが、それでも人気が出ないと10回ほどで打ち切りになるルールさえあったという。

 「ドラゴンボール」も当初はパッとせず、存続が危ぶまれた。編集者と原因を探り、鳥山さん好みの冒険物語から格闘ものへくら替えしたことで風向きが変わったそうだ。

 そんな経験があったからだろう。鳥山さんは読者本位の発言を数多く残した。漫画家を目指す人へのメッセージを問われ、こう答えている。

 「第三者の目で自分の作品を冷静に読んでください。独りよがりになっていませんか? 自分や仲間だけが楽しい内容になっていませんか?」

 鳥山さんは編集者についても、丁寧だが真意が見えない人より、言いたいことを言ってくれる人のほうがいいと語っていた。なにかと人は自分本位になりがちなだけに、学ぶところの多い言葉である。

 一方で、「自分なりにあれこれ考える根性とセンスが一番重要」とも述べていた。読者のために描くことは、読者に気に入られようとおもねることとは違うのだろう。

 受け手のことを考えつつも、自らを貫く。絶妙なバランスの上で鳥山さんは今に続く道を切り開いた。

 米アカデミー賞ではきのう、宮崎駿さんが映画君たちはどう生きるか」で2度目の長編アニメーション賞を受けた。日本の漫画やアニメが世界的な芸術と認められて久しいことを改めて思い起こす春となった。

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    常見陽平
    (千葉商科大学准教授・働き方評論家)
    2024年3月12日12時55分 投稿
    【視点】

    ■立ち止まって考えたい「鳥山明先生は、ハッピーだったのか?」  鳥山明ショックが世界的に話題となり、追悼のコメントが多数寄せられている。彼の功績にケチをつけるつもりは微塵もない。皆と逆のことを言って目立とうとしたり、権威を否定することを目

    …続きを読む