新型コロナウイルス騒動の影響で、テレビCMやテレビ番組が差し替えになったりする一方で、番組の視聴率は軒並みアップしているという。そんな激動のさなかにあるテレビ業界の実態を、内情に詳しいメディアコンサルタントの境治氏が「緊急アンケート」に基づいてリポートする。

新型コロナ対策の1つとしてテレワークを実施するテレビ局が増えているが、連日新たなニュースが発生。取材現場では、人員をなんとかやり繰りしながら、未曾有の事態への対応を続けているという(写真:Takashi Aoyama / 特派員)
新型コロナ対策の1つとしてテレワークを実施するテレビ局が増えているが、連日新たなニュースが発生。取材現場では、人員をなんとかやり繰りしながら、未曾有の事態への対応を続けているという(写真:Takashi Aoyama / 特派員)

 新型コロナウイルスの感染者が徐々に増え、気がめいる日々だ。最新情報を得ようとテレビに日ごろよりも接している人も多いだろう。ふと気づくと、いつものCMが流れていない気がする。ACジャパン(公共広告機構)への差し替えが増えているのか? やはりCM出稿にも影響が出ているのか?

 そう考え始めると、テレビ局の人たちはコロナウイルスにどう対処しているのかが気になってきた。テレワークで番組を作れるのか。お客さん抜きで収録してるのか。放送業界は今回の騒動でどれくらい、どんな影響を受けたのだろうか……。

 そこで筆者は、自分の友人知人、名刺交換した方など放送業界の人々にアンケートをお願いしてみた。答えてもらえるものか心配したが、55人の放送関係者が回答を寄せてくれた。そこからは、放送業界が置かれた苦境と悩みが赤裸々に読み取れる。

(Q1)ご所属を教えてください
(Q1)ご所属を教えてください

 回答者の所属は、民放キー局が16.4%、民放ローカル局(独立局含む)が69.1%、その他が14.5%だった。その他はほとんどがケーブルテレビ局と思われる。

 まず聞いたのが、テレワークについてだ。

 「テレワークで仕事できる人は移行している」が一番多く54.5%。「テレワークについて会社として命令は出ていない」が21.8%、「命令は出たがテレワークへの移行は事実上していない」が7.3%だった。「その他」と答えた人には記述式で回答をもらっている。(※次ページ下から、回答者のコメントがダウンロードできます)

(Q2)あなたの職場では、新型コロナウイルスへの対応でテレワークは導入されていますか?
(Q2)あなたの職場では、新型コロナウイルスへの対応でテレワークは導入されていますか?

 さて、この回答を見て、改めてわかったのは、放送局はちょうどテレワークを導入しようとしていたタイミングだったらしいことだ。だから部分的には移行している。一方で会社として体制ができていないところもまだまだあり、業務の性質上難しい部分も残りそうだ。

 次に放送や番組への影響について聞いた。

(Q3)新型コロナウイルスによって放送や番組に影響はありましたか?
(Q3)新型コロナウイルスによって放送や番組に影響はありましたか?

 「影響があった」との回答が7割。当然だろうが、大きな影響があったことがわかる。これも記述式でコメントをもらった。(※次ページ下から、回答者のコメントがダウンロードできます)

 「番組内容を変更・差し替えも」「特番対応になった」といった内容の変更や「公開番組の無観客化」「無観客での収録、生番組の中止」のように番組にお客さんを入れられないこと、「イベントがなくなり、取材予定が大幅な変更となった」「放送と連動したイベントが先に中止になり、番組が移動となった」といった回答があった。自社主催か取材対象かを問わず、イベント中止の影響が多々あったことがわかる。

 さて視聴率がどう変化したかも気になる。

(Q4)新型コロナウイルスによって視聴率には変化がありましたか?
(Q4)新型コロナウイルスによって視聴率には変化がありましたか?

 「下がった」と答えたのは1人だけで、半分以上が「上がった」と回答したが、「影響はない」も半分弱あった。その理由についても記述回答してもらった。

 「在宅者が増え、HUT(総世帯視聴率、ハウスホールズ・ユージング・テレビジョン)が上がったためと考えます」「ニュースや情報番組に関しては新型コロナ関連で視聴率が上がっている」などから、視聴率が上がった理由ははっきりする。在宅勤務や子どもの休校で家にいる人が増え、その人たちが新型コロナ情報をニュースや情報番組で追っているのだ。だから、視聴率が上がったとは言え、さほどうれしそうではない書き方に感じる。

 一方、「インターネットトラフィックは急激に伸びている。OTT(オーバー・ザ・トップ)、YouTubeの伸びは顕著」との回答もあった。これはケーブルテレビ局の方で、ネットのトラフィックもウォッチできるので、こう書いてくれた。YouTubeを子どもたちが見て、大人は「Netflix」や「アマゾンプライムビデオ」を見ているのだろう。「NHKプラスのトラフィックも始まったばかりとしては目立っている」という指摘も興味深い。

 次に新型コロナについての報道に対する意見も聞いてみた。意外にも、仲間内だからか手厳しい意見が多い。そして身内だからこそ的確な指摘が多いとも感じた。

 「専門家が多すぎ。誰の意見を信じればいいのかわからない」「感染者数にこだわりすぎで、先が見えてこない」。これらは誰しも感じていることだろう。

 「重要な情報源であることを自覚し、何回も特定の事象を報道することで『アナウンス効果』が出てしまうことを強く自覚し、信頼性の高い報道を堅持すべきだ」。これは影響力の大きさを自覚せねばという戒めだろう。

「あおりすぎ」の放送も、「新たな伝え方」が必要に

 「最悪の事態を想定する必要はあるが、政府もそうだが専門家も危機感をあおり過ぎ」。このあおりすぎとの指摘は重要だ。

 「事実の羅列と考察だけではなく、これまでの経緯や最新情勢、ネットデマの否定など、これまでの価値観にとらわれないなにか新しい『情報』の伝え方を編み出す必要性を感じる」。今までにない災厄に、今までとは違う伝え方を考えねばならないとの意見であり、確かにそうだと思う。

 「共働き家族への取材と言っても、富裕層側とみられる家族への取材が目立ち、吐きそう。(一方で)専業(主婦がいるような)家庭への取材が全く不十分で残念。こんな報道があふれること自体に、新型コロナウイルスよりも危機感を覚える」。強烈だが、休校が決まった時、取材対象の家庭が同質的だったのは否めないと思う。

 最後に「新型コロナウイルスと放送業界に関係して思うところがあれば書いてください」と問いかけて、コメントの回答をもらった。これが一番、面白いかもしれない。

 やはりCM収入へのマイナスの影響は出ているようだ。「今回自粛された広告が沈静化後ちゃんと戻って来てくれるのか心配である」「経済の停滞に伴う、広告収入、イベント収入の減少は言うまでもない」「長引くとローカル局にとっては経営に影響が出てくる恐れもあり、不安はあります。新年度に予定した新規事業も動きにくくなっている雰囲気は感じます」。今後への不安がじりじりと高まっているのは他業界も同じだろう。

 こういうときだからこそ、と放送局の使命を問うコメントも多い。「報道機関として、リスクコミュニケーションについて勉強すべきだと思った」「この機に、放送界・地上波への信頼が向上する情報発信の方法を模索すべきだと思う」「放送の果たすべき役割を自覚し、社会的使命を果たし続けるよう、民営企業としては苦しい状況に直面しても頑張っていかなければならない」。情報を伝える機関としてしっかりせねばとの思いが伝わる。

 休校になった子どもたちのために何かできないかも考えているようだ。「卒業式や児童向けの番組が作れないか、検討中」「地上波放送局はなかなか大きな戦略が取りにくい」。

 こんな声もあった。「街ブラやグルメは情報番組の主軸だが、明るく楽しくグルメ店を紹介する映像など世の中の空気感や現実とは乖離(かいり)があるように感じる。視聴者の心が離れていくのではないかと危惧する」「地域で連携する必要性や、局として何をやるべきかをきちんと打ち出せるか、差が出ているような気がする」。ここ数年、毎年起こる災害への対応も含めて、放送局の役割が変わっているのかもしれない。

 さてこうして見ていくと、放送への影響はかなり大きいことがわかったと思う。また同時に、意外にと言うと失礼だが、社会の役に立ちたい意志を感じる回答が多かった。そう、取材などで接すると、放送局の人たちには使命感のようなものを感じることが多い。

 そしてその使命は新型コロナウイルス騒動でますます重たくなり、またリニューアルもせねばならなくなっている。「彼らも、けっこう頑張ってるんだな」、と温かい目で見守っていただければと思う。この国ではまだまだ、テレビ放送の役割は大きいのだから。

●緊急アンケート 自由回答コメント:PDFファイルのダウンロードはこちらから

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