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「記録廃棄は違法」国家賠償は認めず 東京地裁

 戦時下最大の言論弾圧とされる「横浜事件」の元被告2人の遺族が「裁判記録の焼却によって再審請求が遅れ、名誉回復が困難になった」などとして国に計1億3800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は30日、請求を棄却した。本多知成裁判長は「当時の裁判所職員による何らかの関与で記録が廃棄されたと認められる」と違法性を認定したものの、廃棄行為などが国家賠償法施行(1947年)前だったことを理由に、国は賠償責任を負わないとした。遺族側は控訴する方針。

     横浜事件を巡る一連の訴訟で、記録廃棄への裁判所職員の関与を認めたのは初めて。判決は当時の検察官、裁判官の対応についても違法と明確に認めた。

     訴えたのは元中央公論社員の木村亨さん(98年死去)と、元満鉄調査部員の平館利雄さん(91年死去)の遺族。2人は治安維持法違反容疑で逮捕され、45年9月に懲役2年、執行猶予3年の判決を受けた。裁判記録がほとんど残されていないことを理由に再審請求は棄却。特高警察の拷問による虚偽自白が裁判所に認められて再審開始が確定したのは死後の2005年だった。

     判決は、2人が特高警察に殴り続けられるなど違法な取り調べで自白を強要されたと認定。「(当時の検察官、裁判官が)拷問を認識しながら自白の信用性を十分検討しないで裁判をした」と指摘した。裁判記録は判決後ほどなく廃棄されたとの見方を示した。判決はこれらの行為を違法としつつも、公権力の行使による損害に対する国の賠償責任を規定した国賠法の施行以前だったとして、「法令上の根拠がない」と判断した。【伊藤直孝】

    遺族側控訴へ

     「怒りの気持ちでいっぱいです」。元被告、木村亨さんの妻まきさん(67)は判決後の記者会見で、悔しさをにじませた。

     事件では、特高警察官3人が戦後、特別公務員暴行傷害罪で実刑判決を受けた。30日の判決は、裁判所や検察の対応についても違法と認めたものの、戦後の再審判断の遅れを含めて違法性を認めるよう訴えた思いには応えなかった。代理人の森川文人弁護士は「自分で記録を燃やしておきながら、『記録がない』と再審請求を棄却した対応と向き合っていない」と批判する。

     【ことば】横浜事件

     1942年、雑誌に掲載された論文が共産主義の宣伝だとして、神奈川県警特高課などが治安維持法違反容疑で出版社社員ら約60人を逮捕。横浜地裁は45年8〜9月、約30人に有罪判決を出した。2005年に始まった再審公判では、同法廃止を理由に有罪、無罪を判断しない免訴判決が確定。遺族が刑事補償を求めた裁判で横浜地裁は10年、「(同法廃止など)免訴の理由がなければ無罪は明らか。警察や検察、裁判の各機関の故意・過失は重大」とした。

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