2007年9月 6日
関西国際空港の第2滑走路オープンを考える
8月2日に関西国際空港の第2滑走路がオープンし、ほぼ1ヶ月が経過しました。日本で初めての4,000m級の複数滑走路を持つ完全24時間空港(10月より)の誕生ということで、政府・地元関係者は大歓迎です。
冬柴国土交通大臣も、「完全24時間空港としての機能を十分に活用し、アジアの正面玄関としての発展を」と関西空港の国際ハブ空港への飛躍に大きな期待を示しました。
しかし関西国際空港は、財政問題をはじめ空港整備のあり方など多くの課題を抱えており、今後の運営を十分に注視していく必要があります。
1、空港整備と「ものづくり」の国際競争力
私は、平成2005年3月28日、国土交通省の決算を対象にした参議院決算委員会において、製造業の国際競争力維持という視点から空港整備の問題点を指摘し、関西国際空港の第2期工事の財政問題についても政府の具体的な施策を追及しました。
質問の要点は、国際ハブ空港やハブ港湾は、製造業にとって原料・部品・製品の輸出入に不可欠な物流インフラであり、その整備が工場立地や産業振興を図る上で不可欠であること。しかし、その整備費が航空・港湾の利用コストに跳ね返ってくれば、我が国の製造業の国際競争力の足を引っ張ることになること。したがって、物流拠点としての空港の整備強化をはかると共に、空港整備コストの効率化と空港経営の改善を強く求めたわけです。
質問当時、一般的なジャンボ機の国際線着陸料金は、成田空港が94.8万円、関西空港が82.6万円と、30万円台のアジアの主要空港に比べ国際的にかなり割高でした。一方、空港建設に民間手法を取り入れて大幅な建設費用の縮減を図った中部国際空港は65.6万円という料金設定をしたのです。つまり、空港の建設費用はその後の空港経営のみならず、これを利用する国民や産業に大きな影響を与えることになります。当然、関空の第2期工事の建設費用も国の財政健全化の視点を含め大いに注目されたわけです。その後、関空は成田と同様に着陸料の引き下げ努力を継続し、国際水準に近づきはじめています。さらなる経営の効率化に期待したいと思います。
2、関空の建設費と財務問題
関西国際空港は、開港当初から膨大な建設費のためによる深刻な財務問題を抱えています。国や自治体の支援があったとは言え、第3セクターとして出発したため、当初から採算性が追求されてきましたが、第1期の建設費が1兆5000億円という膨大なものなりました。水深18メートルの沖合の軟弱地盤に埋め立てたため、埋立て工事と地盤番沈下対策に膨大なコストがかかってしまったわけですが、ちなみに、中部国際空港が約6400億円、成田空港は1期・2期を併せて約2兆円でした。
この膨大な建設費の負担が今日の経営の大きな足かせになってきましたが、さらに第2期工事についても、1995年の当初のスキームは、「1兆5200億円(用地造成=1兆1000億円、施設整備=4200億円)」と、これも膨大な建設費が必要とされまのです。さすがに財務省が2本目の滑走路建設について疑問を呈したため、建設経費の縮減という方向で政府内の調整がすすめられました。そして、2001年度に、「用地造成=1兆円程度、施設整備の半分を段階的に施工」に変更されました。一昨年の決算委員会でも、岩崎航空局長(当時)は私の質問に対して、第2期工事は、「当初の1兆5000億円弱の事業費について、用地、施設、造成費を含め9165億円に縮減してやっていきたい」と答弁しています。さらに、平成17年度概算要求において、この9000億円弱のうち600億円分の事業の先送りを行いました。
これをまとめると、第2期工事のうち、上物と呼ばれる空港施設整備費は事業の先送りによって、4200億円→2100億円→600億円と減額。下物と呼ばれる空港用地は、コスト削減と事業先送りによって、1兆1400億円→9000億円→8400億円と、順次、減額措置をとってきたわけです。
以上のような、第2期工事の事業費削減をとってきたとは言え、関西国際空港が抱える財務問題はいまだに楽観視できない状況にあります。
関西国際空港は、膨大な建設資金を借り入れたため、1994年の開港以来10年間は赤字が続き、現在(2007年3月末現在)までの累積損失は、2191億3300万円となっています。また、有利子負債残高も2006年度度末で1兆1809億円にのぼり、利払いだけでも年200億円が必要になっています。
2003年、関空会社は初めて民間企業出身の社長が就任し、その下で経営改革を進められてきました。その結果、2004年度に初めて単年度(単体)で開港10年にしてはじめて黒字となり、以降3年連続で黒字を計上しています。しかし、財務状況の厳しさは続いており、政府は引き続き関空に対する利子補給金として毎年90億円の公的資金の注入しています。
国土交通省の交通政策審議会航空分科会は今年の6月末に答申をまとめ、関空について「有利子負債削減に向けた財務構造の抜本的改善を図る」ことを明記しました。膨大な借金の返済のために国の資金投入が視野に入れられ、成田国際空港会社の株式上場に伴う株売却益を活用なども一案として浮上しているようです。こういった大胆な財政措置が国民的な理解と支持を得られるかどうかについては不透明ですが、いずれにしても関空会社としてはさらなる自助努力を続けていくことが肝要だと考えます。
3、いかに需要を開拓するか
関西国際空港の2006年度の連結決算では、「営業利益1057億円、経常利益126億円と増収増益を達成、当期純利益は98億円を計上」と経営改善が継続しています。発着回数がアジア路線を中心に増加を続けていること、免税店などの物販施設の充実などにより収益が増加したためです。しかし、この8月の第2滑走路オープンで、今年度から減価償却や固定資産税など負担が年間100億円増えることもあり、19年度の経常利益は半減するのではないかと見込まれています。
また、滑走路が1本増えたからといって、自動的に乗り入れる航空便が増えるというわけにはいきません。この第2期工事の計画が進んだ背景には、関西などへの訪日観光客やビジネス客増加、関西経済の持続的拡大、成田空港の発着枠の限界、9.11テロ以降の低迷していた航空機利用の回復、などがありました。こういった背景がある中で、発着需要は2007年度=13万回、2008年度=13.5万回との予測がたてられ、これを達成するという「公約」のもとに第2期工事の施工が決められたわけです。しかし、この「公約」の見通しは大変厳しいものがあります。すでに終えた2006年度の発着回数は11万6475回で前年度比3.5%増と増えたものの、目標の11万9000回には届きませんでした。
これは、依然として主な収入源となっている着陸料が韓国の仁川空港などアジアの他のハブ空港と比べかなり高いということがあります。さらに、北米路線は運休が続き、ピーク時の1998年の4分の1程度までに減りました。大型機を使った北米路線の長距離便の減少は、空港にとって大きな減収になります。現在のとこと、関空は新規就航や増便した航空会社の着陸料を30%程度割引するなど需要開拓の戦略をとって一定の成果を上げていますが、今後はこの北米路線をいかに回復させるかなど、様々な努力をしていかなければならないと考えます。
4、「2010年問題」などへの対応
関西国際空港株式会社には、先に見た、財務問題、需要開拓の問題に加え、「2010年問題」という大きな問題が待ちかまえています。
具体的には、①2010年に成田空港の平行滑走路が2180mから2500mに延伸され発着可能回数が年2万回に増えること、②羽田空港の4本目の滑走路が完成し中国や韓国路線などの国際定期便が就航するようになることです。3年後、関空の国際線が成田や羽田に逃げるのではないか、と懸念されているのです。つまり、成田、羽田は、首都圏という巨大な後背地があり、ビジネスを中心とした大きな需要を見込んで航空会社が関空から切り替える可能性が大きいからです。
そこで、関空会社は6月に「第2滑走路の運用開始後の空港整備計画案」を発表しましたが、ここでは第2旅客ターミナル整備計画を大幅に修正して、増便が著しい貨物重視に切り替え、空港施設は需要に応じて段階的に整備する手法を取り入れることにしました。この貨物重視を打ち出したのは、「成田と同じ方向性では勝ち目がない。関空の独自性を目指すべきだ」との戦略的視点に立ったのでしょうが、このことが国内的にも国際的にも評価されるためにも、政府・自治体・地元財界など関係者の努力に大きな期待が寄せられています。
先月の第2滑走路の完成で関空の吸引力は確実に高まっていると言えますが、政府が戦略化している「国際ハブ空港」への大胆な飛躍ができるかどうかは、成田空港や中部空港、さらには近畿の伊丹空港などとの棲み分けを明確化しながら資源の効率的配分が断行できる空港整備行政にかかっていると考えます。