首里城再建に「赤瓦」欠かせないが… 土採取地に入れない、職人もいない

2019年11月8日 11時50分
 火災で正殿などが焼失した那覇市の首里城。政府は再建に必要な予算を支援するなど全面協力を掲げた。ただ、お金だけで済む話ではないらしい。理由は、首里城の特徴の一つの屋根の赤瓦。調達が難しいという。何が壁になっているのか。(中沢佳子)

赤瓦が印象的な焼失前の首里城=2012年10月、那覇市で

 「首里城は沖縄の誇りと言える建造物。一日も早く復元できるよう、必要な財源を含め政府として責任を持って取り組む」
 六日に首相官邸で開かれた、首里城復元の関係閣僚会議で安倍晋三首相は断言した。沖縄県の玉城デニー知事も、本土復帰五十年の節目の二〇二二年までに再建計画をまとめるという。
 政府が全面協力し、資金面の支援も広がっている。沖縄戦で失われた正殿が復元されたのは、一九九二年。再建に必要な関連資料も残っている。課題はどんどん解決されていく。それでも沖縄に古くから伝わり、首里城に使われた「赤瓦」の調達は難しい。

◆主原料は沖縄本島の泥岩「クチャ」

 地元の瓦工場などでつくる「沖縄県赤瓦事業協同組合」によると、赤瓦の主原料は「クチャ」と呼ばれる沖縄本島中南部に豊富な、黒っぽい灰色の泥岩。そこに少し赤土を加え、成形して五十日ほど自然乾燥させてから焼き上げる。独特の赤色はクチャに含まれた鉄分が生み出す。
 組合の当山彰専務理事は「瓦には水分を吸収する性質があり、断熱効果がある。屋根に使用すると室内の温度が三~五度低くなるというデータもある。特に首里城の瓦は高めの温度で焼き上げており、より吸水性が高い」と語る。

◆職人の後継者なく製法再現できず

 赤瓦は青い海と空に映え、景観美を作る。首里城に使う赤瓦は、民家のものとは別格の品質だ。瓦職人などでつくる「沖縄県琉球赤瓦漆喰施工協同組合」は五日、焼失した正殿の赤瓦を回収し、再利用できるものは使うよう県に要請した。

火災で焼け落ちた赤瓦が散乱する首里城内を見つめる消防隊員=1日午前9時43分、那覇市で

 この別格の赤瓦は五年前に亡くなった職人が作った。土の配合や高温での焼き上げなどを工夫しているといい、つややかな表面と頑丈さが特徴。だが、この職人の後継者がおらず、今では独特の製法を再現できなくなっている。

◆土採取地に公共施設が建ち、入手不能に

 さらに原料の一部に使った同県名護市の土の採取地には、公共施設が建ってしまった。もうこの土は入手できない。施工協同組合の田端忠代表理事は「似たものはできるだろうが、同じものを作るのは不可能だ」と説明する。

正殿(中央)などを焼失した首里城。屋根の赤瓦も損傷した=10月31日午後、那覇市で

 瓦職人は現在、数十人で前回の復元工事の時から半減した。よしんば、製造が可能になったとしても、正殿だけで約五万枚を作る人手がない。瓦をふく職人も足りない。

◆「できる限り保存し復興のシンボルに」

 田端氏は「建設業界は好調と言われるが、瓦は斜陽産業。沖縄は強い台風にたびたび襲われて瓦が飛ぶ。瓦を使わない家が増え、需要が激減している。職人は年々減り、技術を継承したくても伝える若手がいない」と嘆く。せめて、メンテナンスする人材を育てようと検討していた。そこに今回の火災が起きてしまったという。
 それにしても、焼け残った瓦は再利用できるのだろうか。田端氏は「昔から赤瓦は劣化していなければ再利用してきた。正直、今回使える瓦はわずかだと思う。ただ、高品質の赤瓦をできる限り保存して次の世代に伝え、復興のシンボルにしたい」と語った。
(2019年11月7日朝刊「特報面」に掲載)

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