共同通信社や毎日新聞社に,私が担当させていただく予定の新しい夫婦別姓訴訟を御紹介いただいたことを,このブログでも御紹介いたしました。

 

 

 

予想以上に大きな反響をいただき,この問題の根深さと苦しまれている方の多さをひしひしと感じています。

 

 

 

そのような中,直接もしくはネット上で,いくつかのご質問や疑問点を,この新しい夫婦別姓訴訟にいただきました。それらのご質問は,私が考えている新しい夫婦別姓訴訟の特徴を浮かび上がらせるのに適切だと思いましたので,この記事上で,回答をさせていただくことにしました。

 

 

 

まず第一に,「夫婦や家族が別の氏になることは,家族の分断を招くのではないか。」というご質問です。私が考えている今回の新しい夫婦別姓訴訟で求めている「夫婦別姓」とは,実はそのような疑問や反対の意見を述べられている方が念頭に置かれている,婚姻の氏そのものを別にする,ということではないのです。

 

 

 

私が考えている新しい夫婦別姓訴訟で求めることは,民法750条で夫婦の氏を決めた上で,氏を変えた方が旧姓を戸籍法上の氏(呼称上の氏)として使い続けることを希望すれば,それを戸籍法上の氏として認めましょう,という意味での夫婦別姓です。ですので,民法上の夫婦の氏は1つになります。なにも家族は分断しないことになります。

 

 

 

単に,戸籍法上の氏,呼称上の氏として,旧姓を用いることを認める法律上の根拠を作ってほしい,ということにすぎないのです。民法上は家族の氏が存在し,仕事などで旧姓を用いることについて,現在は法律上の根拠がありません。その法律上の根拠を作ってほしい,という訴訟になるのです。

 

 

 

また第二に,多くの方からご質問をいただき,反対意見としても述べられているのが「子の氏をどうするのだ。」という点です。その点も御心配には及ばないことになります。なぜならば,民法750条はこれまでどおり存在しますので,やはり民法750条で届け出をした際に決める夫婦の氏が,家族の氏となり,その結果子の氏となるのです。民法750条で決める氏とは,いわゆる戸籍筆頭者の氏になりますので,その戸籍筆頭者の戸籍に子も入りますので,その民法750条で決めた夫婦の氏を子も当然に名乗ることになります。戸籍法上の氏は,子の氏とは全く関係がない存在なのです。
 

 

 

逆に,今回の訴訟で求める予定の「戸籍法上の氏(呼称上の氏)」について,それが存在しないことは,とても大きな問題だと思っています。なぜならば,現在の法律制度では,戸籍法上の氏(呼称上の氏)として旧姓を使い続けることが認められていないため,旧姓を事実上使用するような状態となり,それはいわば,旧姓を用いることについて,法律上の根拠がないのに,使用せざるをえない状態が継続している,ということを意味しています。

 

 

 

ところが,例えば,今年の9月からは裁判官や裁判所書記官などの公務員も旧姓で公文書を作成することが容認されたのですが,そうなると,公務員の方々が,公文書を,法律上の根拠のない名前で作成することになります。そのような事態は法治国家として避けるべき状態と言えます。旧姓で作成された文書について,誰がその文書を作ったかを第三者が確認しようとしても,その名前は戸籍上掲載されていないことになるからです。やはり社会生活を送る上で旧姓を使用することについて,法律上の根拠を与える必要が,現段階では特に生じている,と言えると思います。新しい夫婦別姓訴訟で求める「戸籍法上の氏」の制度は,その旧姓使用の法律上の根拠となるものです。

 

 

 

逆に,そもそも,戸籍名と通称(旧姓)を使い分けさせること自体に対し,氏名の人格権性を侵害するという批判が有力に唱えられています(『新注釈民法(17)親族(1)』(有斐閣,2017年)178頁)。私達は「戸籍法の氏」を早急に認めることが求められているのではないでしょうか。それは,国会(国会議員)にとっての急務であると言えると思います。

 

 

 

このように,新しい夫婦別姓訴訟で求める「戸籍法上の氏(呼称上の氏)」とは,①上でお話しした疑問点を全てクリアし,②事実上用いられているにすぎない旧姓使用について,法律上の根拠を与えることになり,③さらには,仮に裁判所が「戸籍法上の氏」を設けていない国会(国会議員)の立法不作為を違法と判断したとしても,国会(国会議員)としては,「婚姻により氏を変えた者は,戸籍法上の届出により,旧姓を戸籍法上の氏として用いることができる。」という内容の条文を1条だけ,現在の戸籍法に加えるだけで,その違法状態は解消されることになるのです。

 

 

 

その意味で,裁判所による違憲判断は,何等国会の混乱を生まない,という意味において,「戸籍法上の氏(呼称上の氏)」という存在は,夫婦別姓の問題を最も適切に解決する方法なのだと思います。