77回目の全国大会 山あいの小さな県立高はなぜ勝ち続けられるのか

岡田健
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 神戸・三宮から車で北へ約1時間半。丹波高地の山あいにある高校が、夏冬合わせて77回目の全国大会出場を決めた。一学年3クラスの小さな県立高のチームがなぜ、これほど勝ち続けられるのか。

 コートが一面とれる広さの専用体育館に、女子選手の励まし合う大声が響き、熱気が充満する。兵庫県丹波市春日町にある県立氷上(ひかみ)高の女子バレーボール部は、来年1月5日に東京で開幕する全日本高校選手権大会(通称・春高〈はるこう〉バレー)に3年連続37回目の出場を決めた。

 3人の指導者がコートに視線を送る。体育科教諭の川釣(かわつり)修嗣監督(54)は、筑波大で中垣内祐一・東京オリンピック(五輪)代表監督の一学年上。社会科講師の上野素希コーチ(27)は慶応大で主将を務め、全日本元主将の柳田将洋選手(29、Vリーグ・サントリー)ともプレーした。体育を教える石丸真里江コーチ(25)は全国大会を経験した卒業生だ。

 部員22人は、全国の強豪に比べると少ない部類に入る。全員が生活ビジネス科に所属し、3年間同じクラスで過ごす。「しっかり選手を見ようと思ったら、1学年7~8人が限度」と監督。

 自宅が遠い生徒のための寄宿舎があり、部員全員が寮に入る。食事は、高校年代の女性アスリートに必要な栄養のバランスが考えられ、基本的に毎日3食用意される。練習時間は平日が始業前も合わせて3・5~4時間。土日祝日が3~4時間。学校や寮の周りには娯楽も少なく、学業と競技に集中できる。

 一方、寮に授業、部活動とほぼ24時間同じメンバーで生活するのは、気詰まりになりやすい環境といえる。好きなものを好きなときには食べられない。監督は「勧誘しても、寮生活を嫌がって来てくれないことが増えた」と語る。

 生活面には細心の注意を払う。石丸コーチが寮に住んで、様々な相談にのるなど選手を見守る。土日祝の練習は基本的に午前だけで、午後は休み。さらに週1、2日は完全オフで、なるべく自宅に帰れる機会を多くして、メリハリある生活を送れるようにしている。

 「家に帰って何をしよう、何を食べようとみんなでわいわい話すのも楽しみの一つ」と三宅望天(そら)主将(3年)。小学生の頃から競技を続けるが近畿大会にも出場経験がなかった。「全国大会に行くなら」と厳しい環境に身を置こうと決め、加古川市からやってきた。

 市尼崎高を県トップに育てた高見諭・元監督が1970年代後半、前身の氷上農高に赴任。強豪への道を歩み出した。寮や練習場など環境を整えながら、全国高校総体と春高で計6度優勝。銅メダルを獲得した2012年ロンドン大会代表の井上香織さんら五輪選手も育った。

 05年に就任した川釣監督は、中学までの実績よりも、背の高さなどの体格や身体能力を重視して選手を集める。丹波市内の病院に勤務していた理学療法士の力を借り、筋力トレーニングに力を入れ、体のケアに留意する。監督は「故障も減ったし、アタックのパワーも上がった。いいことが多い」。遠征に使うバスは近所の高齢者福祉施設の持ち物だが、優先で借りられる。地元の支えも大きい。

 正確なレシーブからの速攻やブロックという、センター線をうまく使うバレーは伝統だ。今のチームも三宅主将に加え、179センチの木下結稀選手(1年)がミドルブロッカーを務める。40回目の出場だった今夏の全国高校総体では2回戦で、準優勝した就実(岡山)に敗れた。春高バレーの目標について、三宅主将は「4強を目指したい」。1月5日の1回戦で、42回目出場の古川学園(宮城)と対戦する。

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この記事を書いた人
岡田健
神戸総局|高校野球・経済・街だね
専門・関心分野
高校野球などスポーツ、食、お金