すべての作品の詞を手がけている。その独特な言葉の感覚と、のびやかだけれどどこか切なく、聴くものの気持ちをとらえて離さない歌声で、幅広い世代から人気の一青窈さん。初の単行本「明日の言付け」は、書き下ろしエッセーと詩で構成され、まさに彼女ならではの世界観、詩人としての才能を存分に堪能できる作品集となっている。
(取材・文/井上理江 写真/田中史彦)
ライブでは「『ハナミズキ』は、9・11の惨状を見たのがきっかけで書いた曲です」などと、曲にまつわるエピソードや自分の想(おも)いを話すのですが、もっと多くの人に、歌詞だけでは伝わらないことをちゃんと伝えたいと思っていました。それで日々感じていることを本にまとめ、出版させてもらいました。
書くことは好きなのですが、携帯メール一つでも字面やレイアウトにいちいちこだわってしまうタイプ。基本的に歌詞もエッセーも携帯メールもすべて同じ熱量で書くので、ものすごく疲れますね(笑い)。
活字で伝える場合は、歌とはまた違ったリズム感で読んでほしいので、その想いをレイアウトで表現するようにしています。「もらい泣き」の冒頭も
朝、から 字幕だらけのテレビ
に
となっていますが、こんなふうに文字を並べているのは、「朝」という文字が出てきたら、読んでいる人が、「朝」の情景を思い浮かべた後に次の場面にいってもらいたいから。助詞を改行しているのも、いったんその前で区切りを置いて欲しいからです。読み手の脳の中で広げてほしい映像を、こちらで勝手に編集しているわけです。
一つの作品に対して100枚近くプリントアウトして音読することもあります。誰にも気づかれないようなところで一人、あーだこーだと考えながら言葉を出したり入れたりしています。
もともと詩の世界が好きなんです。読み手が自分なりに想像してくれたり考えたりできる余白を設けておくのが好き。
言葉の選び方はコピーライター的な発想だと思います。たとえば、私が尊敬してやまない阿久悠さんの曲に「ペッパー警部」があります。あのタイトルは炭酸飲料「ドクターペッパー」から出てきたらしいのですが、私の時代にはなかったので、私だったら何警部にしよう? 「マウンテンデュー」からとって「デュー警部」かな、警部より刑事(デカ)にして「デュー刑事(デカ)」のほうが強そうでいいかな、とか。そんな造語遊びはよくしています。
そう。パソコンに「タイトル候補」「新格言」「季語」とファイルを作っておいて、心に響いた人の言葉や、言葉遊びで考えた言葉はストックしています。
で、実際に歌詞を書く時は、ある人の言葉を受けて、自分だったらその瞬間にどんな気持ちになるかな、と考えながらまとめることが多いです。いずれにしても、自分に置き換えて、私ならどう表現するかを常に考えています。
1976年東京生まれ。台湾人の父と日本人の母の間に生まれ、幼稚園まで台湾で過ごし、以後日本で暮らす。父を小学2年、母を高校2年で亡くす。慶応義塾大学環境情報学部卒。在学中はアカペラサークルに所属。福祉イベントで歌っているところをスカウトされ、2002年10月「もらい泣き」で歌手デビュー。すべての作品の作詞を手がけ、独特の詩の世界と卓越した歌唱力で幅広い世代から人気を得る。代表作に「ハナミズキ」「かざぐるま」「影踏み」などがあり、07年11月には初のベストアルバム「BEST YO」を発売。04年には映画「珈琲時光」(ホウ・シャオシェン監督、松竹)に初主演。今年3月に3枚目のアルバム「Key」を発売。5月、初の単行本「明日の言付け」(河出書房新社)を発売。
一青窈さん初の単行本「明日の言付け」。詩とエッセーで織りなす珠玉の作品集です
「詩人」としての才能を存分に堪能してもらえる詩の数々はもちろんのこと、亡き父との懐かしい思い出話や、母からもらった手紙のエピソードなど、キュンと、そしてほろりとなるエッセーも満載。今の一青窈さんが一番読者に伝えたい「明日の言付け」です。「しっかり読みこむというよりも、手元に置いてもらって、ぱっと開いた時に刺さった文字を読んでもらえれば。もう少し言うなら、うまく言えない気持ちが心にあって、それがもどかしい人に読んでほしい。そして、読んだことで少しすっきりして、一歩前に踏み出す勇気につなげてくれたらうれしいです」(一青窈さん)
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