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【名画クロニクル】細川俊之追悼 「陸軍中野学校 開戦前夜」

去る2011年1月14日、俳優の細川俊之さんが亡くなった。二枚目俳優として舞台を中心に活動していたが、数々の映画にも出演している。その中で、同じく二枚目で知られていた伝説の俳優、市川雷蔵と共演した「陸軍中野学校 開戦前夜」を紹介したい。

陸軍中野学校は、旧日本陸軍に実在したと言われるスパイ養成学校を舞台にした映画シリーズであり、1作目はスパイ養成課程を通してスパイの非情な生き様を描く内容となっている。

大ヒットを受けて制作された2作目以降は、市川雷蔵演じるスパイ「椎名次郎」の活躍物語となっているが、日中戦争から対米開戦に至るまでの昭和前史を背景にした、戦争映画としての性格も持っている。

今回紹介する5作目は、対米開戦前夜の緊迫した情報戦の模様が描かれ、おそらくこの後も続編を予定していたものと思われるが、雷蔵の急逝により本作がシリーズ最終となった。

細川俊之は、本作の中では海軍情報将校 磯村大尉役で出演。
雷蔵演じる椎名次郎と協力して、敵側スパイとの凄絶な情報戦を演じる。

陸軍中野学校シリーズ全編に言えることだが、「誰がスパイか」「誰が味方か」すぐには分からないという緊迫感がたまらない。

細川演じる磯村大尉は、香港と日本で椎名次郎の協力者として忠実に働くが、敵側の謀略にはまり、自白剤を打たれて機密を漏えいしてしまう。

これは、雷蔵演じる椎名次郎が香港で同じく敵側の謀略にはまって自白剤を打たれるものの、最後まで機密を漏えいしなかったのと対照になっている。

シリーズを重ねただけあって、敵味方ともに情報窃取や伝達の手法が、かなり込み入ってきており、小道具に小型テープレコーダーが登場したり、コーヒー豆の袋に紛れ込ませた情報を実に複雑なルートで伝達したりなど、ワクワク度は満点である。

その他、本作では陸軍中野学校女性部(?)の女スパイが芸者になって登場したり、雷蔵演じる椎名次郎が敵側スパイである一の瀬秋子(小山明子)と恋仲になりそうになったり、非情なだけでは殺伐としすぎなので、「色気」を出したようである。

初めて陸軍中野学校シリーズを見る人は、まず第1作目のスパイ養成課程を見た後は、他の4作をどれから見てもよいだろう。

なお、細川俊之の前夫人は、本シリーズ1作目で市川雷蔵の婚約者役を演じた小川眞由美であり、本作での女スパイ役を演じた小山明子は、日本の巨匠監督 大島渚の夫人である。

こうした映画・俳優人脈も併せて楽しむことができる作品である。
(TechinsightJapan編集部 真田裕一)