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徹底解剖 藤井聡太四段

2017年7月31日

デビュー以来、歴代最多の29連勝を達成した藤井聡太四段。人工知能AIを使って、29連勝中に指した全3,123手を分析すると、終盤に相手を一気に追い込む圧倒的な力が見えてきた。さらに羽生善治三冠らトップ棋士たちもその勝負術を高く評価。将棋界は新たな時代への突入が予感されている。進化を続ける14歳・藤井聡太四段(2017年7月8日時点)を様々な角度から徹底解剖する。

詰め将棋で培った驚異の「読み」

今年3月に行われた「詰将棋解答選手権チャンピオン戦」。大会には、公式戦10勝目を挙げた直後の藤井四段のほか、11人のプロ棋士や全国の強豪アマチュアが参戦した。「詰め将棋」は、いわば将棋が強くなるための練習問題。相手の「王」を追い詰める道筋を考える。プロでも解けない超難問が出題されるこの大会だが、藤井四段は制限時間の1時間以上前に問題を解き終え退出。3連覇を果たした。

藤井四段が詰め将棋を始めたのは5歳のとき。通っていた将棋教室の課題だった。ほかの子供が飽きてしまうなか、藤井四段だけは夢中で解き続けたという。これまでに解いた数は1万を超える。

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藤井四段が使っていたノート

取材班が藤井四段の自宅を訪ねた去年12月。プロ初戦を2週間後に控えたこの日も、藤井四段は詰め将棋に没頭していた。通常、プロ棋士は対局相手の指し方を研究し対策を練るが、藤井四段の場合、相手の研究はほとんどしていない。
「あんまり人の将棋を気にしていてもしょうがないかなって。将棋っていうのは自分の頭で考えて指さないといけないので、やっぱり本当に強くなるには、自分で考えるしかないと思っています」(藤井四段)

藤井四段の師匠・杉本昌隆七段は、詰め将棋で培った終盤の読みの鋭さが藤井四段の最大の武器だという。「私も今までいろんなプロの人と指してきましたけど、終盤で読みが正確。抜群に速いです」(杉本七段)

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終盤の鋭い読み。その武器をいかんなく発揮したのが、通算1,300勝を誇る加藤一二三九段を相手に戦ったプロ初戦だった。

加藤九段のペースで進んでいたかのように見えたこの対局。終盤にさしかかったころ、それまで守りに徹していた藤井四段が反撃に出る。80手目、「いま攻め合いに持ち込めば、必ず先に相手の王を取れる」と読み、相手陣地の深くに「銀」を打ち込んだ。そして86手目、ついに藤井四段が王手。さらにここから8回の王手をたたみかけ、勝利を決めた。終盤に王を追い詰める藤井四段の「寄せ」は、歴戦の加藤九段からしても驚異的だったという。ここから誰も予想しなかった藤井四段の快進撃が始まった。

人工知能AIの力を身につけた藤井四段

プロ昇進前から藤井四段を知る山崎隆之八段は、人口知能AIの力をうまく活用し、超速の進化を遂げていると考える。年々強さを増しているAIを使った将棋ソフト。山崎八段も対戦したとき、人の発想を超えた手を次々と繰り出しされ、敗れた経験をもつ。こうしたAIを使った将棋ソフトを相手に練習を繰り返し、技を磨いているのが、藤井四段たち若い世代だ。藤井四段の場合、詰め将棋で鍛えた終盤の力に、AIの価値観が加わったことで、劇的な進化を遂げていると山崎八段は考える。

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AIを相手に戦い身につけた力。それを目の当たりにしたのが、羽生善治三冠だ。今年4月に非公式戦で藤井四段と戦った。
藤井四段が繰り出した27手目の「4五桂」。従来、桂馬は序盤であまり積極的に動かさない駒とされ、常識では考えにくい手だった。この駒を取られ、相手の武器とされると、形勢が不利になるリスクがあるからだ。陣形が整わないうちに打って出たこの「4五桂」に、恐怖心を持たず、冷徹な道筋を追求するAIに似たものを感じたという。羽生三冠はその後、桂馬を奪って対応したが、手に入れた駒を生かせず、徐々に追い込まれ敗れる。かつての定跡とは全く異なる、藤井四段の発想について羽生三冠は「非常に現代的なスピーディな将棋だという印象を持った」と話している。

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連勝の新記録がかかった29戦目は、AIソフトをいち早く取り入れ、新人王を獲得した19歳の増田康宏四段との対局になった。増田四段がとった作戦は、自分の王の前に金と銀を屋根のような形で並べた「雁木囲い(がんぎがこい)」。江戸時代に生まれ、近年はほとんど使われなくなった戦術だが、増田四段はAIが雁木囲いで高い勝率をおさめていることに着目。藤井四段への秘策として使った。

AI世代同志の対局。勝負の分かれ目となったのは増田四段の42手目「4九角成」。この局面をAIで分析してみると、最善手は「2六歩」。増田四段もこのとき「よりAI的なのは2六歩」と考えていたが、一気に勝負をかけたいという気持ちからAIの理論を脇に置いた。そしてAIの考えにより近い手を指し続けた藤井四段が接戦を制した。
「普通ならあれぐらいのミスは許されるかなっていう(ミス)だったんですけど、本当に許してくれませんでしたね」(増田四段)

人間の考えた「定跡」とは異なる手を打つAI。その力を身につけた藤井四段の登場は、将棋界に新時代到来を予感させている。

AIにもない「勝負師」としての才能

藤井四段の29連勝の中には、瀬戸際まで追い込まれたあと大逆転した一戦がある。
羽生善治三冠と渡辺明竜王の2人はこの対局に藤井四段の“勝負師としての才能”を見たという。

この手が指されたのは20連勝のかかった澤田真吾六段との対局だった。格上の澤田六段に対し、藤井四段は珍しくミスを連発。“あと一手で負け”という崖っぷちまで追い込まれる。逆転する唯一の手段は澤田六段にミスをしてもらうこと。そのために藤井四段はある作戦を思いつく。それは連続王手で澤田六段の王を誘い出し、最後に桂馬で王手をかけること。実は、この桂馬が藤井四段の作戦、いわば“ワナ”だった。これに対する澤田六段の選択肢はふたつ。間違いを選んでくれれば、逆転の可能性が生まれる。

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「かなり前の局面から、その局面を想定していたのは間違いない。非常に苦しい中で、いろいろ手を考えついて、選んでいる。あの年であの完成度。信じられない。」(羽生三冠)

さらに渡辺竜王はこの手を指した「タイミング」に感心する。このとき澤田六段は持ち時間を使いは果たし、考えられる時間は一手につきわずか1分しかなかった。ミスをしやすいタイミングを狙って巧妙なワナを仕掛けたのだ。
「負け将棋なのに二択に持って行く。しかも時間のないときに。プロでも難しい勝ち方。」(渡辺竜王)

実はこの手、相手のミスにかけた一手で、AIが選ぶ「最善手」からはほど遠い。しかし、澤田六段は二択の選択を誤り、藤井四段が逆転勝利をおさめることになった。AIとは違う、人間らしい「勝負師」としての才能も備える藤井四段。恐るべき中学生にこれからも目が離せない。

この記事は、2017年7月8日に放送した 「徹底解剖 藤井聡太 ~“進化”する14歳~」 を基に制作しています。
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