新作オラ夏 開発者がこだわる高2から終わらない夏休み

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聞き手・黒田健朗
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 人気アニメ「クレヨンしんちゃん」と夏休みをテーマにしたゲームソフト「クレヨンしんちゃん『オラと博士の夏休み』~おわらない七日間の旅~」(オラ夏、Nintendo Switch)が15日、発売された。開発を手がけたゲームクリエーターの綾部和さん(ミレニアムキッチン)は、田舎で昆虫採集や魚釣りなど夏休みを追体験できる人気ゲーム「ぼくのなつやすみ」の開発者としても知られている。「高校2年生から終わらない夏休みをさまよっている」という綾部さんに、熊本でロケハンをしたという今作や、ある「バグ」が話題になった「ぼくなつ」の裏話などを聞いた。

 あやべ・かず ゲームクリエーター。1965年生まれ、北海道出身。代表作に「ぼくのなつやすみ」シリーズ、「ぼくらのかぞく」「怪獣が出る金曜日」など。「クレヨンしんちゃん『オラと博士の夏休み』~おわらない七日間の旅~」(Nintendo Switch、通常版パッケージは税込み6580円)ではゲームデザイナーを務め、脚本も手がけた。

 ――綾部さんが「オラ夏」を手がけたのにはどんなきっかけがあったのでしょうか。

 (発売元の)ネオスさんから、「クレヨンしんちゃん」と「夏休み」のゲームができないか、と2019年の春にお話がありました。内容がすごくいい、と思って。組み合わせが面白く、わかりやすいセッティングで興味を持ちました。

 ――「クレヨンしんちゃん」だからこそ、意識したことはありますか?

 歴史が長い「クレヨンしんちゃん」という作品の中で、大勢のファンの方たちに受け入れられるように頑張らないといけない、と。「クレヨンしんちゃん」は特に劇場版アニメでSF、ロボットが出てきたり、時代劇の世界が舞台だったり、非日常と日常が並列して存在しても違和感がないので、その辺りをどうやって生かすかは気をつけて作りました。

 ――非日常という部分では、今回のゲームも「恐竜」が出てきます。「ぼくのなつやすみ」(第1作は2000年)にもニホンオオカミが出てきましたね。

 ただ、「ぼくなつ」の場合は、ニホンオオカミが出てきたりとか、昔の財宝を探したりとか、日常世界を壊さない範囲での非日常だと思うんです。あの世界に宇宙人や恐竜とかが出てきたら、やはり飛びすぎになる。だけど、「クレヨンしんちゃん」はそういうのが許されている世界観だと思うので、そういう意味ではゲームとして作りがいはありますね。日常の部分は「ぼくなつ」の延長線上で、非日常の部分は「クレヨンしんちゃん」の世界。日常と非日常の部分というのは、しんちゃんの力を借りてマッチングできたかな、と思います。

舞台は「アッソー」

 ――「オラ夏」は、熊本を思い起こさせる「アッソー」という土地が舞台です。

 舞台を「アッソー」にしたのには、二つ理由があります。まず、あまり日常世界に近い東京とか埼玉が舞台だと、あまりウソがつけないかな、と。あと、熊本がしんちゃんのお母さんのみさえさんの故郷なんですね。みさえさんの故郷の隣の隣のアッソーの街という設定になっています。そっくりそのままリアル世界をゲームの中に作ったのではなくて、あくまでアッソーという、架空の世界の枠組みです。日常に近い非日常を作りました。

 コロナが流行する前、2019年の秋に1週間ぐらい熊本県に行って、ロケハンというか、イメージを膨らませる旅をしました。当時は熊本の地震の影響で道路が寸断されている場所もありました。ロープウェーなど、完全復旧していない状態で現実に残っている物もゲームには入れています。

 熊本には通潤橋という江戸時代の水道橋が残っているところがあって、その街の情景がすごくよかったですね。ゲームの朝の体操の前に出てくる青空のシーンはそこで撮った風景です。天気の良さを含めて、とても印象に残っています。「つんつん橋」という名前でゲームの中にも登場しています。あと、今回のロケハンで乗ったわけではないのですが、球磨川の地域を走っているSLの列車も形は変えてありますが、モチーフとして登場させています。

 ――ゲームを作る時は、かなりロケハンを意識しているんですか?

 重視しているというか、たぶん行かなくても作れるんですが、行くことによってイメージを膨らませることができる。「ぼくなつ4」(2009年)の時に瀬戸内海の島を舞台にしたんですが、できあがったのは、いろんなところのいいところからできた場所でした。遊んでくれたプレーヤーがそれぞれが知っている島に記憶を投影して、「あそこはこの島に違いない」「いやあっちの島に違いない」とバラバラなところがロケ地だと思われるというのが面白かった。今回もいろんなところをロケしています。いろんな人のいろんな記憶を呼び戻す感じでできているかな、と思います。

ぼくなつ、「8月32日」のバグ

 ――そういえば、「ぼくなつ」の第1作は「月夜野」という土地が舞台です。同名の地名が群馬にありますが、そこがモデルなんでしょうか?

 実は私の方で月夜野という名…

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