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第8回図書館総合展 市村友一アエラ編集長講演採録(1) 「雑誌」と「ネット」のメディア融合

2006年12月15日

■「AERA」ってどんな雑誌?

 「『雑誌』と『ネット』のメディア融合」というテーマは、それがわかればこんなに楽なことはないという大変難しい問題です。いきなりそこに入っても抽象論になってしまいますので、まずは「AERA」がどんな雑誌かということを説明させていただきたいと思います。

●ライバルは朝日新聞

 「AERA」とはラテン語で「時代」という意味です。命名したのは、全日空の「でっかいどお。北海道」など、数々の名コピーをつくっているコピーライターの眞木準さんで、時代を切り取る雑誌という意味合いが込められています。創刊は1988年の5月、バブルの真っただ中のころです。創刊号の表紙は、ノーベル医学生理学賞受賞者の利根川進さんでした。表紙の写真は創刊以来、ずっと坂田栄一郎さんという肖像写真家の方が撮っています。創刊当初は「ニュース週刊紙」と称していました。雑誌の「誌」ではなく、新聞の「紙」です。要は、新聞と同じように、政治・経済・国際などの硬派ニュースを中心に取り上げるメディアということです。したがって、キャッチコピーは「ライバルは朝日新聞」でした。

●「ざら紙」雑誌と「AERA」。スタイルの違いが記事の違いにもあらわれる

 「週刊朝日」や「週刊ポスト」など、多くの週刊誌は、白黒のザラザラした紙を中のページに使っています。これを我々は失礼ながら、俗に「ざら紙」雑誌と呼んでいます。それに比べて「AERA」は、ツルツルした値段の高い紙を使っており、カラーページの比重も多くなっています。デザインも上質感を持たせており、それによって一定の読者を獲得しています。そのスタイルの違いは、取り上げる記事の違いにもあらわれています。例えば「AERA」では、あまりえぐい事件や猟奇的な話はやりません。どちらかというと、インテリ層というか、知的好奇心の旺盛な人に向けた雑誌なんですね。

●1行コピーはだれがつくっているのか

 これについては、いつも質問が出ますので、あらかじめお話ししておきます。「AERA」の中吊り広告の1行コピーは、世間的にはオヤジギャグと言われていますが、もともとは10年以上前、92年に中吊り広告のレイアウトを大幅に変えたときに、「下にキャッチーなコピーを入れよう」ということで始まったものです。眞木準さんが作った1回目はすごく品のあるコピーだったのですが、そのレベルのコピーをずっとつくれるわけもなく、いつの間にかダジャレギャグになっていき、今や毎週、オヤジギャグということになっています。だれがつくっているかというと、デスクが1人か2人、毎週、ウンウンうなって考えています。具体的にどう考えていくかというと、まずニュースの言葉を平仮名にするんですね。それを見ながらいろいろ考えていると、言葉が組み合わさり、立派なオヤジギャグができ上がるわけです。

●特集記事と最新ニュースの組み合わせ。ニュース週刊誌は見出しが勝負

 「AERA」の中身については、どの週刊誌でもそうではありますが、特集記事と最新ニュースの組み合わせです。電車の中吊り広告でいいますと、一番右にある大きな見出しが、その号の一番売りの記事になっています。その次が一番左。あるいはAERAの場合は表紙写真の左側です。今日の講演のサブタイトルは「“見出しで勝負”のAERA編集力」ということですが、どの雑誌においても、この見出しをつけるということが編集長の最大の仕事だとも言われています。いかに読者の方に関心を持たれるような見出しをつけるかということが勝負になるということです。

●ライフスタイルへの関心の高まり。時代に応じてかわってきた雑誌の内容

 創刊から18年たち、雑誌の中身も性格も徐々に変わってきています。その一つに、ライフスタイルに対する関心の高まりがあります。創刊号は男女雇用機会均等法がスタートした後で、そのころから女性の社会進出が非常にふえてきました。女性にとって、特に仕事と結婚、出産をどう考えていくかということが切実な問題となり、それに対するヒントを知りたいという声が読者の間で高まってきました。それに従って「AERA」も、硬派な記事に加えて、結婚や出産、子育てと仕事の両立、その手前の段階の恋愛など、「生き方モノ」についての記事もさかんに取り上げるようになり、範囲が広がりました。

 この「生き方モノ」について、「AERA」が非常に売れたテーマがあります。ここ2、3年で言えば、一つは「負け犬論争」。エッセイストの酒井順子さん方が書いた『負け犬の遠吠え』という本から出てきたものです。もう一つは、「ヨン様ブーム」です。ペ・ヨンジュンさんですね。どちらも女性の間で非常に売れました。ただ、我々としては、例えば「ヨン様ブーム」でも女性週刊誌のようにヨン様の行動を紹介するのではなく、彼になぜ日本人女性が熱狂するのかというところにニュースがあるという発想で、一種の社会現象ととらえて書くようにしています。「負け犬」にしろ、「韓流」にしろ、時代を切れるキーワードが出てくると、見出しも非常に生き生きとしてきます。

■雑誌業界の現状とインターネット

 活字離れということが言われて久しいのですが、1995年から2005年までの書籍・週刊誌の販売部数を見てみますと、書籍はそんなには大きく減少していません。ところが、雑誌はものすごい勢いで減ってきています。年間販売部数の推計では、1995年には16億部だったのですが、2005年には9億8000万部です。10年間でざっと40%減ったことになります。部数減が一番激しいのは漫画週刊誌で、「ジャンプ」は1995年、600万部ぐらいだったと思いますが、今は半分以下になっています。週刊誌全体でも漫画誌の低迷が大きいとは思うのですが、一般週刊誌がどんどん下がってきていることも事実です。

 次に企業が出す広告費です。2005年の構成比は、新聞が17.4%、雑誌が6.6%、ラジオが3.0%、テレビが34.2%となっています。これに対してインターネット広告費は4.7%です。ラジオを抜いたのは2004年のはずですので、あっという間に1.5倍の差がついたということです。ちなみに2003年には、新聞が18.5%、雑誌が7.1%だったのに対し、インターネットは2.1%でした。雑誌にとっては売り上げと広告が二大柱ですが、販売部数がどんどん減るとともに、広告もインターネットに脅かされる状況になっているわけです。

■雑誌とインターネットの特性。雑誌とネットはそもそもどこが違うか

 すぐにわかるのは、物理的制約があるかないかということです。雑誌には決められたページしかないのですが、インターネットはほぼ無限です。雑誌に載せられないものをインターネットに載せるということがいくらでも可能になっているわけです。

 信頼性についてはどうでしょうか。雑誌にもあまり信頼性のないものはありますが、市場に出回っている雑誌であれば、信頼性は「中程度〜高」だと思います。それに対してインターネットは、掲示板などに書かれているものには罵詈雑言も多く、信頼性は極めて低い。ところが、最近は非常に信頼性の高いものがたくさん出てくるようになりました。ブログなど、きちんとした人がきちんとした形で情報を発信できるスキームができてきて、非常にレベルが上がってきています。ですから、ネットの信頼性は「低〜高」だと言えると思います。

 次に価値判断の主体です。これがニュースだということをだれが判断するかというと、新聞や雑誌においては送り手側です。「AERA」でいえば、我々編集部が「これはニュースだ」と言って送り出しているわけです。それに対してインターネットには、それこそありとあらゆる情報があるわけですから、どれが大事かを判断するのは受け手側になります。

 次に参加度、つまり一般の人たちがいかに編集作業その他にかかわれるかということです。雑誌ももちろん、毎週たくさん手紙をいただいていますし、アンケートもしていますが、どうしても一部に限られてしまいます。それに対してインターネットは、誰もが書き込める掲示板があり、ブログが広く普及し出してからは、簡単にトラックバックができるようになっています。有名な基本ソフトのリナックスのように、だれでも作業に参加でき、自分のノウハウを提供して一つのソフトウェアをつくり上げるというものもあります。そういう意味では、インターネットは極めてすぐれたツールですし、参加度は極めて高いですね。

 有料か無料かということでは、我々のようなニュース週刊誌は基本的にお金を払って買っていただきます。それに対してインターネットは、もちろん課金する場合もありますが、基本的にタダが当たり前という世界です。ただ、今は雑誌においてもフリーペーパーが広がっており、それも一般週刊誌の販売部数の低下につながっています。

 それから、アクセスへのノウハウです。雑誌は日本語が読めれば十分ですから、全く要りません。インターネットは、パソコンがいじれる程度のノウハウが必要になってきます。

 最後にポータビリティ。雑誌は持ち運びできます。それに対してインターネットでは、携帯電話は持ち運びできますが、パソコンその他の情報端末を持ち歩いている人はまだそんなに見かけません。ですから、ポータビリティがある場合とない場合の二つになります。


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