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産学官連携の背景・経緯

産学官連携とは

昨今、産学官連携という言葉を、良く耳にします。大学をはじめ、多くの高度教育・研究機関は、研究成果の普及、指導的人材の育成や高度先進医療の推進を通じた社会貢献を実現するために、積極的に産学官連携に取組んでいます。そして、最近では、今まで産学官連携に馴染みのなかった人々も、新たに産学官連携活動を始めようとしています。

ここでは、産学官連携活動を始めたい方々に、産学官連携をご紹介します。皆様が産学官連携活動に関する理解を深めるため、あるいは、産学官連携活動への積極的な参加の契機となるための良い参考になれば幸いです。

産学官というのは、具体的に何を指すか

まず、産学官とは、具体的に何を指すかをご説明します。

「産」とは、民間企業やNPO等広い意味でのビジネス(ないしプライベート)活動をする集団を指します。
「産」の研究開発は、経済活動に直接結びついていくという意味で、産学官連携には重要な役割を果たします。

次に、「学」とは、大学、大学共同利用機関、高等専門学校等のアカデミック(国公私)な活動集団を指します。これらの機関は、教育と学術研究を基本的な使命とし、近年では、これらに加えて社会貢献をも使命としています。優れた人材の養成・育成・輩出、未来を拓く新しい知を創造し、人類の知的資産を継承していく等といった意味で、産学官連携には不可欠な役割を担っています。

また、「官」とは、広くは、国立試験研究機関、公設試験研究機関、研究開発型独立行政法人等の公的資金で運営される政府系試験研究機関を指す場合もあります。しかしながら、これらの機関の多くは「学」と同様に機能するものと解釈されることも多く、我が国の科学技術の向上につながる基礎的・先導的政策の構築、具体的な戦略目標に従った研究開発基盤形成や制度改善において重要な役割を担う、国や地方公共団体を「官」と見なすことが一般的と考えられています。

産学官連携は、このように基本的な使命・役割を異にする集団間の連携であり、産学官連携活動に際しては、お互いの保有する使命・役割の違いを充分に理解し尊重しつつ、各々の活性化に資するような相互補完的な連携を図っていくことが極めて重要です。

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産学官連携の歴史的背景

次に、産学官連携の歴史的背景を説明します。
1980年代の日本の産業界は、自動車やテレビなどの工業製品を代表とする、独自の生産技術を基盤に継続的な技術改善を加えながら強固な産業基盤を作り上げ、他国から「日本の時代」といわれるような驚異的な成長を遂げました。この時代、日本製品がアメリカ市場を席巻し、米国は強敵となった日本に対し、産学官の総力を結集して対抗しました。MITが報告書「メイド・イン・アメリカ」を出版し、競争力評議会が「国際競争力と新たな現実」、通称“ヤングレポート”をレーガン大統領に提出して、日本への反撃の狼煙を上げたのが1985年です。

すなわち、レーガン政権は日本の台頭とアメリカの衰退に深刻な危機感を持ち、産学連携と知的財産保護を強化して、ITやバイオなど知識集約型産業の振興に力を注ぎました。これより前は、大学が創出した特許は全て国家帰属だったために、ほとんどの特許が休眠していましたが、特許法が改正されたことにより(バイ・ドール法)、公的資金による研究によって生み出された特許であっても、大学に帰属させることが可能になりました。バイ・ドール法施行以降は、大学の研究成果の事業化や民間企業への技術移転が活発化し、続々と大学発ベンチャーが生まれました。米国のIT産業やバイオ産業の隆盛を支えてきたCisco SystemsやSun Microsystems、Genentechなどは、いずれもこの時代の大学発ベンチャー企業です。このような、産学連携と知的財産保護の強化により、アメリカ経済は息を吹き返しました。

一方、日本の生産技術頼りのビジネスモデルは、欧米の強力な特許保護政策によって次第に力を失い、「加工」や「ものづくり」では、労働コストに勝る中国をはじめとする新興国にじわじわ追い上げられることになってしまったのです。特許によって保護された知的生産で欧米に遅れをとり、ライセンス生産や加工ではアジア諸国に取って代わられるとすると、急速に日本の経済産業の活力は力を失い、将来の日本人の所得や雇用はどこから生まれてくるのか・・・と大きな懸念が抱かれるまでになってしまいました。

ことここに至って、直面する難局を乗り越え、経済を再生するために、遅ればせながら日本でも、産学官連携と知的財産の活用による経済振興政策、すなわち大学を中心とした科学技術立国を国策とする必然性が生じたのです。1995年11月には科学技術基本法が制定され、第1期および第2期科学技術基本計画に基づいて合計38.7兆円の公的資金が大学等の研究に注ぎ込まれました。第3期科学技術基本計画では、さらに21.6兆円が投入され、2011年度から5ヵ年の第4期科学技術基本計画においても、期間中の政府研究開発投資の総額の規模を約25兆円(同期間中政府研究開発投資の対GDP比率1%、GDPの名目成長率平均2.8%を前提に試算)とすることが必要であるとされています。

また、知的財産保護の強化に関しても、1999年に日本版バイ・ドール法(産業活力再生措置法第30条)が制定されました。加えて、2004年には国立大学が法人化され、産学官連携が大学の重要な役割の一つとして位置付けられるとともに、技術移転機構(TLO)に関わる出資制度や、人事・会計等に関わる様々な規制が大幅に緩和され、特許など知的財産を活用した産学連携の活性化が図られました。

さらに、2006年に施行された新教育基本法において、教育・研究に加えて、研究成果の社会還元が、大学の第三の使命として明記され、世界的な知の大競争に勝ち抜くために、日本も本格的な産学官連携時代に突入したといえます。

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日本の産学官連携の発展における重要な段階

産学官連携とは

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産学官連携の意義・期待

IT(情報技術)/ICT(情報通信技術)の進展や様々なインフラの発達により、グローバリゼーションが急速に浸透し、現代社会の競争市場は否応なく世界的規模を想定せざるを得ません。また、持てる資源の「選択と集中」を基本として、社会環境の変化に対して迅速に対応できる企業経営が必須であるといわれるようになりました。

それぞれの企業では、事業毎の提携戦略の採択の比重を増し、研究開発戦略においては、基礎研究から開発までを自社もしくは関連企業内で完結させる方式から広く外部機関も重用した開発重視の方式へ転換する傾向が見られます。さらに、分野によっては、独創的な基礎研究から製品化のための技術開発に至る過程が短縮する傾向も目立っています。このような状況のなかで、企業は、大学等の高度教育・研究機関を単なる人材供給源とするだけでなく、独創的な研究・技術シーズを創出するためのパートナーとして強く意識するようになってきています。

一方、大学等の高度教育・研究機関では、教育と研究の両面において社会のニーズに応えるような取組みが強く求められるようになってきました。教育の面では、独創性をもつ実践的な専門人材を輩出することが要求されており、同時に、企業経営の変化や産業技術の高度化などに伴った社会人再教育という役割も大いに期待されています。研究の面でも、従来型の学術研究に加えて、社会的問題の解決や研究成果の社会還元を主眼とする研究様式も重要とされるようになってきました。

さらに、世界的規模での競争のなかで、強い国際競争力を確保するため、有望な科学技術への集中的投資や研究成果の効率的な活用に基づく、教育・人材養成の強化、さらには、起業支援等を通じて、国家レベルでのイノベーション・システムの構築に繋げることが重要となってきています。

このように、大学等の高度教育・研究機関は、社会全体の「知」の源泉として不可欠な役割であると認識され、これらの機関から産み出される研究成果等を活かすための産学官連携に、国家的な期待・要請が高まりました。実際に、国が主導する産学官連携強化として、多様な取組みが行われてきています。また、地域レベルでも、地方公共団体による同様の期待から大学等の独創的な技術シーズに基づく起業支援や新産業創出などの取組みが、活力ある自立した地域づくりのための有力な政策として行われています。

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大学の第3使命である社会貢献における産学官連携

「教育」と「研究」を歴史的に本来の大学の使命としてきましたが、社会情勢の変化に伴い、我が国の大学に期待される役割も変化しつつあります。現在では、「教育」・「研究」に加えて「社会貢献」が大学の「第三の使命」として位置づけられています。また、ここでいう「社会貢献」とは、単なる経済活性化だけではなく、地域コミュニティや福祉・環境問題など、広い意味での社会全体(地域社会・経済社会・国際社会等)の発展への寄与を含めて捉えられます。

神戸大学においても、法人化を機に設定した使命・ビジョンである「神戸大学ビジョン2015」において、世界トップクラスの評価を得る「研究機関」・「教育機関」を目指すと共に、卓越した「社会貢献」と「大学経営」をなすことを標榜して、構成員一人ひとりが「真摯・自由・協同」に活動しています。この中でも、産学官連携が大学等の社会貢献における一つ大きな柱と認識されています。

大学の使命・役割は多岐にわたるものであり、各教員の研究テーマや各職員の活動課題は、極めてバラエティーに富んだ多様性・独創性が認められます。産学官連携を意識した職務に従事している場合はもとより、産学官連携を主な職務としない教職員であっても、ご自身の研究成果、活動テーマについて、改めて顧慮し、産業界や国・自治体・地域への接点や展開がある場合には、産学官連携担当部署に連絡・相談してみてください。組織的支援を得つつ研究成果や活動課題の活用方策を探ることが望めるかも知れません。学問分野や業務従事領域の如何に関わらず、各教職員の日常活動が大学の役割として期待されている「社会貢献」に結実する可能性があることを常に認識しておくことも重要です。

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