突然だが、みなさんはどんなときに「年をとったな」と実感するだろうか。同い年のスポーツ選手が引退したとき、ファンだったアイドルがお母さん役で出てきたとき……などなど人によってさまざまだと思うが、鉄ちゃん記者の場合、「新型車両だと思っていた電車が引退すると聞いたとき」が最も加齢を実感する瞬間だ。

 特に衝撃を受けたのが、東京メトロ日比谷線の現行車両「03系」が引退し、2016年度から新型の「13000系」が走り始めるという話。03系が登場したのは1988年で、記者は当時小学生。まだ地下鉄の車両のほとんどが非冷房車だった当時、冷房でキンキンに冷えた車内に感動したものだった。加えて、特急電車くらいにしか付いていなかったLED表示機が全てのドアの上に付き、行き先や次の停車駅を表示する様子は、未来から来た電車を思わせた。その結果、記者の頭のなかでは「永遠の新車」のまま今日に至っているのだ。

 とはいえ、すでに登場から30年近くが経過。確かに後継車両が出てきてもおかしくない時期ではある。ただ、東京メトロでは千代田線の6000系や有楽町・副都心線の7000系など、大規模なリニューアル工事を経て40年以上走り続けている車両も少なくない。なぜ03系は30年足らずで引退してしまうのか。このたび、03系に取って代わる13000系が報道公開されると聞きつけて急行した。

東京都心を走る“浪速”生まれの車両

 2016年度中に営業運転を開始する予定の新型車両13000系。東京オリンピックが開催される2020年度までに44編成を導入し、現行の03系を置き換えるという。外観は、現行の03系をさらに精かんにしたような雰囲気。前照灯は逆L字型の独特なものとなっている。LEDを採用することでデザインの自由度が増したといい、最近の乗用車とも通じるところがある。

現行の03系(左側)よりもシャープな印象を受ける新型車両13000系(右側)
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13000系のLEDを使った前照灯は通勤電車らしからぬ独特なデザイン
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 車内で目立つのが、ドア上の液晶ディスプレイ。東京メトロでは初となる3画面ディスプレイを採用し、ワイド画面であることも相まって存在感がある。画面が増えたことで伝えられる情報量も増え、これまでの日英2カ国語表記から、中国語・韓国語を加えた4カ国語表記に拡大される。

 各車両に1カ所ずつ設けられた車椅子スペースは「フリースペース」と名称を変更。壁に寄り掛かった際に腰をサポートするクッションを取り付け、「大きなスーツケースを持った旅行客にも使ってもらいたい」(東京メトロ車両部設計課長の松本耕輔氏)という。そのほか、無料Wi-Fiサービスも準備中で、インバウンド(訪日外国人)客を念頭に置いたサービスの向上が図られている。座席上の荷棚のガラス部分には江戸切子の模様を取り入れて東京の雰囲気を演出したというが、さすがにこれは外国人には伝わらないかもしれない。

内装は銀座線用の1000系、千代田線用の16000系などと似た雰囲気
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ドア上の液晶ディスプレイは3画面に増え、中国語・韓国語でも表示
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フリースペースには腰当てのクッションが付けられている
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フリースペースの場所は車外からでもよく分かるように表示
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荷棚には江戸切子の模様が入っている
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車内のLED照明は東京メトロ初となる間接照明でまぶしさを緩和
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 細かな改良が加えられたのが、車両と車両の間にある貫通扉。東京メトロでは有楽町・副都心線の10000系車両以降、開放感を重視して全面ガラスドアを採用しているが、「走行中の揺れで開かないようにマグネットで止めていることもあり、重くて開けるのにやや力が必要だった」(松本氏)。そこで今回、ドアの引き手を操作するとアシストレバーが出てきて、軽い力でもドアが開けられるようになっている。

 東京メトロでは初となる機構だが、実は7月から関西のJR阪和線で運行を開始したJR西日本の225系5000番台で採用済み。どちらの車両も鉄道車両メーカーの近畿車両が設計から関わっており、同社からの提案だったという。

 ちなみに座席上の荷棚で使われている金具もJR西日本で使われているものとよく似ており、ちょっとした“関西気分”が味わえる。ちなみに、近畿車両が東京メトロの車両を製造するのは、約15年ぶりだ(当時は前身の営団地下鉄)。

ドアの引き手を手前に引くと、バーも可動
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バーの動きに合わせてドア側面から突起が押し出され、軽い力でドアが開く
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全車両を近畿車両が製造する
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荷棚の金具は固定用のビスが奥まったところに付いており、左右からは見えないようなデザイン
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