黒田東彦(はるひこ)日銀総裁によるマイナス金利政策導入は英断だが、気になることがある。黒田総裁は先の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)最終日の先月23日、資本逃避が止まらない中国について、「私見」と断りつつ、外貨準備取り崩しよりも資本規制強化のほうがよいと示唆した。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)紙は1月26日付社説で、黒田案を引用し「中国には資本規制が唯一の選択肢」だと論じた。国際通貨基金(IMF)も規制容認に傾いている。
黒田発言より2日前、ダボスでは為替投機で知られるジョージ・ソロス氏が「中国のハードランディングは不可避だ」と言い、中国の3兆ドル(約360兆円)規模の外貨準備などを踏まえ、ハードランディングを「乗り切ることは可能」と付け加えた。これに対し中国国営の新華社通信は、「人民元の空売りを仕掛ける極端な投機筋は多大な損失に見舞われるだろう」と応酬した。
黒田総裁がソロス氏に脅かされる中国への支援を意識したかどうかは不明だが、北京の資本規制強化を勧めるのは、共産党指令による市場統制の肯定である。
IMFは中国金融市場の自由化を条件に、昨年11月の人民元のIMF特別引き出し権(SDR)構成通貨への組み込みを承認した。資本規制強化はその約束に逆行するので、北京のほうからはそうしたくても、大っぴらにはできないし、SDR通貨元を擁護したIMFもFTも自由化しなくてもよい、とは言い出しにくい事情がある。黒田発言は図らずもだろうが、北京と親中の国際金融勢力にとって格好の助け舟となった。