夫は乱射された……暗殺されたハイチ大統領の妻、事件後初めて発言
ハイチのジョブネル・モイーズ大統領(53)が自宅で襲撃され死亡した事件をめぐり、妻のマルティーヌ・モイーズ氏が10日、事件後初めて公に発言した。
マルティーヌ氏は、モイーズ大統領は乱射され「蜂の巣状態」になったと説明。襲撃は一瞬のことで、大統領は「一言も話せなかった」と述べた。
大統領暗殺は7日午前1時ごろ発生。銃を持った一団がモイーズ大統領の自宅に押し入り、大統領とマルティーヌ氏を銃撃した。
現場で負傷したマルティーヌ氏は、米フロリダ州マイアミで治療を受けていた。
ハイチの警察当局は8日、大統領暗殺は元コロンビア軍兵士らを中心とした28人からなる暗殺団が実行したとの見方を示している。
「大統領の夢を暗殺しようとした」
マルティーヌ氏は10日、自身のツイッターアカウントに音声メッセージを投稿。今後も夫モイーズ氏の仕事を継続していくと誓った。この音声については、多くの人がマルティーヌ氏本人のものと確認している。
このメッセージでマルティーヌ氏は、事件当時の状況を説明し、「ほんの一瞬で暗殺団が私たちの家に押し入り、夫を銃弾で蜂の巣状態にした」と語った。
「この行いには名前がない。ジョブネル・モイーズのような大統領を、一言も話す機会を与えずに暗殺するなんてことは、情け容赦のない犯罪者にしかできないことだからだ」
マルティーヌ氏はまた、モイーズ大統領が狙われたのは政治的な理由だと示唆。特に、大統領の権限を拡大する憲法改正をめぐる国民投票を例に挙げた。
その上で、名前のない人たちが「大統領の夢を暗殺しようとした」と述べた。
「確かに私は泣いているが、この国をさまよわせるわけにはいかない。ジョブネル・モイーズ大統領の、私の夫の、国民に深く愛され、国民を愛していた大統領の血を無駄にするわけにはいかない」
大統領権限の拡大を模索
モイーズ大統領は2017年から、南北アメリカで最も貧しいハイチで実権を握ってきた。在任中は汚職の批判を浴びていたほか、今年初めには各地で大規模な反政府デモが起きるなど、厳しい時期が続いた。
また、2019年10月に実施されるはずだった議会選挙は延期されており、モイーズ氏が法に基づき実権を維持していた経緯がある。そうした中で、モイーズ大統領は今年9月に憲法改正のための国民投票を計画していた。
今年2月に野党が退任を求めた際、大統領は自身に対する暗殺と政権打倒計画を阻止したと語っていた。
大統領殺害の首謀者や動機はまだ明らかになっていない。なぜ暗殺者たちががモイーズ大統領の自宅に侵入できたのかなど、まだ解明されていない疑問も数多く残っている。警察は週明けにも、モイーズ氏のボディーガードから事情を聴く方針という。
野党政治家の1人は、現在報道されている事件の概要を疑問視している。スティーヴン・ブノワ元議員は9日に出演したラジオ番組で、「大統領を殺したのはコロンビア人ではない」と語ったものの、証拠は提示しなかった。
9日には拘束された容疑者らと、押収された武器の写真が公開された。容疑者のほとんどはコロンビア国籍だが、ハイチ系アメリカ人2人も含まれているという。
これまでに17人が拘束されている。また、3人が警察によって殺されたほか、8人が逃走中。容疑者のうち11人は、台湾が所有する外交施設に押し入ったところを拘束された。
コロンビア政府は、ハイチでの捜査に協力すると発表している。
一方、アメリカ当局はこの2人について確認していないが、一部報道では、米フロリダ州出身の「ジェイムズ・ソラジェス」という35歳の男が拘束されたとされている。
この男はアメリカとカナダの二重国籍を持ち、ハイチのカナダ大使館で警備員を務めていた経歴があるという。
ハイチのメディアは、この男ともう1人、「ジョゼフ・ヴィンセント」という名の男が、通訳として暗殺に関わっていたと報じている。
権力は誰の手に?
憲法は、議会が次期大統領を決定すると定めている。一方、完全に認められているものではないが、憲法の修正案では首相が権力を継承すべきだと示唆されている。
ただ、モイーズ大統領は暗殺前日の5日に、7人目となる新首相にアリエル・アンリ氏を指名したばかりだった。
アンリ氏はまだ就任宣誓をしていないが、自身が政権を握るべきだと主張。一方で、暫定首相を現在務めるクロード・ジョゼフ氏も正当性を主張している。
国連は、年内に大統領選挙が実施されるまで、ジョゼフ暫定首相が国政を担うべきだとしている。
こうした中、9日には議会のあるグループが、ジョゼフ・ランベール議長を新大統領に、アンリ氏を首相に据える案に署名した。
一連の状況は、政治的にも経済的にも長く混迷の中にあるハイチの問題を解決する兆しにはなっていない。