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とり・みきの吹替どうなってるの「ブラボー! テレビ版音源」

 吹替に関する原稿を書くときに、いちばん迷うのが読者層の想定、というか把握です。
 というのも世代によって、またもちろんマニア度によっても「吹替」に対する認識は大きく違ってくるからです。

 Web上には私より吹替に詳しい方はたくさんおられ、よく当方のデータの間違いのお叱りなども受けたりするのですが(ありがたいことです)、しかし読者の大半は、例えばいきなりこちらが「フィックス」などと書いても、その意味も、また私や吹替ファンのフィックスへのこだわりも、ピンと来ない方々であろうと思います。ここでは、そういう人達にも出来るだけ吹替の面白さや歴史を認識してもらおう、という立場で書いていこうと思っています。吹替「評論家」でなく吹替「愛好家」と名乗っているのも、勉強不足の自戒とともに、そういう理由にもよるのです。

※ちなみにフィックス制というのは、映画は違っても同じ外国俳優の声は特定の決まった声優さんが担当するシステムのこと。ただし日本の場合は契約による厳密なものではなく、局やディレクターによっても違ってくる。

『スター・ウォーズ 新たなる希望』
TM & ©2011 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

 さて、一口に吹替といっても、DVDに収録されている「日本語音声」には、大きく分けて以下の3種類があります。
 1. DVD用に新録したもの
 2. 公開時に作った劇場用吹替版を収録したもの
 3. 過去のテレビ放送用の音源を収録したもの

 1のDVDオリジナル日本語版は、新たに制作するという意味では確かに手間もお金もかかるのですが、音声制作時の予算だけを比べれば実はいちばん厳しかったりします。なので、テレビでおなじみのフィックス声優を揃えるのはコスト的にむずかしい。しかし逆にいえば、テレビではなかなか出番の回ってこない若手の重要な登竜門にもなっています。中には吹替に理解のあるスタッフによるオリジナル版ならではの好企画を打ち出す商品もあるので要注意。当然ノーカット。

 2の劇場用吹替版はシネコン時代以降の産物。いわゆるオフィシャル版ですね。オーディオ的にはいちばん計算されて作られており、もちろんノーカット。ただしオフィシャル版であるがゆえ、そつはないが遊びも少ない。また外国のディレクターが関与している作品では、元の俳優の声質や喋りの調子に合わせることが優先され、日本のフィックス声優を無視したキャスティングや、日本語として不自然な台詞まわしになっているものもときおり見受けられます。CGアニメ作品では宣伝優先で芸能人の吹替が多いのもご存知の通り。

 意外に思われる方もいるかもしれませんが、音声制作時の予算がいちばん潤沢なのが3のテレビ版です。それだけフィックス声優も揃っていて贅沢な作りになっています。以下に述べるように慣れ親しんだ名声優の全盛時の声の保存という点では大いに意味があるのですが、テレビ用にカットされたシーンは字幕表示に切り替わる、という欠点もあります。

 いきなり「欠点」などと書いてしまって、FOXの人の困った顔が目に浮かぶようですが、実は個人的にはこの3の吹替が入っているといちばん嬉しかったりします。
 若いユーザの中には「そんな(カット有りの)不完全な日本語版をつける意味ってあるの?」と思われる方もいるかもしれません。確かにユーザ側だけでなく、売る側にも「日本語音声もノーカットでないと収録する意味がない」と考える方がいるのは事実。それもまた一つの見識だと思います。昨今のデジタル技術で驚くくらいに補整されているとはいえ、古い時代の録音はオーディオ的に劣る、というディスアドバンテージもあります。

 しかし、そうした点を踏まえてもなお、過去のテレビ版音源の収録を切望するファンが少なからず存在します。DVD購入の判断材料に「テレビ版音源の収録」を上げる人も多い。先述したように私もその1人です。

 現在のように周りに普通にレンタル店があり、衛星放送やケーブルテレビでノーカットの外国映画が頻繁に流れている環境からは想像しにくいかもしれませんが、80年代の中頃までは、公開の終わった映画というのはリバイバル上映がない限り見るすべはありませんでした。とくに名画座もフィルムセンターもない地方都市では、唯一テレビで放映されるのを待つしかなかったのです。

 つまり我々の世代は、洋画はテレビの吹替版の「洋画劇場」で体験し学んだのです。
 再見どころか、ほとんどの作品が「テレビが初見」でした。

 いまでもときどき字幕派vs吹替派の不毛な論争を目にしますが、比較の条件としては、どちらもノーカット版であることがフェアな前提でしょう。古い時代のテレビ吹替版は、CMによる中断、放送時間に合わせるためのカット、さらには効果音や音楽まで日本側でつけた作品もあり、いわばオリジナルの加工品とみなされ、そもそも比較や評論の対象にすらならなかったのです。

 しかし。

 優れた音声スタッフが制作し演じた吹替版は、それでも原版に負けず劣らずの感動を我々に与えてくれました。
 吹替版しか見られなかったから吹替に甘い、ということではありません。むしろ逆で、だからこそ、出来の悪い翻訳や、違和感の大きいキャスティングや、声優の演技には厳しくなっていきました(オリジナル至上主義の人は、最初から吹替版を下に見ているのであまりそういう考えには至らないと思います)。そうやって自分にとってごひいきのフィックス声優も決まっていったのです。

 今回の紹介商品である『北国の帝王』の小林清志のリー・マーヴィンと富田耕生のアーネスト・ボーグナイン、『華麗なる賭け』の宮部昭夫のスティーヴ・マックィーンと平井道子のフェイ・ダナウェイなどは、私にとってその最たるものです。とはいえ、教条主義的にいつもフィックス優先というわけではなく「この作品ではこの声優さんが合っている」という発見もありました。
 世代論っぽくなりましたが、今だってそういうこだわりをもって吹替版を愛好している人は一定数いると思います。「ジョニー・デップの声は平田広明じゃなきゃやだ」という方は多いでしょう。

 往年のテレビ吹替にはもう少しマニアックな楽しみ方もあります。名をなしている声優さんはそれぞれになんらかの「芸」を持っています。原画の面白さを忠実に日本語で再現してくれるのが吹替の最優先事項ではあるけれど、原典プラスそういう吹替芸自体の面白さも楽しみどころのひとつです。

 とくに家庭用録画機などというものがあまり普及していない時代、テレビ版の吹替はオンエアとともに空中に消えてしまうものでした。当時は日本語版がソフトに「保存」され売られることなど誰も考えておらず、吹替にもそれゆえのゲリラ的な遊びがありました。たとえばバックショットやロングショットで、オリジナルにはない日本語的な言い回しのギャグをつけ加えたりするような。
 もちろん誰でも彼でも面白いわけではなく、原画の魅力も引き出しつつそういうことが出来る名人がいたのです。その双璧が広川太一郎と羽佐間道夫です。『大陸横断超特急』と『スペースボール』は、ぜひとも英語・日本語の両音声を聞き比べていただきたいと思います。

 さて、こうしてテレビ版で感動した作品は、のちに名画座やビデオやDVDでオリジナルにあたり「復習」することになるのですが、だからといってテレビ版の感動が薄れることはありませんでした。我々の世代の洋画ファンが『大脱走』のことを語るとき、それはたいていテレビの吹替版の視聴体験が元になっていたりします。元の映画がそれが制作された時代を映す鏡であるように、その吹替版もまた、忘れることの出来ない個人個人の時代の記憶なのです。

 極論すれば、個人的には多少のカットはあっても吹替はノーカットの新録版より、原画が制作された時代に近い当時のテレビ版で見たい、とすら思います。新録版は現代語に翻訳されすぎているきらいがあり、作品の持つ時代性が出ない場合もあるからです。またフィックス声優のお声や演技も、画面の中の俳優とあまり年齢差のない全盛時の録音をこそ聴きたいと思うのです。元の映画同様、吹替版もまたその時代の「作品」なのですから。

 残念ながら、なにせ商品化の発想自体が当時はなかったので、古いテレビ版音源の管理はしっかりしているとはいいがたく、行方不明のものも多いのが実状です。これからこのサイトで紹介していく商品の幾つかは、担当者があちこち探し回り(ユーザの協力なども得て)部分的な補完を重ねて収録したものもあると聞いています。映画界・テレビ界の貴重な記録であり、財産でもあるわけです。
 往年の「洋画劇場」世代は当時の感動の再体験を、若い世代は新しい発見をしていただければ、と思います。

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