【復刻版】北の湖VS長島茂雄BIG対談…北の湖さん一周忌追悼

2016年11月18日12時0分  スポーツ報知
  • 長嶋茂雄巨人軍終身名誉監督(左)と対談した北の湖理事長(2002年5月)
  • プロ野球日本シリーズの巨人対西武戦で、始球式をする北の湖理事長(2002年10月26日、東京ドームで)

 日本相撲協会前理事長の北の湖敏満(本名・小畑敏満)さん(享年62)が亡くなって20日で一周忌を迎える。北の湖さんを偲んで、2002年に開催された大相撲勝抜優勝戦(6月15、16日・両国国技館)のパンフレットに掲載された巨人軍・長嶋茂雄終身名誉監督とのBIG対談「伝統と改革」を復刻します(抜粋、年齢は当時)。

 ビッグな初対談が実現した。日本相撲協会・北の湖理事長(49)=元横綱・北の湖=と巨人軍・長嶋茂雄終身名誉監督(66)の顔合わせだ。報知新聞社客員の長嶋さんが主催者を代表して国技館を訪問した。

 長嶋「このたびは理事長就任おめでとうございます」

 北の湖「ありがとうございます」

 長嶋「理事長はいくつまで相撲を取られましたか」

 北の湖「私の場合は32になる前に引退しました。横綱の場合は違います。横綱というのは自分の地位が守れなくなったら引退しなければいけません。まだまだ取れると思っていても、やはり、ボロボロになるまでやっちゃいけない。横綱の誇りが大事ですから。代々の横綱が守ってきたものを私の代で汚すわけにはいけませんから。私の場合は横綱を10年半務めましたので」

 長嶋「あっという間に横綱に上がられましたからね。21歳でしたか。プロ野球では、40歳あたりが限界でしょうね。激しさは土俵とは違いますから。野球とは本質が違うでしょ。野球は老いても多少はごまかすというか、技でいけますが、相撲の場合はごまかしがきかないですからね。体力が落ちたら終わりですからね」

 北の湖「自分ひとりしかいませんから、番付が下がっていったらやはり取れませんからね。番付上がるも下がるも自分の努力しかありませんから、結果はすぐ出ます。横綱は休んでしまうと進退問題が出ますから大変だと思います。結果を出して当然。勝って当たり前だけに厳しいですね。プレッシャーは相当のものです。打って当たり前の4番打者もそういう意味では同じでしょう」

 長嶋「僕の場合は長期離脱するようなけがは現役時代にほとんどありませんでしたが、理事長もけがは少なかったでしょう」

 北の湖「引退する2、3年前はひざを悪くして横綱の地位を汚しましたが、横綱張ってから43場所連続で取ってますので、よく7年間も休場なしでやれたなと思います」

 長嶋「理事長が横綱になられた年(昭和49年)に僕は引退してるんですね。北の湖関は無敵でしたね。あの全盛時はすごかったですね。僕は学生時代に寮で栃若(栃錦、初代若乃花)の相撲を無我夢中でむさぼるように見ていたし、相撲の歴史にも若干興味持って突っ込んだ時期もありましたが、横綱・北の湖は僕の中では無敵という存在でしたね」

 北の湖「私も長嶋さんに憧れてました。生まれが北海道でテレビでは巨人戦しかやってないもんですから、子供のころはテレビで拝見させていただいてずっと長嶋さんのファンでした(笑)。遊びと言えば野球とソフトボールしかありませんでしたから、相撲より野球が好きでしたね。内野手を守っていて長嶋さんのハッスルするプレーをよく真似ていましたよ」

 長嶋「それはそれは。理事長はこれから相撲協会の、いろいろ将来に向けてリーダーシップ取られてやっていかれるわけで、いろいろ考えてらっしゃると思うんですが、野球の世界でもファンの動員力をどうやって高めるのか、と数年言われてますが、動員力ではやはり子供の力が大きいと思うんですが」

 北の湖「長期的に考えるとまず小さなお子さんと触れ合っていかないといけません。テレビでもいいですし、国技館に招待して来てもらってもいいんですが」

 長嶋「野球の場合はファン感謝デーがあります。すべての行事が終わりまして、各球団がホームチームで1年間ご支援ご声援ありがとうございましたと、シーズン終わってから最後にやるんですが」

 北の湖「相撲の場合は2か月おきに場所がありますから、年明けにはすぐ初場所ですから、区切り方というか、やる時期が難しいですね。いろんな角度から見て検討はしていきたいとは思ってます」

 長嶋「今の選手はみんなアメリカンスタイルですから、ジムのトレーナーについてトレーニングしている。我々の時代はそういうトレーニングがなかった時代ですけど、けいこの方法論について理事長はどうお考えですか」

 北の湖「私の場合は土俵の中だけ、それ以外だとシコとテッポウだけでした。シコを中心に下半身を鍛えましたから、器具を使ったトレーニングはしなかった。補そく的に取り入れるのはいいですが基本は土俵です。その人によりけりですけど、器具を使って作った筋肉はどちらかというと堅くてけがが多いんですね。野球選手の場合はどうなんでしょうか」

 長嶋「野球の場合はいつも議論になるんです。私の場合は理事長に近い考えで走ったり、実技が中心でした。昔は器具を使わない方がいいとか、水泳したら肩を冷やすからダメと言ってましたが、今は肩をアイシングしたり180度違う考え方になってますね。ただ(ウエート)トレーニングすることがけがの多さにつながると考えがちですが、これは統計的なものであって学術的なものはないんですね。あとは食生活の面はどうですか。昔はちゃんこがすべてだったでしょうが、最近はみんなハンバーガーとか食べてるんでしょう」

 北の湖「今の子はハンバーガーが好きなんですね。私らのときも脂身の多いものが好きでしたから、一概に悪いとは言い切れませんが」

 長嶋「モンゴル出身など外国人力士の活躍もめざましいですね」

 北の湖「ただ外国から来てすぐに新弟子検査を受けられるのではなく、生活、言葉など部屋で3か月ほど研修してから初めて受けてもらうことにしている。生活していやになる者もいるし、そういうことをやってからでないと新弟子検査は受けられないことになっています。そうやって日本に慣れてくれれば、外国人でもいい素材はいっぱいいますね」

 長嶋「日本人であろうがなかろうが、やっぱりお客さんはヒーローを求めて見に来ますからね。ヒーローに憧れてね。このヒーローの育成も手間暇かかるし、そう簡単にはできませんからね。最終的には本人の資質というか素材が大きいと思います。いい力士、いいプロ野球選手なら黙っててもスター街道走っていくんですけど。時代が大スターができにくい環境になっている。世の中の仕組みが時代とともに変わってきて、非常に流れが早い。40年前あたりの我々のときのように、嫌が上でもみこしをかつがれてなったのとは違ってきている。今、こういう時代だからヒーローなんて難しいですよ。よほどのスーパーマンじゃないとね」

 北の湖「最近、プロ野球では有望選手がメジャーリーグに進出していますが」

 長嶋「大きな問題ですね。これはもう何時間あっても話はまとまらないでしょうけど、野球界が抱えている大きな問題ですね。イチローはいなくなった。松井も今どうのこうのと騒がれていて、今、松井も日本からいなくなると野球界は大変な時代を迎えることになる。大きなテーマを抱えて関係各位が必死でやってますけど」

 北の湖「日本の野球とアメリカの野球は違いますか」

 長嶋「アメリカの野球にも歴史、良さはもちろんありますが、半世紀以上培った日本の野球もみんなが評価している面もある。そこはしっかり守ってね、継承して、つないでくれ、という願いがある。私なんかがしょっっちゅうコメントしていることですよ。ところがみんなアメリカに行きたいんだ。一度はアメリカに行きたいんでしょうね」

 北の湖「私もよくメジャーリーグの試合は衛星中継で見ていますし、昭和51年ごろですか、ロサンゼルスに巡業で行ったときに丘の上のドジャースタジアムに見に行ったことがあります。どっちかというと日本の野球の方が子供のときから見て親しんでますから日本の野球の方が好きですね。長嶋さんにはいろんなお立場で日本のスポーツ界を支えていただきたいと思っています」

 長嶋「現代風でアメリカナイズされた面もある野球に比べて、相撲は、日本古来のスポーツというシンボル的な、スポーツのなかった江戸時代から中心だったわけですからね。多少の山あり谷ありでしょうが理事長には協会の隆盛繁栄はもとより、力士の育成、素晴らしい力士を見たい、つまりいい勝負を見たいですね。伝統の中での改革という難しいテーマを克服して頂きたいですね」

 北の湖「何百年も続いている伝統芸ですから、こらから相撲はずっと続いていきますが、常に土俵の充実なくして繁栄はありませんから、土俵の充実を重視して昔の時代から教わって受け継いだものをきちっとしてまた次の時代に渡していく。こういうことは私の使命だと思っています」 (2002年5月に収録)

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