(14)こーれーぐしゅ/壮大なロマン秘める

 ある定食屋で親子の会話が聞こえてきた。
 子「ママ、この、こーれーぐーすって何?」
 母「こーれーぐーすーはね、そばに入れるものよ、辛いよー」
 「こーれーぐーすー」の「ぐーすー」の部分は、正しくは「ぐしゅ」、もしくは「ぐす」と発音する。辞典には「高麗胡椒(こーれーぐしゅ)」とあるが、泡盛にとうがらしをつけた物を、なぜ「高麗のコショウ」と呼ぶのか? 調べていくと、これが壮大なロマンの始まりになった。
 時は一四九二年、コロンブスが西インド諸島到着の際、「とうがらし」と出会う。当時ヨーロッパで辛いと言えば「ペッパー(胡椒(こしょう))」だったので、同じ種だと勘違いし、赤い胡椒の意味で「レッドペッパー」と名付けた。
 ところが胡椒はコショウ科、唐辛子(とうがらし)はナス科で全く違う植物だ。
 このコロンブスの勘違いは世界に広まる。
 コロンブスは自国スペインに持ち帰り、「赤い胡椒」と伝えた。それはヨーロッパ中に伝わる。その後、三つの経路で日本に入って来たと考えられている。
 一つはポルトガル人が伝えた経路。故(ゆえ)に「南蛮胡椒」とも呼ばれた。
 二つ目は、中国から。故に「唐がらし」。
 三つ目は、「高麗(こうらい)(朝鮮)」から伝わったので「高麗胡椒」とも呼ばれていた。
 その勘違いの名残は現在でもあり、福岡県の一部では唐辛子を胡椒と呼ぶ。いわゆる「胡椒(ペッパー)」には「洋胡椒(ようごしょう)」と言うそう。他の九州地域も唐辛子を胡椒と呼ぶ所は多い。
 鹿児島県文化課の方には唐辛子は「こしゅ」と言うと教えていただいた。
 同じくうちなぁにも胡椒だと伝わる。故に「高麗胡椒(こーれーぐしゅ)」。士族は胡椒を「くしゅ」、平民は「くす」と発音。上に語がつくと「ぐしゅ」「ぐす」と濁音になる。
 冒頭の親子の会話では「ぐーすー」「ぐーす」と伸ばし発音しているが、そうすると「古酒(くーす)」のことだと勘違いされてしまうかもしれない。
 また、そばにかける調味料は「高麗胡椒酒(こーれーぐしゅざき)」とでも言うべきで、「こーれーぐしゅ」だけだと、唐辛子その物を指す言葉になってしまう。
(ラジオ沖縄「民謡の花束『光龍ぬピリンパラン日曜日』」パーソナリティー)




琉球新報