ジャンプSQ.
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森田まさのり×小畑健スペシャルインタビュー「クロストーク」

――今回、森田先生と小畑先生の合作が実現した経緯を教えて下さい。

森田「僕の初代担当編集だった茨木編集長がジャンプSQ.を立ち上げるという事で、“毎月7ページくらい描けるでしょ?”って、最初は連載を頼まれていたんです。さすがに連載は無理だけど創刊号に7ページくらいなら…と引き受けたんです。しかし後日、“やっぱり長い読切やんない?原作だけでいいから。絵は小畑先生で、ホント何を描いてもいいから”と、急に畑やん(小畑先生)との合作の方へ話が転がったりして(笑)」

――随分と唐突な展開ですね(笑)。

森田「結局“何を描いてもいいから”というのは、僕にOKさせるためのアレだったんですけど」

小畑「自分の方は、何の前触れもなく茨木編集長からいきなり打診がきて(笑)。元々森やん(森田先生)も自分も、茨木編集長が初代担当編集だったんですよね。だからそれで指名されたのかなぁ…と単純に思っていました。その時点ではまだどんな内容になるのかも決まっていませんでしたが、森やんとの合作は面白そうなので受けさせて頂きました」

――森田先生と小畑先生は「森やん」「畑やん」と呼び合う親しい仲だそうですが、昔から交流があったのですか?

小畑「自分がにわのまこと先生の『ザ・モモタロウ』のアシスタントをしていた頃、森やんが助っ人アシスタントに入ってくれた時があったんです。その際に初めて会ったんですよね」

森田「確かその時って、畑やんが駅まで迎えにきてくれたんだっけ?」

小畑「ええ。でも実はあの時、凄いビビリながら迎えに行ったんですよ。絶対ヤンキーだって思っていたんです(笑)。実際にお会いしたら気さくな人で安心しましたけど」

森田「(笑)その後何度か一緒にアシスタントの仕事をして、畑やんの仕事場にも行った事もあって…。そこで初めて『CYBORGじいちゃんG』の4色原稿を見た時は、“歳下なのにこんな絵を描く人がいるのか!? ”と衝撃を受けましたね」

小畑「かなり昔ですよね。それ以降はお互いに忙しくて、実際に会う事はほとんどありませんでした。顔を合わせられるのって、WJの新年会くらいですかね?でも自分はWJを見て、常に森やんの存在を意識していましたよ。連載中の漫画を見て“また上手くなっている!”とか、勝手にライバル意識を抱いたりして(笑)」

――どこにライバル意識を感じていましたか?

小畑「やっぱり漫画家としての全部の面ですね。そもそも初めて森やんの読み切り『BACHI-ATARI ROCK』を読んだ時から、凄いクオリティの作品だなぁと思っていたんですよ。もちろんその頃は本人を知らなかったですけど、歳が近いだけに、どうしても対抗意識を燃やしてしまうんです。もっとも、森やんが『ろくでなしBLUES』の連載を始めてからは、ただただ圧倒されて平伏しています(笑)」

森田「うん、もうちょっと褒めといて(笑)」

――では森田先生は、小畑先生にライバル意識をお持ちですか?

森田「うーん……ライバル意識というのであれば、僕の方はあまりないですね。というのも、根底に“絵では畑やんに敵わない”という意識がどうしてもあるんです。何か僕も絵が上手いと思われているみたいだけど、アシスタントの背景が上手いから、僕の絵も上手く見えるだけなんだって。僕は絵は駄目です。基本的に上手い人って、畑やんみたいに描くの速いもの。線に迷いがないから。それに比べたら僕なんて遅い遅い。…でも下手って言われたら、それはそれで腹が立つけど(笑)」

小畑「そんな事ないですよ!森やんの描くキャラクターって、凄いリアルで自分はいつも羨ましく思っているんですから」

森田「いやいやいや(笑)。だから今回の合作ではその根底の意識に負けないように、ストーリーの方を一生懸命考えたつもりです」

――今回の合作の際、打ち合わせではどのような相談をされましたか?

森田「編集さんを交えて食事をしながら、まずどんな話にするか案を出しあいましたね。畑やんからは“ストリートものをやりたい”という案が出たんだっけ?」

小畑「自分としては森やんがいつも描いているような、ハードな雰囲気のものを描きたいという気持ちがあったんですよ。映画でいうと『CITY OF GOD』とか、ああいった作品にしたかったんです。主人公の名前も自分の中で何となく決まっていて、革ジャンを着たギャング同士の抗争…といった内容で考えていました。結構自分から一方的に(笑)要望を言っていましたよね」

森田「僕の方はというと、実は合作ではケンカシーンとか避けたかったんですよ(笑)。過去に『ろくでなしBLUES』を描いていたというのもあって、読者に“森田はこういうものばかり描くなぁ”と思われるのもちょっと癪だったので。それにせっかく畑やんに描いてもらうのだから、自分の絵では表現できないものをやりたかったんです」

――他にはどんな案が挙がっていましたか?

森田「一番最初はロボット犬の話を考えていたんです。『AIBO』って犬のロボット製品があるじゃないですか。あれが胸の内に抱える孤独について描こうと思って」

一同「!!(爆笑)」

森田「それはずっと描きたかったテーマなんですけど、自分ではメカは描けない。それこそこの機会に畑やんに描いてもらったら、と思っていたんですけど“何を描いてもいい”と言っていた編集長から駄目出しが出て…(笑)。他に団塊の世代のオヤジを主人公にしたコメディーとか、独裁国家からの脱出をはかる南米の少年の話とか、あるいは昔僕が描いた短編のリメイクとか…」

小畑「南米の少年の話は、お互いに盛り上がって結構いい線までいったんですけどね」

森田「あれは第二稿までネームができたんですけど、なぜかまた“何を描いてもいい”と言っていた編集長から駄目出しが…どないやねん!…で、いっその事全部変えようと思った途端、ぱっと今回の話が浮かんできたんです。やっぱり面白いと思える話って、ほぼ完成形で浮かんでくるもので、結局ネームも2日くらいで上がったの」

小畑「それは…早いですね!」

森田「やっぱり迷っている内は、自分の中でどこか納得がいっていないんだろうね。…で、そうやってできたネームを、そのまま畑やんに託しました。もう絵もコマ割もどんどん変えて下さいって。注文をつけるどころか、好きに描いて欲しかったんですよ。そう言えば畑やんだって、僕のネームを見てから2日後くらいには、絵入りのネームを上げていたんでしょ?」

小畑「森やんのネームを読んだ時、描きたい要素がワーッと頭の中に広がってきたんですよ。で、忘れない内にとにかく出力しておこうと思ったんです。それだけ“あっ、これ描いてみたい!”と感じる点が多い物語だったんですね」

――ちなみにそれはどの辺になります?

小畑「一番はやはりクライマックスのシーンですね。これまでの物語の緊張感が徐々に集約され、あの一点で爆発するところに鳥肌が立ちました」

――ところで小畑先生はネームを託された時、どのように感じましたか?

小畑「いやもう、えらい事になったなぁ…と、引き受けたはいいけれど内心焦りまくっていました!だって森やん、絵も凄く上手いじゃないですか。だからここで自分が敢えて絵を描く意味があるのかなぁ…と、今更ながら不安になっていたりしましたね」

森田「いやいや(笑)。畑やんってとにかくセンスのある人で、ネームのアレンジもうまいじゃない。僕とは全く別の世界観で上がって来るだろうから、単純にどんな形に上げてくれるのか、僕の方はその仕事ぶりにワクワクしていましたね」