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「メガ文字」3月31日スタート

メガモジ読売大懸賞

 3月31日から、読売新聞の紙面に従来より一回り大きい「メガ文字」が登場する。高齢社会の急速な進展、パソコンやゲーム機の普及。お年寄りはもちろん、若い世代も目にやさしい文字を求めている。新紙面は、新聞の新しい時代をひらく。

1951年9月5日 記事全文 1983年10月12日 記事全文 1989年11月10日 記事全文 2001年9月12日 記事全文
・読みやすさ紙上最大
・出版業界も大きく
・大きな文字で脳内活性化

読みやすさ紙上最大

 戦後、読売新聞は1行15字で15段組みの体裁に合わせた小さな文字を長い間使っていた。それが「1倍」と呼ばれる文字。面積は「メガ文字」の半分もない。
 1981年以降、新聞界には3次にわたる文字大型化の波が訪れた。読売新聞も83年、従来よりも面積を一気に26・5%拡大した文字(N字)を採用。同時に1行15字を13字に転換した。89年には、18・5%大きな文字(P字)に変え、1行12字のスタイルとした。
 さらに、高齢社会を見越し、2000年12月には、P字よりも22・4%広い現在の文字(S字)に移行した。併せて50年続いた15段組みを14段組みとしたことで、見やすさ、読みやすさは一層アップした。
 しかし、その後も高齢社会は進む。65歳以上の高齢者人口は昨年9月現在、推計2744万人で総人口の21・5%。人口、割合とも過去最高だ。眼鏡販売大手「愛眼」(大阪市)によると、2007年の調査で、老眼鏡の使用割合は66〜75歳で68・7%、76歳以上が68・4%だった。同社は「今後も老眼鏡の需要は増えていくだろう」と話す。
 文部科学省によると、子供たちの視力も低下傾向にある。同省の2007年度の調査では、裸眼視力が1・0未満の割合は小学生で28・07%で、20年前に比べ8・53ポイントも増えた。中学生では12・75ポイント増の51・17%だった。携帯ゲーム機などを利用する機会の多い若年層にも、「大きな文字が受け入れられている」と出版関係者は指摘する。

出版業界も大きく

 新刊本に加え、以前に出版された文庫本を大きな活字に新装する出版社もある。
 文芸春秋では、時代小説を中心に、一部は通常の文庫よりも大きな活字にして再刊している。「新刊文庫の活字が大きくなっている中で、昔の文庫の文字は小さすぎて若い世代には読みにくい」と出版科学研究所の研究員は解説する。
 新潮社は数年前からドストエフスキーなどの名作古典を重版する際、活字を大きくする作業を続けている。ページをぎっしり埋めた文字を見て尻込みする読書初心者を「逃がさないようにするのも大きな目的」(新潮文庫編集部)で、売り上げも伸びたという。人気作家・村上春樹さんの文庫本を重版する際、活字を大きくした講談社も「活字を大きくした影響もあり、重版の回数が増えている」と手応えを感じている。
 「情報がたくさん詰まっていると、日ごろ本を読まない人には取っつきにくいようだ。弱視の人にも読みやすい、ユニバーサルデザインという側面もある。活字が大きくなる傾向は続くだろう」。松田哲夫・筑摩書房専務の分析だ。

大きな文字で脳活性化 疲れ目防止も

 大文字は目にやさしいだけでなく、体にも脳にもよいことがわかってきた。
 慶応大学医学部眼科の坪田一男教授は「文字が大きくなるにつれて疲れ目(眼精疲労)になりにくくなる」と語る。同教授によると、文字を読んだり、パソコンに向かったりした時の疲れ目の原因の74%は眼球の表面が乾燥するドライアイだ。小さい文字の場合、目を見開いて判読しようとするため、まばたきの回数が減少する。まばたきの減少で眼球表面が乾き、ドライアイになりやすくなるという。
 坪田教授は「加齢によってドライアイになりやすくなる。その意味でも大きい文字は目によい。部屋が暗くても同様なことが言えるので明るいところで文字を読む習慣を」と強調する。
 「大きい見やすい字は肩こり、疲れ目などの不定愁訴のほか、イライラ感を減らす効果がある」と指摘するのは、文字の大きさなどが心理的にどんな影響を及ぼすかを研究する産業技術総合研究所上席研究員の佐川賢さん。文字が大きくなると文字情報を正確に判断する割合は向上し、理解度や満足感も高まっていくと考えられる。
 大きな文字による刺激が脳を活性化するという報告もある。
 脳科学を教育、発達などに生かす研究を進める日立製作所フェローの小泉英明さんは、「ある老人ホームで文字も読めないと思われていた認知症のお年寄りに、字を大きくしたり、老眼鏡の度を調整したりして文章を読ませる学習療法をしたところ、症状が著しく改善した。よく見えるということがいかに脳の活性化に重要であるかがわかる」と語る。

「老眼鏡いらない」

 東京都葛飾区内で、読者にメガ文字を使った新紙面を見てもらったところ、感嘆の声が相次いだ。
 「あら大きい。これなら読めるわね」。白内障の手術を受けてから新聞を読む機会が減っていたという池浦和子さん(70)=写真前列左=は家族とうれしそうに見入った。高校受験を控えた孫の若松由佳さん(15)=同後列左=も「教科書と同じで、大きくて読みやすい文字は大歓迎。進学したらもっと新聞を読みたいと思います」とメガ文字に期待を寄せた。
 これまで、携帯用ルーペを使って新聞を読んでいたという鈴木新吉さん(71)は「この大きさになってくれると、新聞を読むのが楽しみになる」と、新紙面を現在の紙面と何度も見比べた。
 鈴木さんは「いまの楽しみは毎朝、新聞を読むこと。これからは老眼鏡なしで読めるかもしれない」とほほえんだ。

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記者の顔見える記事も

歌人 : 俵万智さん(45)

 「母親が毎朝、新聞が手元にないと不機嫌になるほど、新聞好きの一家に生まれた。活字に長年親しんできた者として、新聞は社会につながる無数の窓だと感じる。活字が大きくなり目にやさしくなるのを生かし、いつまでも大切につき合いたい。インターネット上の書店は探したい本を買う時に便利だが、街の書店は歩いているうちに知らない本にばったり出合う楽しみがある。新聞もページをめくるうち、普段は自分の興味があまりないものを含めて様々な情報に出合う。似たような良さがある。テレビやネットに速報で遅れても、新聞は比較的短時間に、厚みがある文章を載せることができる。新字の登場とともに、記者の顔の見える署名記事に一層期待する」

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目に飛び込んでくる

俳優 : 橋爪功さん(66)

 「レイアウトも含めて新聞にはもっと読みやすくなってほしいと思っていた。時間があれば2時間かけて新聞を隅から隅まで読んでいる。40代になって老眼が進み、新聞の小さな活字を読むのが苦痛になった時期があった。だから、大きい活字への期待は大きい。大きい活字を読むと、字が目に飛び込んでくる感覚がある。文章が自然に頭の中に入ってきて、ニュースを積極的に感じ取れるのではないか。特に高齢者は、活字に飢えていると感じる。テレビの前に座って受け身で情報を得るより、新聞を通して活字の裏側を想像し、頭を使ってニュースを読み解けば、老化防止にも役立つと思っている」

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