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ブロッケン現象の呼び名、「来迎」が先 曽良の随行記から解釈

2017年03月08日 09:13
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 世界で最初にブロッケン現象に名前を付けたのは出羽三山の修験者だった―。山形大農学部客員教授で前田製管(酒田市)相談役の前田直己さん(71)が、先月末に発行された同大の出版物「紀要」(農学)に新説を盛り込んだ論文を発表した。高山で登山者の影が霧や雲に映るブロッケン現象は、ドイツの自然科学者が1780年に初めて論文に呼称を記載したとされる。前田さんは、俳人・松尾芭蕉が奥の細道で1689年に出羽三山に修行に入った際の門人・曽良の随行日記から、出羽三山の修験者が「来迎(らいごう)」と名付けたのが世界初との説を導き出した。

 ブロッケン現象は、ドイツのブロッケン山でよく見られた。前田さんによると、ドイツの自然科学者で牧師のヨハン・エサイアス・シルベルスラグが1780年、論文に記したのが世界初の同現象の呼称と考えられていた。

 県内の山岳信仰や民俗風習などを研究し、全国の名峰への登山経験も豊富な前田さんは、同現象を科学、民俗学双方の視点で分析。1689(元禄2)年夏、芭蕉が奥の細道の旅で出羽三山に修行に入った際の曽良の記述に着目した。

 曽良の随行日記には「雲晴テ来光ナシ」とあった。来光は、高山から見る日の出や、同現象の日本の呼称「御来迎」の意味がある。雲が晴れているのに日の出が見えないとは考えられないため、後者の意味で記したと解釈した。

 さらに、芭蕉と曽良を先導した出羽三山の修験者たちが、月山で見られる同現象を来迎と呼んでおり、1710年刊行の「羽黒山・月山・湯殿山・三山雅集」にも来迎を詠んだ俳句・和歌があることから、曽良に同現象の呼称を教えたのは修験者と推測した。

 国内で御来迎の表記は、1758年ごろに富士山に登った百井塘雨(ももい・とうう)の随筆集「笈埃(きゅうあい)随筆」や、浄土宗僧侶で、来迎の呼称を広めたとされる播隆(ばんりゅう)上人が1828年に北アルプス・槍ケ岳に登った際の記録に登場するという。芭蕉の出羽三山入山からそれぞれ69年後、139年後であることから、曽良の随行日記が国内最初の記録と解釈。来迎の呼称を付けたのも出羽三山の修験者と考えた。

 論文では、同現象で現れる影を欧米で妖怪と考えたのに対し、日本では阿弥陀如来と捉えていた自然観・宗教観の相違点も解説した。前田さんは「古里の先人が欧米より100年近く前に現象に名前を付け、畏敬の念で自然を見詰めていたことは誇らしい」と話した。

 紀要(農学)は山形大農学部の図書館で閲覧できるほか、同大関係のHPでも今後掲載を予定している。

【ズーム】ブロッケン現象 高山に登った際、登山者自身の影が太陽を光源にして霧や雲に映る現象。飛行機の影が雲に映ることや、影の周囲に虹のような光の輪が現れることもある。

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