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 排気量は1.6Lと小さいながらも、最高出力200kW、最大トルク370N・mと自然吸気の3.5Lガソリンエンジン並みの動力性能をたたき出す新型エンジン「G16E-GTS」――(図1)。トヨタ自動車が2020年9月に発売した新型スポーツカー「GRヤリス」に搭載した新開発の内製エンジンだ(図2)。だが、そのすごさは実は動力性能だけではない。冷間始動時の排ガスを大幅に低減する先進技術が、同社の他車種に先駆けて盛り込まれている。

図1 トヨタ自動車が「GRヤリス」の一部グレードに搭載した排気量1.6Lのガソリンエンジン「G16E-GTS」
図1 トヨタ自動車が「GRヤリス」の一部グレードに搭載した排気量1.6Lのガソリンエンジン「G16E-GTS」
インタークーラー付きの直列3気筒ガソリンターボエンジンである。GRヤリスのRC、RZ、RZ“High performance”といったグレードに搭載する。(出所:トヨタ自動車)
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図2 GRヤリス
図2 GRヤリス
(出所:トヨタ自動車)
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 その技術とは、同社がデンソーと共同で新たに開発した空燃比センサーである(図3)。トヨタ自動車第1パワートレーン先行開発部部付主任の林下 剛氏によれば、従来の空燃比センサーは、冷間始動後、氷点下では数分間、25度の常温でも10秒程度は空燃比制御を開始できなかった。新開発品では、それを「3~5秒」に縮められる。その排ガス低減効果は大きく、同氏は「一酸化炭素(CO)と炭化水素(HC)の排出量を、極低温の場合で約50%、25度の場合で20%低減できる」と明かす。

図3 トヨタがデンソーと共同で開発した新しい空燃比センサー
図3 トヨタがデンソーと共同で開発した新しい空燃比センサー
(出所:トヨタ自動車、デンソー)
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 自動車の排ガス規制は、25年以降に一段と厳しくなる可能性が高い。欧州や米カリフォルニア州などが次期排ガス規制に向けた検討を進めているが、排ガスが悪化しやすい冷間始動時や高負荷運転時に対してさらに厳しいものになると予想されている。冷間始動時の排ガスを減らすには、ガソリン車ではエンジンから出るそもそもの排ガスを減らすことができ、かつ三元触媒をより効果的に使える理論空燃比(ストイキオメトリー、ストイキ)での運転に、できるだけ早いタイミングで移行することが重要となる。新開発の空燃比センサーはそこに大きく貢献する。

 両社が開発したのは、冷間始動時に排気管にたまっている凝縮水の影響を受けにくい空燃比センサー、すなわち凝縮水によって壊れてしまったり、精度や応答性が低下してしまったりすることのない空燃比センサーである。従来の同センサーは、被水すると壊れる恐れがあることから、暖機によって凝縮水が蒸発または減少するまではセンサーに通電できなかった。新開発のセンサーでは、凝縮水が存在していても通電を開始できるため、エンジンが安定して回転し始めたら、即座にストイキ運転に移行できる。