ホームでの初戦の黒星に肩を落とすアントラーズイレブン(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

 不可解なジャッジが、鹿島アントラーズが描いていたシナリオを崩壊させた。29日にカシマスタジアムで行われた、今シーズンのJ1の頂点を決めるチャンピオンシップ決勝第1戦。唐突に鳴り響いたホイッスルが、試合を大きく動かした。

 鹿島、浦和レッズともに無得点で迎えた後半11分だった。右サイドで縦パスを受けた浦和のMF柏木陽介が切り返しから相手をかわし、左足でクロスを入れる。ターゲットはペナルティーエリア内のファーサイドに走り込んできたFW興梠慎三。鹿島の右サイドバック・西大伍が、すかさず間合いを詰める。

「相手をいい場所に入らせない、というのは定石。僕はいままでもああいうやり方で守ってきたので」

 ともにベストのポジションを争う2人の体が接触し、興梠がピッチに倒れた直後だった。家本政明主審が吹いたホイッスルは鹿島のゴールキックではなく、浦和のPK獲得を告げるものだった。現実を受け入れられなかったのか。振り返った西は家本主審を見ながら、両手を大きく広げて抗議した。

「足もかかっていないし、手も使っていない。感覚としてはもちろん(ファウルは)なかったですし、興梠選手もそれはわかっていると思うんですけど」

 サッカーにおいては、一度下された判定は覆らない。ペナルティーエリア内における主審の判定の精度をあげるために、ゴールライン上に配置された追加副審(AAR)に確認してくれ、と鹿島の選手が詰め寄っても家本主審は首を横に振るだけだった。

 その約1分後。慎重にボールをセットし、何度も深呼吸を繰り返した浦和のキャプテン、MF阿部勇樹が大胆不敵にもほぼ真ん中へPKを蹴り込む。右に跳んだ37歳の大ベテラン、GK曽ヶ端準をあざ笑うかのように、緩やかな弾道がネットを揺らした。

 年間総合順位で13もの勝ち点差をつけられた2位の川崎フロンターレを1‐0で撃破し、痛快な下克上を成就させた23日の準決勝後。デイフェンスリーダーの昌子源は、年間総合順位で1位の浦和に挑む決勝のシナリオの一端を、こんな言葉とともに説明してくれた。

「第1戦はホームで戦えるアドバンテージを生かして、アウェイゴールを与えずにしっかりと勝つこと。俺らは特に変わることなく、鹿島らしいサッカーを最後まで貫きたい」

 一発勝負の準決勝と異なり、決勝はホーム&アウェーで勝利数が多いチームが美酒に酔う。1勝1敗のイーブンになった場合は(1)2試合の得失点差(2)2試合のアウェイゴール数――の順で勝敗が決まり、それらも同じだった場合は年間総合順位で上位の浦和に軍配が上がる。