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マンガの力(4) キャプテン翼の「洗脳」(中)

2007年11月11日11時08分

 サッカーのイタリア代表で、ACミランで活躍するガットゥーゾ(29)は少年時代、午後4時半になると草サッカーをやめて家に飛んで帰った。お気に入りのアニメ「ホーリー&ベンジー」(キャプテン翼のイタリア名)が始まるからだ。

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イタリア代表のガットゥーゾ=AP

 「子供のころ、一番好きなアニメだった。ひとつのプレーが長くて、丸一日かかることもあったけど、あれが好きで。最後は代表チームとして外国チームとも戦うだろ。すごく影響を受けた」

 デルピエロ、トッティ、ザンブロッタら06年ドイツ・ワールドカップ優勝メンバーの多くも「翼」ファン。イタリアの24年ぶりの世界一に日本の漫画は少なからず貢献していたことになる。

 作者の高橋陽一は、翼がいま所属するスペインの名門バルセロナの会長の招待を受け、現地の貴賓席で観戦し、選手と交流した経験もある。ライバルである同国のレアル・マドリードの幹部が「なんで翼をうちに入れさせなかったんだ」と怒った話は有名だ。

 高橋はいう。「デルピエロをはじめ、サッカー先進国の人々にも受け入れられたのがうれしい。世界をめざすサッカー少年の夢は、世界共通かもしれませんね」

 漫画好きで有名な元外相、麻生太郎は自著「とてつもない日本」(新潮社)で「日本のマンガやアニメ、ポップス、ファッションなどの若者文化は国境を越えて、世界中の若者の価値観に影響を与えている」と書く。

 ジダン、トッティがサッカーを始めたのは「翼」がきっかけだったことを例に挙げ、「もしかすると日本の首相の名前は知らないかもしれないが、『キャプテン翼』は知っている」(同著)。

 集英社によると、出版権を契約したのは10カ国・地域で翻訳本の累計販売部数は約1000万部。海賊版が出回る国も多く、実際はもっと多くの国で読まれているようだ。

 イラク・サマワでは自衛隊の給水車に「キャプテン・マージド」として人気の翼の絵が描かれたステッカーがはられ、アニメのアラビア語吹き替え版がイラクのテレビ局に無償で提供された。

 07年アジア杯で優勝したイラクで「翼」にあこがれた少年が将来、日本の前に立ちふさがるかもしれない。高橋はいう。「日本を強くする願いを込めて描いたのに、ライバル国も強くしてしまったとしたら……。少し複雑です」〈敬称略〉

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