<この記事を要約すると>
- ビル管理業務の人手不足は大きな課題となっている。とりわけ人的負荷が高い清掃業務は深刻で、以前から人材確保の難しさに直面してきた
- ビル清掃の効率化を図るべくパナソニックと三井不動産が業務用清掃ロボット「RULO Pro」を共同開発。「東京ミッドタウン日比谷」を皮切りに、複数の施設で導入を開始した
- 導入者とRULO Pro開発者の双方に話を聞き、およそ2年に及んだ開発秘話を紐解く
家庭用清掃ロボットは、家事の省力化を支える有能な家電として普及しつつある。このノウハウを産業用途に応用し、ビル清掃の効率化を図るべくパナソニックと三井不動産が業務用清掃ロボット「RULO Pro」を共同開発。「東京ミッドタウン日比谷」を皮切りに、複数の施設で導入を開始した。導入者とRULO Pro開発者の双方に話を聞き、およそ2年に及んだ開発秘話を紐解いていく。
完全自動化ではない、人と協業できるロボットをリクエスト
日本全体で労働力人口の減少が叫ばれる中、ビル管理業務の人手不足は大きな課題となっている。とりわけ人的負荷が高い清掃業務は深刻で、以前から人材確保の難しさに直面してきた。さらに2020年東京オリンピック・パラリンピックを機に都心部では大型ビルやホテルの建設ラッシュが進み、いま以上の清掃スタッフ不足が懸念される。
“人材が定着し、働きやすい環境を整えるためにビルのフロア清掃業務を改善したい”
都心に数多くのオフィスビルを展開する三井不動産では、この問題を解決する方法を探していた。以下に紹介するのは、三井不動産のオファーを受けてパナソニックが業務用清掃ロボット「RULO Pro」を開発した物語だ。
三井不動産の伊藤真司氏は、パナソニックとの共同開発に至った経緯をこう語る。
「昨今の状況を踏まえると、今後、どれだけビルのオペレーションを省人化できるかが鍵を握ります。これまでも一部のビルで試験的に清掃ロボットを採用してきましたが、実稼働になるとコスト面・品質面に見合わないことが見えてきました。そんな中パナソニックと知り合い、タイミングよく業務用ロボットを手がけるとのビジョンを持たれていたため、『ぜひ一緒にやりませんか?』とお声がけしたのがきっかけです」
スタートしたのは2016年。その時点で、ゴールを2018年3月に開業予定の「東京ミッドタウン日比谷」への導入に定めた。商業フロアとオフィスフロアから成る地上35階の複合施設である。誤解のないように説明すると、すべてのエリアの清掃をロボットが担当するわけではない。RULO Proが担うのはオフィス共用部の廊下のみだ。機能を特化したのには確固たる理由がある。
「ロボットと聞くと何から何まで自律的に動く完全な自動化を想像するかもしれません。しかし我々が求めたのは、お客様に対する安全・安心、良質な清掃品質、そして事業継続を可能にするトータルコストです。ロボットが廊下を清掃している間、清掃スタッフはオフィス内部やトイレ、給湯室などの専用部を清掃できます。人間とロボットがそれぞれ協働しながら効率よく作業することを目的としたのです。それゆえ、シンプルなロボットが理想でした」(伊藤氏)
「ほかの清掃ロボットの検証で得た問題点を吸収して、開発の礎としました」と話すのは三井不動産の江崎正東氏だ。より現場に近い立場で関わってきた三井不動産ファシリティーズの三石英一氏は「それまでのロボットは壁際の清掃まではカバーできず、後から手動で掃除しなくてはなりませんでした。またゴミの回収に手間がかかるなど“ロボットの世話”の付帯時間が多かった。それらの課題を解消したいと考えていました」と続ける。