日本の宇宙開発の力を見せたい…日の丸飛行士座談会(中)
日本人宇宙飛行士の
宇宙開発の蓄積…大西さん「1回途絶えるとゼロになる」
Q:日本人宇宙飛行士が四半世紀続いていることの意味は、なんでしょうか。
大西:宇宙開発の世界はノウハウや経験の蓄積が本当に大事だなあと思うんです。JAXAも「きぼう」(=ISSの日本の実験棟)の運用を10年近くやってますけど、例えば私が宇宙でやったマウスの飼育ミッションは非常に成功を収めたんですが、それを10年前のJAXAに遂行する力があったかというと、僕はノーだと思うんですよね。
(きぼうの)運用が始まってから地上の管制官の人たち、日本人宇宙飛行士が培ってきたノウハウが、今の手順書に結晶化されて、そういったものが生きた上で初めて、大変な苦労をして成し遂げたミッションだったんです。
日本の宇宙開発は確実にレベルアップしていると思うんですけれど、蓄積してきたノウハウは1回途絶えるとゼロになってしまうので、僕はずっとやり続ける意味、重要性は強く感じましたね。
油井:私も日本人宇宙飛行士が積み上げてきた経験を若田(光一)さんから引き継ぎましたので、絶対途切れてないと思うんですね。続けることで、大西さんがマウスの飼育で(すべて生きたまま地球に帰すという)世界で初めての快挙を成し遂げるなど、確実に世界から信頼される技術を培っている。
私は(技術を)若田さんから引き継いで大西さんに渡すことができてホッとしていますけれど、それがずっと続いて日本の有人宇宙開発が発展していくんだろうなと思います。
日本の宇宙プログラム…金井さん「成熟した運用をいかに見せるか」
Q:「アンカー」として金井さんが思うことは?
金井:先輩から聞くと、スペースシャトルで初めて日本人が宇宙に行った頃、「きぼう」を建設した頃は、先進国であるNASA(米航空宇宙局)やロシアの宇宙庁におんぶに抱っこ。向こうのエンジニアから「こんなので日本は本当に宇宙開発できるのか?」と厳しい言葉を言われながら「なにくそ、負けるな」という気持ちで積み上げ、10年近くたって非常に成熟した運用になりました。
NASAがやったことがないような小動物の飼育とか、エアロックからの小型衛星の放出装置とか、「こうのとり」(=日本の無人補給船)のランデブー方式とか、よちよち歩きだった日本の宇宙開発が、今では世界の宇宙開発をリードする成熟した運用ができているのは非常に素晴らしいなあと感じます。
アンカーである私のミッションでは、成熟した日本の宇宙プログラムの運用をいかに国民の皆さんに見せることができるか、25年前の毛利(衛)さんの時代から何が変わったのかをご紹介できればいいな、と感じています。
油井さん「他の国の人たちと仕事をして、間接的に平和に貢献」
Q:日本はISSの運用に年間350億~400億円を拠出しているが、費用に比べて成果が見えてこないという批判もあります。
油井:成果を求められているのを感じているし、非常に多額の予算を使ってやっているプログラムですので、成果を出さないといけないというのはわかっています。ただ私自身は、成果は非常に上がっていると思っていて、私自身の反省なんですけれども、これをうまく「見える化」して国民の皆さんに伝えられていないんじゃないか?と感じています。
実験の成果だけに限らず、お金の使い方も伝わっていないのかなと。一例で言うと、私たちがソユーズで宇宙に行く時は「何十億円かかります」という話が出ますけど、「350億~400億円の中からロシアにお金を払っている」と思っている人が結構いると思うんですよね。
そうではなくて、私たちの予算は基本的に国内の宇宙開発分野に投入していて、ISSの中で日本の技術を使って仕事をする。その(仕事の)対価として、例えばISSに物資を輸送した対価として宇宙に行く権利をもらっているわけで、ロシアにお金を払っているわけではないんです。
要は宇宙開発の技術を育成するために使っていて、(ISSでの)仕事も提供されていますし、技術も発展する。さらに海外から信頼される。自衛官だった私が一番よく言う成果は、他の国の人たちと仕事をすることが、間接的に平和にどれだけ貢献しているのかです。そういうところの成果も見ていただきたいなと思っています。
Q:米国、ロシアなど世界各国の宇宙飛行士が一緒になってミッションを果たすことの意義は感じましたか。
油井:それは本当に強く感じます。私が滞在している時も米国とロシアは政治的には大きな問題がありましたが、宇宙開発の分野では宇宙飛行士だけじゃなくてエンジニアも含めて協力していましたし、一つの大きな目標に向かってお互いの能力や文化を尊重してやってました。
そういうISSの仕事のやり方が地球に還元できれば、地球はもっと住みやすいところになるな、といつも思っていました。