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森達也(作家・映画監督) インタビュー/ぼくらが人を殺すかもしれないというリスク
電車の中で暴行があったとして、人が多ければ多いほど、乗客は見てみぬフリをする。

ーさて、いよいよ本題ですが、今年からはじまる裁判員制度、森さんはこの制度をどのように考えているんですか?

:市民感覚を司法に反映させることが目的と言われていますが、本当に市民感覚を取り入れたいのなら、一審だけではなくて二審、三審でも裁判員制度を導入すべきです。

ー「市民の意見を取り入れたい」という理由で始まる制度が、一審、つまり地方裁判所の裁判だけにしか参加しないというのは、おかしいかもしれないですね。

:そもそも、自分たちの力が足りないから手伝わせるっておかしくないですか? そんな業界が他にありますか? 「だったら裁判官が市民感覚を持てるような教育と仕組みを考えろよ」と思いますけれど。国民の義務をあまりにも安易に考えすぎている。

ーたしかに。裁判は裁判官の仕事ですからね。

:「裁判官のお弁当」(東海テレビ)というタイトルのテレビ・ドキュメンタリーが昨年放送されました。名古屋高裁の裁判官の日常を追うドキュメンタリーです。午前中の公判が終わってから、裁判官が自分の部屋に走って戻るシーンがありました。テレビの昼のニュースで、自分の裁判の報道を必死で見ているんです。今の司法はこれほどに民意を気にしてします。メディアや市民が死刑を求めたとき、これに抗う裁判官はなかなかない。死刑にしないと自分が非難される。本来なら司法は民意と切り離さなければいけないのに、そうなってない。つまり、もうすでに刑事司法は脳死状態なわけです。その意味では、欠陥だらけの裁判員制度だけど、今の刑事司法に対して何らかのカンフルになる可能性はあるかもしれないな、って思っています。

ー世界的には、市民が裁判に参加することは珍しくありませんよね。

:イギリスで始まった陪審員制度はアメリカに広がり、ヨーロッパの多くでは参審員制度です。でも日本の裁判員制度はまだこなれていません。日本人の民意に適合もしていない。まだ走れる状態じゃないんです。でもいきなり高速道路に出ようとしている。ヨーロッパはベラルーシ以外はすべて死刑を廃止しました。陪審員制度は有罪か無罪かを決めるだけで量刑はプロの裁判官が決めます。つまりこれから日本は、世界で初めて被告を死刑にするかどうかの判断を市民が下すシステムを始めるわけです。

ー市民が人を死刑にする決定に関わるっているのは、この国だけなわけですね。死刑存置派(死刑制度を設置したままが良いと思う人々)が多いということを考えると、死刑は増えるかもしれない・・・。

:3年前のデータですが、82.5%が死刑制度に賛成しています。世界的にも死刑がどんどん廃止されている中で、これはかつてない数字です。どこの国でもこんな数字は出てこないでしょうね。この状況で裁判員制度となると、どうなってしまうんだろうとは思います。ただ一方で、裁判員制度で死刑は減るんじゃないかとの予測を唱える人もいますね。

ーなぜですか?

:今まではテレビや新聞などのメディアを通してしか被告の情報を知らなかったわけですよね。でも、実際目の前にその人がいたら、その時に果たして死刑って言えるかどうか、普通の人間だったら言えなくなるんじゃないかとの予測です。

ーなるほど、たしかにそれもあるかもしれませんね。森さんはどう思いますか?

:どっちもあると思っています。危機管理意識に煽られた安易な死刑への志向と、自分の判断で人が死ぬことに対する情のせめぎ合い。全く予想がつかない。

ー個々になれば、暴走しないで情が勝つかもしれない、と。

:これは実験の結果なんですけど、電車の中で暴行があったとして、その電車に人が多ければ多いほど、乗客は見てみぬフリをするんだそうです。

ーえ! それは驚きです。

:でも、乗客が少ない場合だと、そこで声をあげるようになる。そう考えると、裁判員になって、個々に被告と面と向かえば、人は暴走しないかもしれない、っていう見方もできるかもしれない。

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→ 一生抱え続ける悩みを持つリスクがあることをクジ引きで選ぶ。
これはおかしいですよね。

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