Les Essais d'Unevertu

2010年7月4日

成井立歩回顧展@益子Kyohan Six Gallery

Filed under: Essay,芸術 — Vertu @ 11:10 午前
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益子町の共販第6ギャラリーでは、成井立歩(たっぽ)回顧展の会期中です(7月2日~19日)。元来は立歩さんの益子における久しぶりの個展として企画されていたのですが、立歩さんが今年2月に84歳で急逝されたことから、思いもよらぬ遺作展となってしまいました。

3日(土)の午後4時から、同ギャラリーで立歩さんを偲ぶ会が開かれました。多くの関係者が詰め掛ける中、故人の弟で陶芸家の成井恒雄さんもご臨席されました(写真の中央に写っている方です)。

昭和55年度の国画会賞を受賞した赤絵皿です。今回の回顧展をプロデュースした kyohan six gallery のディレクター、藤原郁三先生によれば、立歩さんの赤絵は窯の名前にちなむ円道寺赤絵として、濱田庄司氏の赤絵、芸大系の赤絵と並び称されるものだということ。豪快で奔放な筆さばきは、「益子のピカソ」と呼ばれたほど、その独創性が認められています。

 

雪月花の文字が力強く浮かび上がる赤絵文字皿です。円道寺赤絵の赤が皿の表面で脈動しているような気がします。

躍動感にあふれる赤絵大皿(550,000円)です。弟、恒雄さんの初窯の大皿に立歩さんが43歳のときに絵付けした作品です。

こちらの赤絵皿(60,000円)には細やかな技法が散見されます。無類の酒好きで陽気な性格そのままに、奔放さが持ち味であると誰もが認める立歩さんの作風ですが、繊細さも兼ね備えていることを示す好例です。

こちらの絵皿は「益子のピカソ」と呼ばれた立歩さんの真骨頂が表れているような気がして、私が最も好きな作品です。

弟の名人・恒雄さんでさえ「かなわなかった」と述懐されるほど、ろくろの名人だった立歩さん。その立歩さんも晩年は手びねりに新境地を見出しました。こちらの鉄打並釉手付花器(250,000円)には、豪気な立歩さんその人を映し出すかのような趣があります。

ギャラリー内の上座には立歩さんの遺影と書が掲げられました。急須やとっくりのカリカチュアと思われる図の中に「念ス得」の文字が見受けられます。立歩さんがお亡くなりになられる直前に、弟子の陶芸家、小野さんに託されたものだそうです。小野さんはこの書を「毎日眺めては、元気をもらっている」とおっしゃっていました。

参加者の皆さんが口々に立歩さんの思い出を語りつつ、偲ぶ会はお開きとなりました。一緒に参加していた友人の自然農法家、山川久男さんのご自宅に移って飲み明かすことになりました。益子町から茂木町の高岡に通じる山道で雨に濡れそぼつ一本の合歓の木に出会いました。silk tree という英語名の通りに繊細な花を眺めていると、持ち前の豪放磊落さの中に時折りにじみ出るように顔をのぞかせた立歩さんの繊細な一面が思い出されて、そぼ降る雨の山道でそこはかとなく寂寥感に包まれました。

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