「バシュッ」。ガスバーナーに火が入った。悪夢の火災からほぼ一カ月後の二〇〇二年十月二十六日。西彼香焼町の三菱重工長崎造船所香焼工場で、サファイア・プリンセス(旧ダイヤモンド・プリンセス)の復旧工事が本格的に始まった。 作業は大きく分けて三段階あった。焼損部分の解体・撤去、新造ブロックの建造・搭載、焼け残った部分の汚染除去。 焼損部分の解体では、同造船所立神工作部の修繕部隊が船体をブロックごと切り離し、大型クレーンで外していく。昼夜二交代、ほぼ二十四時間態勢での突貫工事。撤去工事はその年の十二月末までに終えた。 客船建造の責任者である松村栄人同造船所副所長は「船内はぼろぼろに焼け、いつ天井が崩れ落ちてくるかもしれない。危険と隣り合わせの中で修繕部隊は本当によくやってくれた」と大変だった作業を振り返った。 撤去作業と並行して行われたのが燃えた資材の手配。家具や建具など欧州からの輸入が多く、イタリア・ミラノに現地事務所を設置し世界中に発注をかけた。
一連の作業が進む中、造船所が最も頭を痛めたのが汚染除去対策だった。建造継続を許した船主が求めるのは「新品同様の船」。しかし、消火活動で海水を使ったため、船内の床や壁には「潮のにおい」が残り、すすのにおいもする。 そこで船内の装備を全て外し、高圧水流で塗装をはがし、すすがこびりついた部分は欧州の専門業者が洗剤で丁寧にふき取った。においはオゾン脱臭装置で除去し、人の感覚で悪臭を測る「臭気判定士」がにおいが残っていないか何回もチェックした。 「造船所としては未知の作業ばかり。一から造るのより難しかった」。復旧作業の過程をつぶさに見てきた松村副所長はしみじみと漏らした。火災から約八カ月たった〇三年五月二十四日、復旧作業は終了。いよいよ仕上げの内装工事に入った。
2004年5月30日長崎新聞掲載
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