京都市で97年、学校法人理事長の女性を刺殺したとして殺人罪に問われた名古屋市北区尾上町、無職上野剛被告(61)に対する判決公判が22日、京都地裁で開かれた。楢崎康英裁判長は「被告が何らかの形で事件に関与していることは認められるが、全証拠を総合しても起訴事実が合理的な疑いをいれない程度にまで証明されたとはいえない」と述べ、無罪(求刑懲役13年)を言い渡した。上野被告は捜査段階から一貫して「身に覚えがない」と否認していた。上野被告は同日午後、釈放された。
起訴状によると、上野被告は97年3月21日夜、京都市南区東九条河辺町の駐車場で「日整学園」理事長永田綾子さん(当時66)の胸など数カ所を刃物で刺し、約3時間後に死なせたとされた。
公判は、凶器など決定的な物証がないままに進んだ。
検察側は、事件の背景として、当時、永田さんが中国古美術品の兵馬俑(へいばよう)を購入、転売して多額の利益を得る取引を進めており、この取引をめぐってトラブルに巻き込まれていたと指摘。永田さんと対立していたとされる会社社長の下で働いていた上野被告が何者かの指示を受けて殺害したと主張した。
さらに検察側は、上野被告が事件数日前から永田さんを狙っていた▽目撃証言と人相や事件当時の服装が一致する▽事件後、友人に「人生もう終わり」「人を殺すことは金になる」と言っていたと主張し、状況証拠を積み重ねた。しかし、被告に犯行を指示したという人物を特定しなかった。
弁護側は「上野被告に永田さんを殺害する動機がない。検察側は上野被告が犯人であることを前提とし、状況証拠らしきものを、あたかも真の実行犯のように組み立てて創作している」と主張した。
楢崎裁判長は判決で、「目撃証言と食い違うことから、被告が実行犯であることは疑問だ」と述べた。
京都地裁の無罪判決に対し、京都地検の宇田川力雄次席検事は、「検察官は十分な立証を尽くし、有罪を確信していた。予想外の判決に驚いている。判決理由を詳細に検討し、控訴の方向で、上級庁と協議したい」とする談話を発表した。(14:07)
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