第195号 平成19年 6月22日(金)


有識者に向けたアピール(訴え)を発表
 
扶桑社には著作権に関する通知書を送付

   「新しい歴史教科書をつくる会」は、6月21日、文部科学省記者クラブで会見を行い@次期作成教科書の代表執筆者について、『歴史』が藤岡信勝会長、『公民』が小山常実理事に決定したこと、A有識者に向けたアピールを発表し関係者に送付したこと、B扶桑社に対して著作権に関する通知書を送付したことの3件について発表を行いました。記者会見には、藤岡会長、杉原、福地両副会長、小山理事、鈴木事務局長の5名が出席しました。
 有識者へのアピール(訴え)文、扶桑社への通知書はつぎの通りです。


十年かけて育てた『新しい歴史教科書』を絶やさないで下さい!!
−有識者の皆様への訴え−


                                                  平成19年6月21日
                                             新しい歴史教科書をつくる会

 (1)去る2月26日、扶桑社は、「新しい歴史教科書をつくる会」が提起した教科書を扶桑社が引き受けて発行するという従来の枠組みを解消すると文書で通告してきました。扶桑社の思いもかけぬ一方的な通告は、10年にわたって培ってきたつくる会との協力関係を無視し、信義を踏みにじるものです。さらに、困難な中で『新しい歴史教科書』を採択してくださった各地の教育関係者や、現にこの教科書で学んでいる全国の子どもたちに対し、教科書会社としての社会的責任を放棄する行為でもあります。
では、扶桑社は教科書事業から撤退するのかといえば、そうではありませんでした。親会社のフジテレビが3億円を出資して「育鵬社」という名称の教科書専門会社を扶桑社の子会社としてつくり、扶桑社の片桐松樹社長が社長を兼任し、そこから別の教科書を発行するというのです。
つくる会は昨年1月に西尾幹二名誉会長が退任し、他方で4月には八木秀次氏ら一部の理事が辞任しました。しかし、それ以後も、会は正常に活動し、会が分裂した事実もなければ紛争が起こったこともありません。ところが、扶桑社はつくる会には内紛が絶えないから手を引くといいながら、おかしなことに育鵬社から発行する教科書の編集顧問には辞任した八木氏が就任し、歴史教科書の編集の中心には同じく辞任した元理事が座るというのです。
 つくる会が排除され、会を去った人々が教科書を書く。こういうことを日本語では「乗っ取り」というのではないでしょうか。フジテレビ会長の日枝久氏は、初版以来の中心的執筆者が書いた部分は「どんなに金がかかっても書き直す」と発言したと伝えられます。この動きを見ると、フジテレビや扶桑社が「紛争」を引き起こしている当事者であるといってもよいほどです。
 (2)それにしても、すでに教科書があり、再来年4月の検定に申請すれば、特別な追加投資もなしに従来の教科書事業を継続できるのに、なぜ、わざわざ『新しい歴史教科書』を絶版にし、巨額の資金を投入してまで別のグループに書かせなければならないのでしょうか。こうした当然の問いに、扶桑社は「現行の『新しい歴史教科書』に対する各地の教育委員会の評価は低く、内容が右寄り過ぎて採択がとれないから」であると回答しました。
この回答は極めて誤った認識に基づいています。採択が多く取れなかったのは、「右寄り」だったからではありません。今回の改正教育基本法で強調されている日本の伝統の尊重や国を愛する態度など、歴史教育の課題に正当に応えた公正にして妥当な歴史教科書であるのにもかかわらず、あるいはそうであるがゆえに、現在のまさに是正すべき教育界において排除されたのです。
 昨年6月4日付けの週刊誌AERAで教科書づくりの構想を語った八木氏は、「南京事件や慰安婦など論争的な問題」にはこだわらないと言い、「朝日新聞に批判されるようなものにはならないはずですよ」と述べていました。1年以上も前から、現行の『新しい歴史教科書』を「右寄り」と批判することで今回の行動を正当化する準備が行われていたことになります。もとより、誰がどういう内容の教科書を企画しようと自由です。しかし、それは、つくる会の教科書とは別立てで企画されるべきものです。

 (3)つくる会は、設立趣意書の理念を守り、別の出版社を見つけて『新しい歴史教科書』を出し続ける方針をやむなく確定しました。それが会員、支援者、並びにこの教科書で学んでいる子どもたちへの義務であると確信するからです。
 また、『新しい歴史教科書』の一部を再利用することを目論んでいる扶桑社に対し、弁護士を通じ6月13日付けで通告文書を発信しました。まず、著作権は執筆者にあり扶桑社にはないので、「現行版の配給修了をもって御社に対する著作権使用許諾を打ち切ること」を通告した上で、次のように述べました。
 「本教科書は、本文はもちろんのこと、挿絵、写真等の選定からレイアウトに至るまで細部にわたって、通知人らが指示し、これを行ったものであり、御社には、本教科書につき、いかなる意味でも著作権は存在しません。したがいまして、御社の百パーセント子会社として設立される育鵬社が中学校歴史教科書を編集・製作される際には、内容、形式、理念のいずれの面から見ても、本教科書の初版及び改訂版の模倣とは認められないものとされるよう強く要求し、かつ、警告申し上げます。」

(4)さらに今、扶桑社を介してもう一つの動きが進行していることをお伝えしなければなりません。育鵬社の教科書を支援するための「第2つくる会」を結成する準備が進んでいるのです。会の名称は「改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会」(略称・教科書改善の会)で、代表世話人・屋山太郎氏発信の4月5日付け文書には、「今回の扶桑社の決断は、・・・従来より教科書改善運動に関わってきた者の一人として、深甚なる敬意を表する次第です」と書かれています。はじめから大義のない、特定出版社の応援団として知識人たちの運動団体がつくられるというのですから、出版界前代未聞の珍事です。
 「会の主な取り組み」で列挙されている事項も、教科書採択へ向けた幅広い支援ネットワーク構築、採択関係者への健全な教科書採択のよびかけ、など、すべてつくる会が十年来行ってきたことの完全模倣です。八木氏が理事長をつとめる教育再生機構に事務局を置くこの会が発足すれば、いずれつくる会の地方会員の引き抜きや支部組織の切り崩しが始まるでしょう。保守系の教科書運動は大混乱となることが予想されます。このようなことが許されてよいのでしょうか。
「教科書改善の会」への賛同者を募る文書は、すでに広範囲の人々に送られています。この組織はつくる会がその教科書を失って消滅することを大前提にしてつくられるものです。しかし、つくる会は厳然として存在し、毎年5000人の中学生が『新しい歴史教科書』で歴史を学んでおり、他方、育鵬社の教科書はまだ影も形もありません。つくる会の教科書の側に優先権と正統性があります。
 有識者各位におかれましては、このような状況をご賢察賜り、たとえ善意からであっても保守系の教科書運動に混乱をもたらす理不尽な動きに加担する結果とならないよう、賢明に対処されることを切にお願い申し上げます。

 

通 知 書

                                                  平成19年6月13日
株式会社扶桑社
代表取締役片桐松樹様

「新しい歴史教科書(初版)」
代表執筆者 西尾幹二 、同改訂版
代表執筆者 藤岡信勝代理人
弁護士     稲 見 友 之
弁護士     福 本 修 也

拝啓  時下ますますご清祥のこととお慶び申上げます。当職らは、「新しい歴史数科書(初版)」代表執筆者西尾幹二及び同改訂版代表執筆者藤岡信勝(以下、通知人らといいます。)の代理人として、御社に対し、下記の通り通知します。

去る平成19年2月26日,御社通知文書で、通知人らで組織する「新しい歴史教科書をつくる会」(以下,「つくる会」といいます。) と御社との関係を解消する旨通知を受けました。                          
これを受けて通知人らは、「新しい歴史教科書」(以下、「本教科書」といいます。)の初版及び改訂版の代表執筆者として、同書の著作権者一同を代表し、現行版(改訂版)の配給終了をもって、御社に対する著作権使用許諾を打ち切ることを、本書をもってご通知いたします。
本教科書は,本文はもちろんのこと、挿絵、写真等の選定からレイアウトに至るまで細部にわたって、通知人らが指示し、これを行ったものであり、御社には、本教科書につき、いかなる意味でも著作権は存在しません。
したがいまして、御社の百パーセント子会社として設立される育鵬社が中学校歴史教科書を編集・製作される際には、内容、形式、理念のいずれの面から見ても、本教科書の初版及び改訂版の模倣とは認められないものとされるよう強く要求し、かつ、警告申し上げます。
なお,平成19年2月26日に御社から文書回答を受け取った際、片桐杜長が「つくる会」代表に「別の出版社があるならどうぞおやり下さい」と推奨された事実、同年5月17日の会見でも朝倉取締役が、2回目の教科書を3回目もそのまま出すという方法はとらないとし、「それなら、扶桑社として、極論を言えば、どこかの出版社から出してもらいたい」と発言された事実を、ここに確認しておきます。
なお、本件につきましては、当職らが一切を受任しましたので、連絡等は当職ら(担当福本)宛に願います。
                                                     敬具




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