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おかしいと思うことは〈おかしい〉と言うべき

―― ビルマの軍事政権などに対して政治的なことをおっしゃるようになってきたのは、そういう流れの一環でもあるんですか。


言いたいことに関しては常に論理的に言わないといけないと思ってますよ。ただ、90年代後半まではどうも政治的なことを言うのは格好悪いっていう風潮が世間にあったと思うんだよ。僕は湾岸戦争反対の署名にも参加したけど、それを叩く人がいたわけで、そのなかで悩んでる部分もあった。でも、21世紀に入ってから開き直っちゃったんだよ。自分がおかしいと思うことは〈おかしい〉と言うべきだ、と。何でも言うし、運動もしよう。でも、面白いこともやるし、テレビにも出ちゃう。戦後の日本においては、そういうことはちょっとラディカルなことなんですよ。クラブの片隅で偉そうにしてるのもいいけど、もっと反対すべき力ってあるわけだから。

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―― その開き直りっていうのは、9.11がきっかけになったんですか。


いや、直接的なきっかけではないかな。アフガン空爆が始まるっていう時に、大阪のマカオっていうクラブでポエトリーリーディングしてるんですよ。テロを否定するなら戦争も否定しないといけない、戦争を肯定するならテロも肯定しないといけない。そういう倫理のものをね。BAKUはその時のポエトリーリーディングの音源を聴いて僕にオファーしてきたらしいんですよ。クラブ・カルチャーのなかでそういうことを言ったのは、そのマカオの時が最初だった。

9.11にしても、あれはアメリカにとって大きな変化だったかもしれないけど、世界そのものの構造が変化したわけではない。変化したと思わされたらからセキュリティー社会に呑み込まれたんだ。それはアメリカの事情であって、僕らの事情ではない。確かにそれは9.11の時からずっと考えてたことなんだけど。

―― 音楽を通して政治的なことを表現してるところに現在のせいこうさんの活動の面白さがあると思うんですよ。せいこうさんのなかでも音楽の力を再認識されてるところがあるんじゃないですか。


うん、もちろんありますね。単に演説をしている時だって感情に訴えかけるようにやってるつもりだけど、音楽のなかでそれをやる時には二重に引き裂かされた意識というか、〈踊りたい〉っていう意識と〈考えたい〉っていう意識がせめぎ合うわけですよ、僕のなかでもお客さんのなかでも。そういう状態を作り出すのが表現の力だと思う。

一方方向に洗脳してしまうことはある程度可能だと思いますよ。でも、〈後ろのトラックが格好いいから踊っちゃった〉っていうこともあると思うし、その時僕はミュージシャンとも戦えるわけだし、お客さんとの駆け引きもできるわけで、すごく複雑なことができるんだよね。そういうことができる人はそんなにいないと僕も思っているし、そういう表現を作り出していきたいと思ってるんだよ。

―― その〈踊りたい〉〈考えたい〉という感覚ががせめぎ合うのがせいこうさんにとってのヒップホップ?


ヒップホップでもあるし、ソウルでもあるね。だって、マーヴィン・ゲイの"What's Goin' On"にしたって、〈なんで髪の毛が長いだけで弾圧されないといけないんだ?〉って歌ってるけど、曲自体は気持ち良くて踊りたくなっちゃう。そういう感覚は何なんだろう?って思い続けてきたんですよ、僕は。だってさ、マーヴィン・ゲイは"Mercy Mercy Me(The Ecology)"っていうトンでもない歌を70年代に歌ってるわけでさ。この曲の歌詞なんて〈排気ガスに汚染された鳥たちが地面に落ちて死んでいく〉だよ? しかも素敵なソウルに乗せて。そういうシリアスなメッセージと音楽の力を繋ぎ合わせたものをオレがやればいいんだって思うようになったっていうことですよ。

―― じゃあ、音楽をやるモチベーションは80年代と全然違うわけですね。


うん、全然違う。ある程度深まったと思います。今まで聴こえてなかったものが聴こえるようになってきたし。

―― では、80年代に持っていらっしゃった音楽活動に対するモチべーションとは?


単純に新しさ、楽しさってことですね。〈ダンスホールって、ヒップホップって面白いよね、日本語を乗せてみよう!〉っていうこと。だって、それまで誰も納得のいく日本語にしてくれてなかったからね。で、それがある程度見えてきた時に、日本でのヒップホップやダンスホールのあり方がファッションやスタイルに引っ張られていく流れが出てきて、そこに納得がいかなくなって僕は離れてしまったんだけど。

戻ってきた初期衝動

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―― 今年の7月には□□□への正式加入が発表されて大変驚かされたんですが、12月にはせいこうさん加入後初のアルバム『everyday is a symphony』がリリースされますね。


昔は想像もしなかった自分の表現が出てきちゃって、次から次へとセッションをやってる時に、〈□□□で表現をやってみたい〉っていう気持ちが出てきちゃったんですね。ということで、〈オレを入れろ〉とゴリ押しして(□□□に)入ることになっちゃったわけ。

―― 『everyday is a symphony』に収録された"ヒップホップの初期衝動"なんて、タイトルどおりヒップホップに対する初期衝動をそのままブツけたような曲ですね。


そう、ここではどヒップホップをやりたかったんですよ。この曲の歌詞なんてテレビの収録の合間の40分ぐらいの間に書けちゃったんだよね。自分でびっくりすぐるぐらい、本当にサラサラって。この曲では六本木インクスティック※で初めてライヴをやった時のことを思い出しながらラップしてるんですよ。その時は高木完と藤原ヒロシのTINNIE PUNXと僕が出てて、バックがヤン(富田)さんとDUBMASTER X、映像がディー・ライトに入る前のテイ(・トウワ)君。ライヴが始まる前に近田春夫の演説が入るんだけど、これが面白かった。〈お前ら、よく聞け!〉ってさ、本当に演説なんだよ(笑)。その時はね、裏階段で出番を待ってたんだけど、出演者と一緒に指を鳴らす音だけでリハをやってたんだ。その時、〈指を鳴らす音だけでできちゃうヒップホップって強いな〉って衝撃を受けたんだよね。その時の気持ちを今も忘れてないんだよ。

※六本木インクスティック/82年12月から89年7月まで営業していた六本木のクラブ/ライヴハウス。

―― 浄瑠璃も小唄も通過した今だからこそ、80年代のインクスティックの風景を歌えたという面もありますか。


そう! 昔だったら恥ずかしい気持ちもあっただろうし、威張って見られたらイヤじゃん? でも、今回はその時感じた気持ちを素直に書けたんですよ。だから、すごくいいタイミングで書けたなと思って。こういうヒップホップ・アンセムのような曲が□□□から出てくる面白さもあると思うしね。

―― 90年代のせいこうさんだったら、まさかこの曲のようなヒップホップ・アンセムをご自分が歌われるとは思わなかったでしょうね。


思わなかっただろうね。当時の僕は人間国宝たちの声を追いかけていたし、(他のラッパーたちに対して)〈どうぞ、どうぞ〉っていう気持ちだったからね。この曲に関して言えば、(□□□の)康嗣はヒップホップのことも知っていて、なおかつクラブ・ミュージックを通過した音響に対しても意識的だから、単に古いヒップホップ・トラックになってないところもいいしね。だから、僕としてもこのバンドの駒のひとつとしてすごく自由にやれているんですよ。

―― せいこうさんにとっても、音楽に対する初期衝動そのものが戻っているタイミングで□□□と一緒にできたのが大きいんでしょうね。


そうそう。ちょうどいい時期に一緒にできたんだよね。僕はもうひとつDUB FLOWERっていうバンドもやってるんだけど、そっちはダブとレゲエが軸になってるんですよ。僕はダブとレゲエ、ヒップホップ、それとハウスから執筆という行為に関しても刺激を受けてきたんです。つまり、人のフレーズを引用して新しいものを作っちゃったり、廃棄物のようなものから音楽を作っちゃう感覚とかにね。

―― すべての蓄積がすべての表現にフィードバックされていくわけですね。


そうだね。もしかしたら10年後、僕の認識がさらに深まって、今気づいてないことに気づいてるかもしれないんだよ。そう考えるとワクワクするよね! もういい年だから疲れるんだけど。そういうことをフィードバックできる職業にいれるのが光栄だよ。アウトプットがあるからいいけど、なかったら正常じゃいられないよ? ま、オレが正常かどうかは別にして(笑)。とはいえ、今は一般の人だってブログやTwitterがあって、ある程度アウトプットできるわけだからいい時代だよね。

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いとうせいこう

1961年生まれ。小説『ノーライフ・キング』をはじめ、ルポルタージュ、エッセイなど、数多くの著書を発表する。執筆活動を続ける一方、音楽家 としてもジャパニーズヒップホップの先駆者として活躍し、舞台、ライブとあらゆるジャンルにわたる幅広い表現活動を行っている。常に先の感覚を走り創作し 続けるクリエーター。


今年は実験的な音楽と多様なジャンルの要素を盛り込んだブレイク・ビーツユニット〈□□□(クチロロ)〉への加入や、盟友DUB MASTER Xとダブバンド〈THE DUB FLOWER〉を結成し、精力的に 音楽活動を展開している。

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『every day is a symphony』

今年7月にスペースシャワーTV「MUSIC UPDATE」内にて、緊急記者発表を実施、衝撃のいとうせいこう氏加入を電撃発表した□□□が遂に新たな3人組となって初のアルバムを完成させた。
アルバムタイトルにもなっている〈Everyday is a Symphony〉をテーマに、現代に生きる私たちの日常のあらゆる瞬間をメンバー3人が各々の日常と、様々な環境で半年かけて録音、その素材を再構築しレコーディングを実施。フィールドレコーディングという手法を取りながらもマニアックにならないあくまで□□□らしい上質なポップスに仕上げた。
きっとアルバムを聴いたあなたの人生にちょっとだけ重なる瞬間があるはず。そんな是非外に連れ出してあらゆるシチュエーションで聴いてほしいアルバム。それがフィールドレコーディング・オーケストラ=□□□が奏でる『everyday is a symphony』なのでは?

2009年12月2日発売 RZCM-46305 ¥3,000(税込)

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