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任意交渉に「区切り」/土地収用手続き着手へ2004年11月13日
静岡空港の未買収用地について、石川嘉延知事が12日、強制収用に向けた法手続きに着手すると発表した。26日の事前説明会後に国土交通省に土地収用法に基づく事業認定を申請する。同時に、07年春としていた開港予定時期が08年春以降にずれ込む見通しも示した。一方、反対地権者も「これまで通り反対を続けていく」と決意を表明。対立の構図はさらに深まりそうだ。 石川知事は会見の中で、反対地権者の土地を強制的に買い上げることは「心が痛む」と話した。一方で、県内各地から早期開港を望む声が相次ぎ、すでに多くの地権者が用地を提供していることなどを挙げたうえで、「行政責任を全うするには、任意による用地取得に一定の区切りが必要だ」と強調した。 反対地権者との交渉が難航した理由については「それがわかればこんなことにはならない。理解を超えたものが多すぎた」と振り返り、「議会制民主主義による決定をわずか4地権者のことでほごにすることはできない」といら立ちをみせた。 「10月いっぱい」としてきた判断時期が遅れた理由について、土地収用法の条文解釈を国土交通省の公式見解と慎重に突き合わせ、その解釈に基づく様々な準備や見積もりに時間がかかった、と説明。今回の自らの決断を「やむを得ないと県民に支持してもらえると確信している」と力を込めた。 ◇ 静岡空港は、県が設置管理する第3種空港。国が地方空港の新設を抑制する方針を打ち出す直前に設置許可されたことから、神戸空港などとともに「最後の地方空港」とされている。2500メートルの滑走路が1本で、就航路線は北海道、福岡便など国内線4路線、ソウル、北京便など国際線9路線が見込まれている。 ◆反対派、週明けにも抗議行動 知事が強制収用手続きの開始を表明したことを受け、未買収用地の地権者や空港反対派は、これまで以上に態度を硬化させている。 今後、中部地方整備局から事業が認定された場合は、異議申し立てのほか、認定の取り消しを求めて行政訴訟を起こす構えだ。さらに、県収用委員会が収用裁決を下した後も、裁決の取り消しと土地の明け渡しの執行停止を申し立てる方針だ。 ◆「決断に怒り」 反対地権者 「今まで通りのやり方でこれからも戦っていく」。知事が強制収用に向けて事業認定の申請を決断したことで、「空港はいらない静岡県民の会」(島野房巳共同代表)は記者会見を開き、改めて空港建設に反対する姿勢を強調した。 島野代表は「静岡空港は必要性もなければ経済合理性、県民合意もない」と批判。「知事自ら話し合いの道を閉ざした」としたうえで、「どのような抵抗も許されると思っている」と、反対運動を強める姿勢を示した。地権者の松本吉彦さん(60)は「知事の決断には怒りを感じる。石川県政に、力を合わせて本当の民主主義を見せていきたい」と語った。 ◆「決断やむなし」 県商議所連会長 静岡空港建設を推進してきた神谷聰一郎・県商工会議所連合会会長は「開港時期の遅れは、経済効果にも影響する。申請の決断はやむを得ない」とコメントした。 ◆26日島田で事前説明会 事業認定の申請を前に、県は26日午後5時から、島田市中央町の市民会館ホールで、静岡空港の事業目的や内容の事前説明会を開く。対象は地権者など主に利害関係人だが、会場に余裕があればそれ以外の人も傍聴できる。問い合わせは県空港推進室(054・221・3270)へ。 ○広がる対立の構図<解説> 県政の最重要課題と位置付けられてきた静岡空港の未買収用地について、強制収用で取得するため、石川知事が法手続きに向けた着手を表明した。知事は「円満解決の可能性は残されている」とも述べたが、反対地権者は「怒りを通り越した」。根深い対立の構図はさらに広がりそうだ。 3年前、空港の是非を問う住民投票条例の直接請求に約27万人が賛成した。直後の知事選で、住民投票に賛成の立場だった石川知事が3選を果たしたが、住民投票は実現していない。 今夏の参院選では、空港反対を掲げた2候補が敗れたものの、約50万票を集めた。 知事は、今回の決断を「県民に支持してもらえると確信している」と述べた。推進派の陳情、経済界の決起集会、県議からの早期開港を求める強い声……。こうした動きに後押しされての決断だが、「支持を確信」できるほど県民世論をまとめきれてはいないのが実情だ。 相次ぐ不正公金支出で県政への信頼が揺らぐ中、今回の「苦渋の決断」がもたらす影響が懸念される。 ○収用手続き費用調査など10億円 知事会見、一問一答 知事会見で一問一答の要旨は以下の通り。 ――なぜこの時期に決断を 開港の必要性が高まる中で、任意買収交渉だけに委ねることの不利益を考え、ギリギリに到達したと考えた。 ――国交省は話し合いでと言っているようだが 話し合いを本筋でいきたい気持ちはある。一方で開港時期がいつになるか定まらないと行政責任を全うすることにならない。苦渋の決断だった。 ――10月中の決断がずれ込んだ理由は 土地収用法の条文を解釈するうえで、所管省庁の公式見解の確認作業と、ある期間に必要な作業ができるかの見積もりに手間取った。 ――土地収用をした場合、開港時期は「年単位」でずれこむのか ――間に合うように申請できなかったのか この期に及んでも強制収用に慎重論を唱える人もいるし、国交省自身が強制収用よりも話し合いを望むとアナウンスしていることを考えると、2年前くらいに申請しないと間に合わない。当時はとてもそういう状況になかった。 ――収用手続きにかかる費用は 任意交渉と比べ、物件調査に暇と金がかかる。10億円は下らない。総事業費で節減した分を食いつぶすことになる。 ◇円満解決望む 地元首長 <桜井勝郎・島田市長> 土地収用は致し方ないが、引き続き話し合いの中で円満解決できることを願っている。 <木下勝朗・榛原町長> 現在の状況は好ましい状態ではないと危惧(きぐ)している。任意交渉が閉ざされたわけではないので、県には今まで以上に粘り強い交渉を願いたい。 <田村典彦・吉田町長> 事業認定申請が行われるのは非常に残念。最後まで地権者との話し合いによる解決を強く望む。 ●土地収用、地方空港で4例 90年代以降、用地取得を促進 静岡空港と同じく、地方自治体が設置・管理する第3種空港で、土地収用法の手続きがとられたのは90年代以降に4例ある。 萩・石見空港(島根県)は建設地内の地権者が補償額に難色を示したり、用地の所有者が特定できなかったりで、91年3月に事業認定を申請、同年6月に認定された。県収用委員会への裁決申請は92年2月〜12月にすべて裁決され、県は強制収用で未買収地を取得した。 06年3月の開港をめざす新種子島空港(鹿児島県)でも、用地の任意交渉がうまくいかず、99年6月に事業認定を申請し、同年8月に認定された。県収用委員会への申請は00年2月〜01年5月に27件あり、15件が01年3月〜02年2月に裁決、用地約13ヘクタールを強制的に収用した。残りの12件は強制収用の手続きの途中で任意買収が成立した。 このほか、滑走路延長の際に用地の所有者が特定できなかったために申請した例として、隠岐空港(島根県)と利尻空港(北海道)がある。 ◆静清バイパスで適用 県内事業 土地収用法の手続きがとられた県内の公共事業でよく知られているのは、国道1号静清バイパスの用地交渉問題だ。 ■静岡空港を巡るこれまでの動き ■静岡空港の事業認定申請から強制収用までの流れ
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