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【地球コラム】日の丸オスプレイ「絶対に墜とさない」 米海兵隊基地での陸自訓練初公開

2019年07月28日10時00分

来年3月に予定される日本配備に向けて、陸上自衛隊のオスプレイの機体を点検する隊員=2019年7月11日、米海兵隊ニューリバー航空基地【時事】

◇隊員「従来機より安全」

 遮音ヘルメット越しに響くローターの音。エンジンの熱風が吹き付け、機体の下からかげろうが舞い上がる-。その瞬間、「日の丸オスプレイ」はふわりと宙に浮いた。

 米南部ノースカロライナ州の海兵隊ニューリバー航空基地。陸上自衛隊による垂直離着陸輸送機「オスプレイ」の飛行・整備訓練が続けられている。記者は国内外の報道機関で初めて、日の丸を付けたオスプレイによる訓練の様子を取材した。(米海兵隊ニューリバー航空基地にて、時事通信社ワシントン特派員 出井亮太)

 日本には来年3月の配備が予定されるが、受け入れ候補地ではオスプレイの安全性への懸念などから反対運動が起きている。事故が許されない状況の中、陸自隊員は安全への信頼確保に向けて訓練を重ねていた。

飛行訓練をする陸上自衛隊のオスプレイ=2019年7月11日、米海兵隊ニューリバー航空基地【時事】

◇エンジンの排熱で地面からかげろうも

 ニューリバー基地のだだっ広い駐機場には、数十機のオスプレイが等間隔で並んでいた。端には、機体後部に日の丸とともに「陸上自衛隊」と記された機体が3機。灰色一色の米軍オスプレイとは異なり、機体の下半分は白色の塗装が施されている。自衛隊専用の無線機や衛星通信機器を搭載した以外は、海兵隊仕様のオスプレイと同じ性能を持つ。

 駐機場に出ると、遮音のための耳当てが付いたヘルメットを手渡された。3機のうち1機は飛行訓練の準備のため、回転翼(ローター)を回している。操縦席には米軍兵と陸自隊員。数十メートルの距離に近づくと熱風が吹き付け、エンジンの排熱でコンクリートの地面からかげろうが立つ。

 離陸準備を整えたオスプレイは、ゆっくりと滑走路まで移動。さして助走を取ることもなく、ふわりと宙に浮き上がった。そのまま斜め前方に上昇しながら加速。一定の高度に達すると、ローターとエンジンを搭載した両翼端の「ナセル」を前方に傾け、旋回していった。ヘリコプターと航空機の双方の特徴を持つ機体らしい軽やかな離陸だった。

陸上自衛隊オスプレイの操縦席 ※画像を一部処理してます。=2019年7月11日、米海兵隊ニューリバー航空基地【時事】

◇「オスプレイは航空電子機器の塊」

 日本国内ではオスプレイの安全性に対する不信感が根強い。16年に沖縄県名護市沖の浅瀬に海兵隊のオスプレイが不時着、大破した事故や、オスプレイに批判的な報道がそうした傾向を助長している。それだけにオスプレイの国内運用に向け、米国で整備や操縦の習得を目指す陸自隊員らには大きな重圧がのし掛かる。

 「オスプレイは航空電子機器の塊だ」。整備担当の笹山貴裕一尉は、オスプレイは従来のヘリよりも電子機器が多く搭載されているために配線が増え、整備が複雑だと語る。

 その半面、機体の安全性は大幅に向上した。オスプレイでは一つの機能が故障しても、3重のバックアップがあり、機能不全に陥る可能性は低いと笹山一尉は指摘。操縦士として訓練を受ける竹内亮三佐も「オスプレイの安全性を勉強すれば、前に乗っていた機体には怖くて乗れない」と笑う。

陸上自衛隊オスプレイの機体を点検する隊員=2019年7月11日、米海兵隊ニューリバー航空基地【時事】

 ただ、従来のヘリにはなかった操作が増えた。多用途ヘリUHー1Jの搭乗経験が長い竹内三佐は「UH-1Jでは操縦桿(かん)を前に倒せば前進するが、オスプレイでは操縦桿だけでなく、ナセルの角度を変えたり、ボタンを押したりすることでも前進できる。その分、ボタンが増えており対応するのが難しかった」と語る。

◇緊急時には速度と航続距離の恩恵も

 訓練を重ねるうちに、オスプレイのスピードや機動性の良さに「大きな可能性」を感じるようになったと同三佐。「アナログの携帯電話からスマートフォンに変わったような感覚で、慣れるまでに時間がかかるが、慣れてしまえばより便利だ」と強調する。

 オスプレイはヘリのような垂直離着陸や空中停止もできる一方、航空機のように高速で長距離を飛行することも可能。従来の輸送ヘリと比べ、大幅に移動時間が短縮され、航続距離も伸びた。

陸上自衛隊オスプレイの機体点検=2019年7月11日、米海兵隊ニューリバー航空基地【時事】

 竹内三佐は「例えば日常生活で通勤時間が3分の1になったり、どこかに行くのに3回必要だった給油が1回で済むという便利さを実感したりすることは少ないが、オスプレイが導入されれば、それが現実になる」と指摘。その上で「(離島防衛などの)緊急時にはその速度と航続距離がどれだけの恩恵をもたらすか計り知れない」と述べ、オスプレイ配備が南北に長い日本列島の防衛や災害派遣に貢献すると力を込める。

◇木更津駐屯地に暫定配備の方向で調整

 防衛省は2021年度ごろまでにオスプレイ17機を導入する方針だ。佐賀空港への配備を予定していたが、駐屯地建設予定地をめぐり、地元漁協の合意が得られておらず、千葉県の陸自木更津駐屯地に暫定配備する方向で調整している。

 16年秋に始まったニューリバー基地での陸自隊員の訓練は来年5月でいったん終了する。来年3月には木更津に「臨時航空隊(仮称)」を創設。それに合わせてオスプレイを日本に配備したい考えだ。臨時航空隊は将来、「輸送航空部隊」に改名される見通しだ。

 ニューリバー基地でオスプレイの訓練を担当する海兵隊のコーベイル少佐は「(訓練を受ける)陸自隊員は非常にプロフェッショナル。お世辞ではなく、本当に素晴らしい」と絶賛する。自衛隊がオスプレイを配備することには「これまでオスプレイを操縦してきた中で、この機体がもたらす速度と航続距離、飛行高度、他の装備品との相性に大きな感銘を受けた。日本政府も本土や離島での運用でオスプレイがいかに効果的かを発見するだろう」と語る。

 オスプレイの安全性について問われると、「私はけがをしたくないし、毎晩家族の顔も見たい普通の人間だ。少しでも安全性に懸念があれば、この仕事をしていないよ」と笑顔を見せた。

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