巨人軍V9の5番打者、1971年の日本シリーズMVP男…。そして巨人-阪神伝統の一戦では天国から地獄を見た末次利光さんと、なじみだという東京・吉祥寺のうどん店『武吉志』でお会いしたのだ(肉汁うどんがサイコー!)。
あいさつもそこそこにいきなり激高する俺。
--ムカー! 阪神命の俺はいまだに怒ってるんですよ! 76年6月8日に後楽園で逆転満塁サヨナラホームランを打って、阪神を地獄に突き落としましたよね
「あの時は長嶋監督が興奮して大ハシャギでホームで迎えてね。次の日の新聞はヒーローの僕じゃなくて、長嶋さんしか写ってないんだから参ったねー」
--参ったのはこっちですよ。大体、山本和行さんはフォークを武器にしている投手なのに、何で2-2からストレートを見事に振り抜いたんですか
「彼の強気の性格を読んだんですよ」
--読んで打った? 末次さんは読むタイプの打者
「うん…実は日本シリーズのMVPも読みかな…。阪急(投手陣)がインコースを攻めてくるのを感じたから、シリーズの10日前くらいから山内さん(シュート打ちの名人、山内一弘コーチ)と徹底してインコース打ちを練習して満塁ホームランを打ちましたね」
はぁ…天才長嶋、精密マシンの王、そして読みの末次…。そりゃ巨人強ぇーや!! で、話を天国から地獄へ…。ムヒヒ。
--逆転満塁サヨナラと同じ年の9月7日の甲子園。満塁でライト末次が大落球~。わが阪神0-6から大逆転勝利(拍手)。♪六甲おろしに~バンザーイ!!
「ウーム…。あの時はセカンドが外国人のジョンソンだから、意思疎通ができてなくてね。グラブの土手ではじいてしまって…」
--さらに足でボールを蹴ってしまった
「いや蹴ってないよ」
--いや、蹴りましたよ! この目でハッキリ見てますから
「蹴ってないね」
恐ろしきはプロ野球の地獄かな。その当人の記憶さえむさぼり食ってしまうのだから…。大観衆が、いや日本中のファンがテレビ中継で落球後にボールを蹴った、あのシーンをハッキリと目にしているのに…。
--末次さんは川上監督と同郷の熊本ですよね。起用で忖度(そんたく)ありました
「ない、ない! 逆に厳しかったよ!! 僕は荒川道場の榎本(喜八)さん、王さん、黒江さんの次。4番目の弟子だから日本刀振ったり、かなり鍛えられたから体力には自信があったけど…。真夏の多摩川グラウンドで川上さんが、つきっきりで1時間以上打たされてフラフラ…。ボールが止まってみえたからね」
--えっ、打撃の神様・川上の域に達したんですか
「いや、集中し過ぎて夢遊病者みたいになったんだろうね」
ガクッ! 天国と地獄を見た末次さん(引退もボールが目に当たったのが原因)は最後に胸を張った。
「巨人ひと筋44年。やっぱり僕は天国にずーっといたと思っています」