※日経エンタテインメント! 2023年4月号の記事を再構成
1月に放送を開始したテレビアニメ『UniteUp!』。歌い手として活動する清瀬明良を主人公に、王道3人組アイドルPROTOSTAR、ヒップホップやラップなどを歌いこなす実力派アイドルLEGIT、バンドアイドルJAXX/JAXXの3組が、それぞれの夢を追いかける物語を描く「多次元アイドルプロジェクト」だ。
アニメ(2次元)とキャスト(3次元)が混然一体となり、現実とリンクしながら物語や音楽を伝え、世界に広げていく。ソニーミュージックのグループ会社が枠を超え、新しいIP(知的財産)を生み出すための企画から生まれた『UniteUp!』は、キャラクター開発とアニメ制作をアニプレックスとCloverWorks(『ぼっち・ざ・ろっく!』など)が行ない、楽曲制作をソニー・ミュージックレコーズをはじめ、エピックレコードジャパン、SACRA MUSICなどの音楽レーベルが担当。タレント育成とマネジメントはソニー・ミュージックエンタテインメント RED(※)とソニー・ミュージックアーティスツ、ライブやイベントのコーディネートはライブクリエイティブグループやソニー・ミュージックソリューションズが手掛けるなど、グループを横断するこれまでにない取り組みとなっている。
今回は、プロジェクトの中心人物で『UniteUp!』作品プロデューサーのアニプレックス瓜生恭子氏と、出演者の育成からマネジメントまで取りまとめるソニー・ミュージックエンタテインメント REDの室里香氏、PROTOSTARのA&Rを務めるソニー・ミュージックレーベルズの山﨑里樹氏にどのように制作が行われているか話を聞き、作品が持つ魅力に迫っていく。
昨年10月に歌い手“KIKUNOYU”として活動する主人公・明良が歌う『いいの』の楽曲と映像がYouTubeで先行配信された。それが、1月から始まったアニメのストーリーとリンクし、リアルさを伴って視聴者に届けられた。
アニメも音楽も声優もリンク
室 どの部署が先行しているということはなく、同時に動いていますよね。アニメを作りながらキャストのオーディションもやって、音楽も作っていく。ですから、キャストの特性、例えば作曲や作詞ができる子がいれば劇中の歌を作ったり。音楽チームの方々もキャストと向き合って「どういう音楽が好きなの?」など話をするなかでそれをすくい上げて曲に反映してくれたり。マネジメント側からするとアニメを作っているというよりは、もの作りを一緒にやっているような感覚です。
瓜生 アニメ側も、音楽チームから上がってくる楽曲がとにかくカッコ良くて、楽曲の要素をアニメに反映させるために設定を変更することも。物語と音楽をリンクさせるためにお互い協力しています。同じプロジェクトのメンバーなので、細かいところまで相談しやすいというのはありますね。
山﨑 音楽はレーベルをまたいで作っています。PROTOSTARはソニー・ミュージックレコーズ、LEGITはNeOFRONT、バンドであるJAXX/JAXXはロックバンドを多く抱えるエピックレコードジャパンが主に担当し、アニメとリンクさせることはもちろん、今回3組いる新人アイドルたちを1アーティストとして本気で売ろうとしているんです。また、『いいの』はボカロPのChinozoさん、LEGITの曲はNiziUさんの楽曲制作にも携わるKENTZさん、JAXX/JAXXは佐藤千亜妃さんに作っていただくなど多くのアーティストさんにも参加していただいていて。上司からは「レーベル同士でケンカしろ」と言われているのですが(笑)、それくらい各レーベルが本気で向き合って切磋琢磨しています。
瓜生 アニメで描くのは「王道のアイドルドラマ」です。女性だけでなく男性も見るフィルムを意識して制作しています。CloverWorksがアニメを作ることはプロジェクトの最初から決まっていました。多くのヒット作を作ってきたスタジオですが、劇中のライブシーンなどは実際にアーティストのライブ制作をしている方に話を聞いたり、きゃりーぱみゅぱみゅさんやAimerを担当されている高橋毅さんにステージ衣装デザインとして入っていただくなど、牛嶋新一郎監督もリアリティーを追求しながら、これまでやってなかったことに挑戦しています。
山﨑 音楽としては、2話でPROTOSTAR 3人そろって初めて披露した『吠えろ!クロスファイヤー』は、劇中オリジナル楽曲をFLOWのKEIGOさんとKOHSHIさんに歌っていただき本物感を出せたと思います。6話の『YOU』は歌詞を担当したYU-GさんがPROTOSTARのキラキラ感やフレッシュさを表現してくださり、ポップさとアニメとの親和性がとても高い楽曲になったなと。
瓜生 他にもリアリティーということでは、物語の舞台がソニーミュージックの本社がある市ヶ谷周辺だったり(笑)、出てくるライブハウスも実際にある場所だったり。YouTubeでKIKUNOYUなどの歌ってみた映像を配信したこともそう。
室 現実と3次元が交差していき、アニメも音楽もキャストも一緒に世に出ていきながら作品を大きく広げていきたいと考えています。
キャストも作品と一緒に成長
――2次元と3次元の融合を目指す『UniteUp!』で大きな注目を集めているのが、3次元を担う13人のキャストたちだ。彼らは声優、俳優、アーティストなど出自もバラバラで、明良役の戸谷菊之介は昨年『チェンソーマン』のデンジ役で一躍知られる存在となったが、ほとんどが新人で声優未体験だった。
室 マネジメントもソニー・ミュージックアーティスツやREDをまたいでいて。もともと所属をしていた方もいますし、今回のオーディションで出会った方もいます。みんなこれまで歩んできた道は違いますが、『UniteUp!』で本気で声優をやりたいと集まってくれた方たち。彼らはこの作品のなかで、声優としてはもちろん、歌や実際のライブパフォーマンスまで様々なことをやっていくので、今後もいろんなことができるように、アニメと一緒に成長していきたいと思って我々もサポートしています。
例えば、LEGITで二条瑛士郎役を演じている森蔭晨之介君はアパレル関係をやっていたのですが、オーディションでとても面白くて目を引いて。
瓜生 演技は未経験だったんですよね。でも音響監督さんも彼に興味を持ったみたいで、オーディションなのに本格的に指導を始めたり。それに彼も食らいついてきて選ばれたということも。
山﨑 戸谷君はオーディションで「この子欲しいな」って思ったんです。ジャズをやっていて、表現力もあり声に感情を乗せることが既にできていたので、その部分で心配いらないなと思ったのを覚えています。
室 みんなアフレコレッスンから始めたんです。座学からブースでのアフレコ体験、台本の持ち方、発声など、本番まで半年くらいみっちりとやって。本当に努力していますし、ここから育っていってくれているとオンエアを見ても感じますね。
アニメは3月4日放送の第7話からいよいよ佳境に。明良のアイドルデビューを目指す物語は、どんな結末となるのか。
瓜生 アニメに対してドラマ部分を評価してくださる声は多く届いています。後半に向け盛り上げていきたいです。
山﨑 1年かけていろいろな曲を発表してきて、サブスクリプションでもハマってくれる人が増えているので、このプロジェクトからヒット曲が出るといいなと思っています。YouTubeやTikTokも活用しているので見ていただければ。
室 普段同じソニーミュージックでもこのプロジェクトほどグループ内を横断して何かすることはなかったので、私たちもこんなこともできるんだ、こんな部署があるんだと知ることができて、会社の試みとしてもすごくいいなと。この経験からさらに別の新しいこともできるという広がりを感じています。
瓜生 『UniteUp!』は“つながる”がテーマ。作品内外でいろんなものがリンクしてつながって、やりたいことができました。
(写真/江藤はんな[SHERPA+])