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現代コリア コラム
鬱憤晴らしの「独島は我が地」
佐野 良一 (イベントプロデューサー)

 96年秋の韓国ミュージックシーンはますます若く元気で、「ルーラ」、「クローン」、「ソリッド」、[Ref」…といったラップグループがヒットチャートを独占している。彼らの支持者は圧倒的に中学生・高校生である。

 その人気の一翼を担う「DJドック」という男の子3人グループが夏前に発表したCDアルバムのタイトルは「大韓民国万歳」であり、収録楽曲は「愛国歌(ロックバージョン)」、「独島は我が地(ラップバージョン)」、「故郷の春(ロック)」、「鬱陵島ツイスト(ラップ…「独島」入り)等だ。

 えらく右翼的なアルバムである。但し今年1月に解散した人気グループ「ソテジ・ワ・アイドル」もアルバム3集で、かつて高句麗族が建てた渤海国をテーマにした「渤海を夢見て」という楽曲を発表しているので、こういうのは流行なのかもしれない。

 さて、「DJドック」の歌う「大韓民国万歳」アルバムを聞いて先ず感じたことは、そこから何のメッセージも伝わって来ないということ。このグループが後に発表したアルバム「夏ものがたり」は軽く楽しく聞いたのに、テーマ性を打ち出したかに見える「大韓民国万歳」には全く熱を感じない。中でも「独島は我が地」に関してはラップスタイルになったというだけで、しかもそれは決してこなれていない。しかしこのCDアルバムの目玉はこの「独島…」なのである。その理由は歌詞にある。

 「独島は我が地」は元来1982年、チョン・クァンテの歌唱でヒットした。当時とりたてて竹島問題というのは起こっていなかったと思う。ディスコリズムに乗せた演歌風のメロディと、地理・環境・歴史を具体的に羅列したナンセンスな歌詞によってかなり流行した。84年には人気歌手チョー・ヨンナムも自分のアルバムに収録している(キム・ドヒャンとのデュオ)。

 特に第4節の歌詞が笑わせる。『智証王13年、島国宇山国、世宗実録地理志、50ページ3行目、ハワイはアメリカ地、対馬島は日本地、独島は我が地』と歌う。つまり新羅智証王の時代(513年)、宇山国として独立していた独島あたりの島が新羅領となって、それが世宗大王時代の王朝実録地理志50ページ3行目に記されているという歴史的証拠主張である。 「DJドック」はこの第4節後半の歌詞を『ハワイはアメリカ地、対馬島は知らないけれど、独島は我が地』と歌った。しかも同時収録したナツメロカバー楽曲「鬱陵島ツイスト」(オリジナルは1966、李シスターズでヒット)にも「独島…」を挿入し、その部分では『ハワイはアメリカ地、対馬島は我が地、独島は我が地』とエスカレートしている。

 同アルバムには最後にオリジナル歌手、チョン・クァンテの「独島…」も収録しているが、チョンも再録音したのか、ここでは『対馬島は知らないけれど』に変わっていた。

 このCDアルバムを聴いた後、『現代コリア』96年9月号で田中明先生が連載されている「倭人の呟き(34)」を拝読し、ハタと膝を打った。田中先生はその稿で野平俊水著「韓国・反日小説の書き方」(亜紀書房刊)を引用し、韓国人の日本観を鋭く分析されている。中でも『韓国人にとって、反日は麻薬のようなもの…敵を知り己を知らなければならないのに、韓国人はその作業をサボり、現実の困難に楔を打ち込む代わりに、頭の中で日本をやっつけて鬱憤を晴らしている…』の所に「DJドック」がおどけて歌う『対馬島は我が地』の歌詞こそ正に「鬱憤晴らし万歳!」なのだと納得した。

 このアルバムを聴いた時、「DJドック」の歌唱から何らメッセージを受けなかったのも、そこには蒼ざめる程の屈辱感も血を吐くような憤りも無いからであって、楽曲の数合わせのため冒頭に収録されているロック風「愛国歌」も気の毒なことだ。

 これらは笑い飛ばせばそれで済む一過性のジョークなのかもしれない。何故なら前述したように送り手側(韓国)の鬱憤晴らしであり、また一方的なジャブでしかないからだ。しかもそのジャブに対して受け手側(日本)が決して過敏な反応を示さないことを知った上でのものである。

 考えてみるまでもなく、これらの現象はここ約20年繰り返されている。韓国マスコミ各社の特に新聞における反日報道見出しの激烈さ、それに比して記事内容の粗末さ。いつも例に出して恐縮であるが、ことある毎に新聞紙面を大きく飾る「日本大衆文化受け入れ、時期尚早!」的記事を読んだ後数ページ紙面をめくるだけで、ラジオ・テレビ覧にはNHKの衛星放送番組案内が堂々と載っている。ここで「ああ、あの反日報道は決して日本への警告でも、韓国民への啓蒙でもない、単なる新聞社の忠君愛国心表明なのだ」と気づく筈である。

 その例でゆけば「DJドック」の歌う「独島は我が地」も放って置くに限るのであるが、困ったことには彼らのファンが中学生・高校生である。このCDアルバム「大韓民国万歳」はヒットしなかったものの、同カセットテープがアイドル雑誌「パステル」8月号の特別付録になっているので影響力は充分にある。つまり中・高生の初々しく柔らかい耳に、大変単純で程度の低い、「韓国は正義、日本は邪悪」という図式が、彼らにとって最も抵抗のないラップミュージックに化けて吹き込まれる。これはサブリミナル効果であり、田中明先生が指摘される「麻薬」への序奏である。

 元来国政や外交から最も開放されていなければならない音楽という芸術が、日韓においてはこんなに歪んだものになる。もちろん全体主義国家での芸術はプロパガンダもあるが、韓国はそんな国ではない筈だ。

独島は我が地(DJ DOCのアルバム収載のもの)
(オリジナル 1982 作詞・曲:パク・インホ 歌:チョン・クァンテ)
翻訳 佐野 良一
1、鬱陵島 東南方向船で200里
  孤島ひとつ 鳥たちの故郷
  誰が何と自分の国だと言い張っても
  独島は我が地
2、慶尚北道鬱陵郡道洞山64
  東経132 北緯37
  平均気温12度 降水量は1300
  独島は我が地
3、イカ イイダコ タラ メンタイ カメ
  サケの卵 水鳥の卵 海女の待機所
  17万平方メートル 井戸一つ 噴火口
  独島は我が地
4、智證王13年 島国 干山国
  世宗実録地理志 50ページ3行目
  ハワイはアメリカ 対馬は知らないが
  独島は我が地
  (「対馬は知らないが」のところは歌詞カードには「日本」となっている)
5、露日戦争直後に 所有者の無い島だと
  わざと言い張っては本当に困るんだよ
  新羅将軍異斯夫が地下で泣くよ
  独島は我が地
(ラップ部分)
  タケシマとは何のことだ
  竹島(チュクト)とはこれ又何だ
  独島は厳然と独島だい
  それなのに何で言い張る 言い張るのか
  独島がうちの土地と知らないのか
  壇君お爺ちゃんが怒ったら
  おまえたちはひれ伏してしまうんだぞ
  だからこれ以上言い張るな