糖尿病患者の多くが1日1回以上のインスリン自己注射を行っているが、カプセル型の経口薬が注射薬に取ってかわる日が来るかもしれない。米マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学部の教員で消化管医のGiovanni Traverso氏らが薬剤のカプセル化に関する新技術を開発し、その詳細が「Nature Medicine」10月7日オンライン版に掲載された。

 タンパク質で作られている薬は経口投与すると消化管で分解されてしまい効果を得られない。その一例が糖尿病治療薬のインスリン。インスリンが必要な患者は毎日頻繁に自己注射をしなければならない。この現状に対して新たに開発されたカプセル製剤は、インスリンなどのタンパク質でできた薬剤を小腸まで送り届け、体内に吸収させることができる。Traverso氏によると、小腸の表面積は250m2とテニスコートほどもあり、多くの経口薬が小腸から吸収される。また小腸には痛みの受容体がないことから、小腸をターゲットとすることで痛みを伴わずに針を用いた薬剤投与が可能になるという。

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 このカプセル製剤は長さ30mmほど。胃の強い酸性環境(pH1.5~3.5)に耐えられるようにポリマーでコーティングされている。胃を通過し小腸に達して周囲のpHが約6に上昇すると、カプセルが壊れて中に折りたたまれていた3本のアームが開く。アームにはインスリンを注入する長さ1mmの微細な針が付いていて、小腸の内側の壁に付着する。続いて針の溶解が始まり、それとともにインスリンが注入される。インスリンの注入が終わるとアームはバラバラになって排泄される。

 このカプセル製剤を実際にブタに用いた実験では、注射剤と同じスピードでインスリンを血液中に供給することができ、即座に血糖値が低下することが確認された。この新技術についてTraverso氏は、「患者も医療者も、薬剤を投与する経路として注射より経口を望んでいることが、開発の大きな動機となっている」と述べている。なお、懸念される小腸の穿孔や閉塞については、動物やヒトの組織を用いた多数の安全性試験を行い、有害事象を起こさずに薬物を伝達可能であり、分解後のアームも排泄されることを確認済という。

 今回の実験では、この新技術の実証にインスリンが用いられたが、研究グループによると、ホルモン製剤や酵素薬、抗体医薬、核酸医薬、ワクチンなど、他の薬剤にも応用できる可能性があるとしている。Traverso氏は、「さらに大きな影響を及ぼし得る活用法を見いだすべく、共同研究者らと緊密な連携を取り合っているところだ」と、現状と展望を語っている。

[HealthDay News 2019年10月8日]

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(タイトル部のImage:Romolo Tavani -stock.adobe.com)