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長野弘子のネットライフのすすめ 24 No. 694 January 17, 2003

共有することから生まれた「クリエイティブ・コモンズ」
~デジタル時代にふさわしい著作権のかたちとは?~

長野 弘子
 今、著作権システムを変えようとする新たな試みがオンラインで進行しつつある。一時期ブームを巻き起こした音楽ファイル交換ソフト「ナップスター」のように、映像や音楽などのコンテンツを無償で自由に利用できるというものだが、実際にうまく機能するのだろうか。目まぐるしく変化するデジタル時代の著作権について考えてみた。


■コンテンツを著作権料なしで提供

 スタンフォード大学のローレンス・レッシグ法学教授が提唱したプロジェクト「クリエイティブ・コモンズ」は、コンテンツの使用を非商業目的の場合に限り著作権料なしで認めるというもの。ユーザーはサイト上で自由に作品を探し、それらを無償で使うことができる。たとえば、地域のダンスグループがパフォーマンスに使うための楽曲を探したり、NGOや学術団体のウェブサイトに写真や映像などを掲載する場合、通常ならば著作権の所有者に問い合わせてコンテンツの使用許諾を取り、使用料を支払わなければならない。  

しかし、クリエイティブ・コモンズのライセンスを使えば、これらのコンテンツを著作権料なしで利用することができる。ただし、利用者はクリエイターの名前を明示する必要がある。コンテンツを自由に共有することで、創作活動が活発になるのと同時に、アーティストや音楽家、作家にとっても自分たちの宣伝につながるので一石二鳥というわけだ。技術出版大手のオライリー&アソシエーツ社は、一部書籍をクリエイティブ・コモンズ形式で提供することを発表、また、DJスプーキー、グレイトフル・デッドの元作詞家であるジョン・ペリー・バーロウなど多数のアーティストがこのプロジェクトに参加している。


■きっかけとなった「ミッキーマウス保護法」

 クリエイティブ・コモンズが生まれた背景には、現行の著作権法が企業のビジネス的な側面により重点を置いていることに対して、もう一度「著作権とは何か?」ということを捉え直そうという動きが挙げられる。数年前に話題を呼んだ「ミッキーマウス保護法」がそのきっかけとも言える。  

これは、1998年に改正された著作権法のことで、改正により作者の死後50年間だった著作権有効期間が70年に延長され、企業の場合は著作権登録後75年が95年に延長された。ディズニー社の所有するミッキーマウスの著作権が2003年に消滅してしまうため、改正に踏み切ったと見られている。こうした法改正は初めてではなく、これまでにも数回ミッキーマウスの権利が消滅する前に法改正がなされている。つまり本来ならば、今頃は人々の共有財産となっているはずのミッキーマウスが、いまだに絵や写真をホームページに掲載することさえできないのだ。


■ハリー・ポッターのファンサイトは違法か?

 さらに、デジタル時代に対応するべく制定された法律が、事態をさらに複雑にしている。1998年に制定された「デジタルミレニアム著作権法」(DMCA)は、オンライン上での著作権違反行為を取り締まり、デジタルコンテンツを保護する法律だ。  

この法律が制定されて以来、企業による個人サイトへの苦情が急激に増えた。たとえば、15歳の少女が運営するハリー・ポッターのファンサイトは、ワーナー・ブロス社から運営中止を求められ、ソニーのロボット犬「AIBO」の改造方法をサイトに掲載した愛好家は、掲載を止めるよう要求された。しかし両社はその後、ファンからの大きな反対運動を受け、止むなく中止要求を退けている。  

ほかにも、2001年4月、音楽コピー防止技術「SDMI」の脆弱さを発表しようとしたプリンストン大学の教授が、レコード業界からの圧力を受けて発表を取り止めたり、アドビ社の電子ブックの暗号解読ソフトを開発したロシア人プログラマー、ディミトリー・スクリャロフが逮捕され、勾留されるという事件が立て続けに起きた。  

クリエイティブ・コモンズのレッシグ教授は、こうした技術は、たとえば盲人向けPCに情報をコピーしたり、脆弱性を指摘することで技術改良を促すなど、不可欠な部分があり、やみくもに禁止すべきではないと指摘する。同氏は学術会議で「技術は悪用もされますが、正しい目的にも使えます。米国では、毎日10人以上の子供たちが銃により命を落としていますが、銃を禁止しろとは誰も言わないでしょう」と語った。


■デジタル時代にふさわしい著作権への移行

 企業の利益を守るため、悪意のない個人サイトをも厳しく取り締まる傾向が、ここ数年でさらに激しくなっている。個人やISPへのサイト削除の要求のほか、サイトのトップページ以外のページへリンクを貼ることを禁止する「ディープリンク禁止」など、情報を自由に共有することが難しくなりつつある。  

だからこそ、クリエイティブ・コモンズの新たな情報共有の考え方が重要性を帯びてくる。オライリー社のほか、技術出版大手のプレンティス・ホールも、類似した形式のオープンソース・ライセンスを通じて一部の書籍を出版することを決定している。  

こうした動きが今後どこまで大きくなるのかは分からないが、既存の著作権システムとクリエイティブ・コモンズ方式は決してぶつかり合うものではなく、非商業目的のときにはクリエイティブ・コモンズ方式で無償で提供し、商業目的の使用の場合には、これまで通り使用料を請求するといったことも可能である。  

こうした柔軟な考え方により、デジタル時代にふさわしい著作権の考え方を作り上げていくことが大切だろう。    ◆  

















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